今様シンデレラの結末は-第17話

今様シンデレラの結末は-第17話

作家名:くまあひる
文字数:約1420文字(第17話)
管理番号:r700

17.事実

エントランスに横付けされていた車に乗り込み、「少し付き合ってください」と言った。
明らかに敷居の高そうな店の前に車は止まり、運転手には「自分で帰るから」と告げた。
「晩御飯ご一緒したいんだけど、いいかしら」
「はい」
暖簾をくぐると女将らしき女性が恭しく頭を下げて迎えてくれた。
「予約してないんだけど、お部屋空いてるかしら?」

「はい、すぐにご案内いたします」
と満面の笑みだ。
長い付き合いであり、上客であることがわかる対応だ。
二人にしては広すぎる部屋に通されて女将の方から何か苦手な食材はあるかと聞かれ、特にないと答えると「由紀様と同じものをお持ちします」と言って出て行った。
「改めて、木之内由紀と申します。木之内柊の正真正銘、妹よ」
「高橋美和です」
「お会いするのは二回目ね、どうぞ楽にしてください。創業家と思わず彼氏の妹として接してください、年下ですし」
「あの・・・柊さんは私に滝本と名乗っていたのはどうしてでしょうか」

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「滝本はね、私たちの亡くなった母の旧姓なの。母は亡くなる前に、父に当時秘書をしていた今の母との再婚を勧めたの。幸也・・・専務は今の母の連れ子なの。でもね、今の母はすごく私たちをかわいがってくれたわ。義母という間柄が申し訳なく感じるくらいにね。 父も幸也を実子のように育てたわ。早くに母を亡くしたことはすごく残念だけど、私たちはとても幸せな家庭で育ったのよ。父の意向もあって兄は大学卒業と同時に入社したけど、色眼鏡で見られるのを嫌って滝本姓を名乗り、木之内とは極力関わらないようにしていたの。そんな兄が珍しく幸也を訪ねてきたの、とても怖い顔をして。そこで初めてあの支店で何が起こっているかが分かったの。兄はすごく急いでいて、幸也に人事の刷新と懲罰を求めたわ。二人の兄弟仲はすこぶる良くてホントの兄弟以上だと思えるくらいだけど、専務としての幸也を兄が頼ってきたのは初めてだった。幸也はすぐ内偵調査を始めたわ。あとはあなたの知っている通りよ。部外者である兄の立場から支店人事に口は出せない。だから、兄は最も信頼している日下さんを海外から呼び戻すよう幸也に直訴したの。幸也も驚いていたわ。何事にも動揺しない兄があそこまで必死になるなんて今までなかったことだもの。おっと、しゃべりすぎたわね、詳しくは兄から直接聞いてね。ちなみにあの写真はね、母の誕生日プレゼントを選んでたの。これだけはね、毎回自分たちの目で選んだものを渡してるの。幸也はこの日、社用で来られなかったんだけどね」

それから由紀さんは料理を頂きながら、いろんな話をしてくれた。
柊さんの子供の頃の話や、意外にもカナヅチなことや、ホラーが苦手なことなど、柊さん情報を流してくれた。
最初に持っていた創業家そのものと思えた由紀さんの印象は大きく変わり、聡明で優しい女性だった。

次の日出社すると、筒井さんのデスクからは荷物が消えていた。
日下課長からは一身上の都合でとのみ説明があった。
そして何も知らない犬飼課長は意気揚々と本社に乗り込んで行き、私と柊さんの関係を持ち出し、自分を元の椅子に戻すよう専務を脅迫したらしい。
その場には縁戚の役員と柊さんと由紀さんも呼ばれていたらしい。
後日、日下さんから聞かされた話によると専務はもとより由紀さんの怒りはすさまじく、女子社員へのパワハラと筒井さんを唆し、私に危害を加えたことに警察沙汰も辞さないと詰め寄ったそうだ。
結局役員は依願退職、犬飼課長は懲戒免職となった。

(続く)

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