救われるつもりが・・・-第5話
私ダメダメOLが、女の子の願いをかなえてくださるという祠へお参りに行ったら、実は自分が人助けのできる人間だと気づかされる。なんと、ありがく偉い仏様からのテレパシーを感知する能力があったなんて。不思議なこともあるものです。さて、彼氏ともうまくやっていけるのか・・・
作家名：カール井上
文字数：約2370文字（第5話）
管理番号：r702
「昨夜は普賢菩薩様と話しましたね。菩薩様はなんとおっしゃっていましたか」
そうだ、礼を尽すことが本当にできているか振り返ってみなさいといわれたのだった。ああ、忘れていた。
「しっかり考えてみましょう。礼を尽くすのです。何事もおろそかにしてはいけません。わかっていますね」
そのとき急に怒っている顔だけが大きくなり、私の方に近づいてきた。
「本当にわかっているか。よく考えるのだ」
声が怒っている。しかも怖い男の声になっている。
ああ、どうしたらいいの。
というところで目が覚めた。また夢だった。さて、どうしたらいいのだろう。礼を尽くす。何事もおろそかにしない。実はすごく難しいことなのかもしれない。私なんかにはできないことなのかも。
————
翌朝、会社に着くと陽子に言われた。
「あゆみさん、どうしたんですか。今日はなんだか暗いですね」
「そうなの、変な夢をまた見たのよ」
「今度はどんな夢ですか」
「11の顔が睨んでくるの」
「11の顔ってなんですか」
そのとき男の人の声がした。
「どうしたんですか。ふたりとも何か深刻そうな顔ですね」
三木君がいつの間にか近くに来ていた。
「あゆみさんがね、おかしな夢を見たんですって」
「へえ、どんな夢ですか」
「そうなのよ。おかしな夢なの。前の晩は真っ白な象と普賢菩薩様が出てきたの。今朝の夢は十一面観世音菩薩様なんだけど、怖い顔で睨まれたの」
「ありがたい様な恐ろしい様な不思議な夢ですね」
「そういえば三木君、前に霊験あらたかな神社へ行った話をしてたわよね。三木君もスピリチュアルが強い方なの？」
陽子は三木君といろんな話をしたことがあるのね。
「そんなに強くはないですけど、芦ノ湖畔にある神社と、大山の山頂にある神社には行ったことがありますよ」
神社のお話なのね。聞いてみたいわ。
「へえ、すごいわねえ。どんなところなの、私にも教えてくれない？」
三木君が話してくれた。
芦ノ湖畔の神社は、実はアクセスがすごく難しい。車では近づけず、どうしても徒歩でのアクセスとなるのだが、30分以上は歩かなければならない。その代わりいつでも好きなときに参拝ができ、おそらくは人っこひとりいないところで神様を独占しお願い事をすることができる。
しかし毎月13日に月例祭として月次祭（つきなみさい）が執り行われている。このときは芦ノ湖の遊覧船が特別に、この神社の付近の神山桟橋にまで運航してくれる。船で運んでもらえれば楽チンなのだが、これはこれで大変だ。何故ならば、月次祭は午前十時からなのだが、遊覧船の乗船受付は午前7時半頃から始まる。なんと全国からこの神社の縁結びのご利益に与ろうと、大勢の女子あるいはカップルが前泊してこのときを待っている。だから７時前からこの受付場所に並んでいないと、乗船できないかもしれない。
なんとか混雑する船に乗れると、およそ20分で神山桟橋へ到着となる。そこから徒歩５分で目指す神社に。式典は一時間ほど続くのだが、参拝者は立ちっぱなしとなる。ここはご利益のために我慢しなければならない。
縁結びの龍神様にお願いすれば、良縁に恵まれ、そして幸せなカップルになれるわけだ。
大山山頂の神社へのお参りは登山となる。正式な登山計画書の提出も要求される。もちろん、そんなことは知らずに登る人がほとんどかもしれないが。
この登山自体が精神の浄化であり、スピリチュアルを掻き立てるものなのだ。ケーブルカーを利用して神社下社から登れば、山頂の上社まで、およそ標高700メートルの地点から1250メートルの地点まで、約90分間の登山となる。晴れていれば山頂からは相模湾、富士山、そしてスカイツリーも眺望できる。
江戸時代は格好の遊山コースだった。江戸から人々が連れ立ってこの大山に登り、その後江ノ島や鎌倉を回って帰るという、５日から６日をかけての旅だった。登山道にはその江戸庶民のスピリチュアルが満ち溢れているのだ。
「ところで三木君は、どなたと芦ノ湖へ行ったのかしら？」
意地悪く聞いてみた。
「ええと、そのときはひとりでした」
「あら、本当かしら？」
陽子と顔を見合わせて笑った。
「神社といえば、大阪にある布忍神社って知ってますか？」
今度は陽子が自慢を始めるのかしら。
「そこでいただけるおみくじがちょっと変わっているのよ」
「どんな風に？」
「普通の吉や凶ではなくて、恋みくじなんですよ。イチハラヒロコさんっていうアーティストの考えたフレーズが書かれているのよ。女子に人気で１日に何度も引く人や、36種類全部集めようとしている人もいるらしいの」
「どんなフレーズなの？」
「いろいろあるんですけど、私が好きなのは『愛は速攻』ね。恋愛は理屈じゃないの。好きになったらすぐ行動に移さなきゃ。それは遺伝子が求めているものだから。損得勘定をしてはいけないのよ。愛は無償のものなのね」
私は目を見張って陽子を見た。今のって、三木君に対する強烈なメッセージよね。彼に届いたかしら。そっと三木君の顔を見た。陽子の顔をじっと見つめていた。
そのときマネージャーに呼ばれた。来週のプレゼンテーションのスライドを作成するようにとのことだった。
「まかせるからよろしく頼むよ」
すっかり信頼されているのかしら。でも頑張るわ。
午後、三木君がまたしても私のところにやってきた。
「来週のプレゼンの資料に追加してもらいたいものがあるのでお願いします」
「オッケー、送っておいて」
「あの、ところで、つかぬことを伺うのですが、陽子さんってだれか付き合っている人いますかねえ」
あら、そんなことを聞くためにわざわざ近寄ってきたのね。
「さあ、はっきりとは聞いたことがないけど、多分大丈夫じゃない。それよりも陽子も三木君のことを気にしているわよ。頑張ってみたら」
「ありがとうございます。そうします」
そうよ、何事も頑張るのが大事よね。失敗したらやり直せばいいのだから。
（続く）
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