今様シンデレラの結末は-第6話
作家名:くまあひる
文字数:約1150文字(第6話)
管理番号:r700
6.報われない想い
とある金曜日、いつものように二人で飲んでいると、
「美和さん、もしかして彼氏できた?」
口に入れかけていた枝豆が転がり落ちそうになった。
「何言ってるんですか!?誰がそんなこと言ったんですか?」
「いや、そんな噂聞いたから」
「んもー誰ですかね、そんなガセネタ流したの。そんな噂流れたらますます彼氏できなくなるじゃないですか」
「うん、じゃあ今度その噂聞いたら否定しとくよ」
「お願いします!で、滝本さんは例の彼女さんとデートしてるんですか?」
「いや、だからあれはそういうんじゃなく・・・」
「隠さなくてもいいですよ、内緒にしときますから」
「でもさ、あの時、間に合ってホントによかったよ。最近客先まわってるんだけどさ、美和さんめっちゃ評判いいよ。どこ行っても誉め言葉しか聞かないよ」
「ホントですか?うれしいですっ!」
「この前行ったハリマヤ物産のオーナーから息子の釣書渡されたよ。ぜひ息子の嫁にしたいってさ」
「受け取ったんですか?」
「いや、断ったけど。まずかった?」
「いいえ、自分の相手は自分で見つけますよ、運命の相手をね。そんな夢見るトシじゃないんですけど」
少し笑った顔を見ると滝本さんはやっぱりオトコマエだと思う。
「美和さん・・・俺来週から本社に戻ることになった。月曜には新しい課長が着任するから」
「そう・・・なんですか」
いきなり告げられた現実にどういっていいのかわからない。
わかっていたけど、いつか本社に帰る人だと・・・
喉の奥が張りついてうまくしゃべれない。
「だから金曜日の約束も本社に戻ったら出来なくなるんだ」
「わかりました」
「それで・・・」
ヤバい、目の奥が熱い、何?私泣きそうなの?
こんな顔見られたくない、何を勘違いしてたんだって迷惑がられちゃう。
私は最後の力を振り絞って顔を上げた。
「そうですか、いろいろお世話になりました。今仕事が続けられているのも滝本さんのおかげです。ホントにありがとうございました。本社に戻られてもお体に気を付けて頑張ってくださいね」
まるで台本を読むかのようにすらすらと言葉が出てくる。
「美和さん・・・」
「そろそろ私失礼します」
これが限界だった、笑って話せる限界だった。
走りだしたとき背中の向こうで「美和さん!」と呼ばれた気がしたが、すでに見せられる顔ではなかったと思う。
アパートに帰って、そのままベッドに転がった。
わかってる、好きなんだ・・・滝本さんのこと。
私を地獄から救ってくれたヒーロー。
でも認めたくなかった、だってあんなに熱烈に惚れてる彼女がいるから。
好きになっても報われることのない相手だよ。
それに私なんかじゃ釣り合わない。
何も出来ない、何の魅力もない年増の私じゃ・・・。
大丈夫、忘れられる、もう会うこともない相手だし。
けど・・・けど、そのあとの言葉が見つからず、涙があふれた。
(続く)
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