今様シンデレラの結末は-第1話

今様シンデレラの結末は-第1話

作家名:くまあひる
文字数:約2880文字(第1話)
管理番号:r700

1.不遇な日々

私、高橋美和は今日も晩御飯を兼ねて一人で飲んでいた。
愚痴を聞いてくれる同期も先輩ももういない。
けっこうたくさんいたんだけどな・・・今はひとりぼっち。
奥のテーブルには会社の女子会らしきグループが楽しそうに飲んでいるのが見えた。
同期がいた時は私もあんなふうに上司の愚痴言って盛り上がっていたのに。
今じゃテーブル席に座るのも申し訳ない気分になっちゃう。
マスターや店員さんも顔見知りのこの店はいつも暖かく私を迎えてくれる。
混んできたな、帰ろう。
テーブル席一人で使ってちゃ申し訳ない。
カバンに手を伸ばしたところに、「相席お願いします」と男性の声がした。

「どうぞ、私帰りますから」
「申し訳ない、そんなに嫌でしたか?」
「いいえ、ちょうど帰るところだったので」
声の主をみるとサラリーマン風の男性が立っていた。
申し訳なさそうな顔でこちらを見ているその男性はなかなかのイケメンだ。
「ホントに帰るところだったんです、気になさらないでください」
念を押すようにもう一度言うと、
「もう満腹ですか?よかったら食事付き合ってくれませんか?」
「は?」
「一人で食べるの寂しいじゃないですか、話し相手がいると嬉しいんだけど」
普段なら即お断りしているパターンだが、週末の今日はなんだか人恋しい。
私が返事をためらっていると「さあ座って」とせかす。
「何か飲む?明日は仕事?」
矢継ぎ早に話す男性はメニューと私を交互に見る。
「じゃあ、ビールで」
「僕もビールと枝豆と、うーん野菜も食わなきゃな。何が体にいいのかな。おススメある?」
「根菜類食べたほうがいいですよ、あと緑黄色野菜。ごぼうとかほうれん草とかカボチャとか・・・」
「そうなんだ、じゃあどれがいいか選んでよ」
「え?」
「一緒に食べようよ、あんまり食べてないでしょ?」
「どうしてわかるんですか?」
「グラスが一つと、その器は冷奴と・・・だし巻きかな?この後なんか予定入ってる?」
「いえ、帰るだけですけど」
「じゃあ寂しい独身男のメシにつきあってよ」
そう自虐的に言うけど、その風貌はそう言ってはいない。
精悍な顔つきにそれにふさわしい自信のような強さがある。
「すいません、あんまり食欲ないんです」
「体調悪いの?ゴメン、無理に誘って」
メニュー表から顔を上げた彼はこちらを見て、少ししてちょっと驚いた顔をしていた。
「どうかしましたか?」
「あ、いや・・・」
「お気遣いなく、体調が悪いわけじゃないんです。ちょっとメンタルやられてて」
少し自嘲的に笑うと
「そうなんだ・・・誰かに話すとちょっとは楽になるかもよ」
優し気に微笑むと彼は店員さんを呼んで注文しこちらを向いた。
「そういえば自己紹介しとかないと、滝本柊といいます」
「高橋美和です」
ちょうど運ばれてきたビールで乾杯し、滝本さんはテーブルに所狭しと並んだ料理を食べ始めた。
「美和さんも早く食べて、まだまだ来るから。で、メンタルやられるほど悩んでるの?」
唐突に放たれた一言に箸が止まる。
「俺はたまたま相席になっただけの相手だよ。何言っても後腐れなく聞けるよ、話してみて」
話してどうなるものでもないことを話すのは無駄ではないか。
しかも完全な愚痴だ。
相手に何のメリットもない、ただ不快にさせるだけになってしまう。
でも、誰かに聞いてほしいと縋りたくなるほど今日の私は鬱々としている。
「バカな女だと思って聞いて下さい。私は一般企業に勤める普通のOLです。入社して10年以上たちました。居心地のいい会社で、少し前まで同期も先輩たちもたくさんいました」
「いました・・・?」
「皆辞めてしまって・・・後は20代前半の若い子ばかりで・・・うっとうしがられちゃって。私が入社した頃って結構スパルタ的な教育を受けたんですよ・・・まあ今の子には通用しないと思いますけど。でも皆で泣いて笑って耐え抜いて・・・やっと認めてもらえるようになって、少しは会社の役に立っていると思えるようになって、この会社に入ってよかったと思えるようになりました。後輩の教育を任せてもらえた時はとてもうれしかったのを覚えています。でも上司が代わってしまって・・・」
「その新しい上司と合わないの?」
「合わないというか・・・年を取った女子社員は産業廃棄物だって、目の前で言われて。それからどんどんそのテの嫌味を言ったり、若い女子社員と比較して見た目のことを言ったり、課の飲み会には若い子しか呼ばれなかったり。自慢じゃないですけど私の同期や先輩たちはすごく優秀で、不屈の精神の一騎当千のツワモノたちでした。でもそういう嫌がらせを受け続けて体を壊したり、やる気を奪われて辞めていきました。お父さんが亡くなって弟の学費の為に働かなきゃいけない人やマイホームのローンの為にがむしゃらに働いている人もいました。なのにそんな理不尽なやり方で退職に追い込まれて・・・。私たちだってわかってますよ、年齢が上がってくると会社から見ると使いづらい存在になると。でも会社に貢献しようと一生懸命なんです・・・よ、私・・・たちも」

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私は泣いていた・・・。
何も言わず頷きながら黙って聞いてくれるこの人のそばは心地よい。
「あ、すいません・・・メソメソと、うっとおしいですね」
「ううん、勉強になるよ」
「え?」
「あ、いや、その・・・どうぞ続けて」
「でも、私ももう辞めようかなって迷ってて」
「その若い子たちは仕事はちゃんとしているの?」
「うーん・・・彼女たちはその上司の喜び組なので、仕事が出来る出来ないはあんまり関係ないんですよ」
「じゃあ、辞めていった人たちの仕事は誰がしているの?」
「・・・・」
「まさか全部美和さんがしているの?」
「私は仕事しか役に立たないからやっとけって言われて・・・」
「おいおい、それじゃ完璧なパワハラじゃないか!もっと上に訴えたらダメなの?」
「その上司は役員の縁戚らしくて・・・」
「そっか・・・だから誰も止められないんだ」
「はい」
「美和さんはどうして今まで辞めなかったの?他の人たちは早々に見切りをつけたのに」
「皆がどんどん辞めていって彼女たちが担当していたお客様たちが困ってしまって。長年お世話になっているお客様なので出来る限りのことはしたくて。
先方もよくしてくださるので」
「じゃあ美和さんは会社というよりは、今は顧客の為に働いているってことか」
「でも、そろそろ限界かな・・・メンタルもちそうにないですし」
「もう少し頑張ってみたら?ベテランのスキルもあるし、もったいないよ。悪いのはその上司一人だよね」
「そうですけど、もう何の目標も期待も持てないし、このままじゃストレスで体壊しそうだし」
「じゃあ、時々ここで俺とメシ食うのってどう?ここでお互い愚痴りあってストレス解消しようよ。毎週金曜日仕事終わったらここで飯食おう」
「でも・・・」
「もし来られなかったらまた来週ってことで、じゃあ約束だよ」
そう言って彼は私の分まで支払いをし、誰かと携帯で話しながら帰って行った。
社交辞令だよね・・・連絡先だって交換してないし。
久々に人と会話した気がする。
私は自分がどれだけ非社会的な生活を送っているか改めて思い知った。

(続く)

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