今様シンデレラの結末は-第13話

今様シンデレラの結末は-第13話

作家名:くまあひる
文字数:約5400文字(第13話)
管理番号:r700

13.変わる自分

土曜日、お店に行くと、そこは想像していたよりかなり大規模な店舗だった。
佐伯さんももう来てくれていた。
オーダーシートを渡されて、希望やNGなどを記入した。
すぐに「いらっしゃーい」という男性の声がして振り向くと、とてもきれいな男性が立っていた。
「あ、初めまして高橋美和です」
「こちらこそよろしくねー、妹から聞いてたけど何もしなくても肌キレイねぇ」

そう、佐伯さんが心配してくれていたのは、このお兄さんの女性的なしゃべり方と明らかにお化粧をしていることだった。
「ゴメンね、アレだけど大丈夫?」
「気にしないでください、とてもきれいな方で羨ましいくらいです」
「そこっ!こそこそ内緒話しない!失礼ねぇ!」
「すいません・・・」
「ううん、妹に言ったんだから気にしないで。アンタもう帰りなさいよ」
「え、マジ心配なんだけど!」
「アンタいると気が散るのよね」
「美和ちゃんいいでしょ、私と2人っきりでも」
「はい」
「そう?もうすぐ他のスタッフさんも来るはずだから」
「もー早く消えて」

そう言って妹を追い出したお兄さんは、私が書いたシートを見ながら肌質やアレルギーなどを確認していった。
バスローブに着替えてシートに横たわると、すぐにアロマの香りが流れてきた。
「妹のスポーツクラブの会員なんですってね、アイツちゃんとしてる?」
「人気のトレーナーさんですよ。私はたまたまキャンセルが出て、運よく担当になって頂きましたけど」
「ふうん、アイツ好き嫌いハッキリしてるから、客商売には向かないのに。嫌いなヤツにはかなり冷たいのよ。でも美和ちゃんのことは好きみたいね、ここに連れて来るくらいだからさ」
「そうだと嬉しいです、色々親切にして頂いて助かってます」

シースルーランジェリー一覧

「こちらこそ、ご来店ありがとうございます。本日、高橋様を担当させていただきます佐伯一真と助手の野崎香苗と申します。では施術を開始いたします。本日はフェイシャルとデコルテを承っておりますが、妹の紹介ということで初回フルコースとさせていただきます」
「え?そんな申し訳ないです」
「美和ちゃん、ここは非日常を体感する場所なの。日常を忘れてリセットして、帰るときはプリンセスの様にきれいになって帰ってほしいのよ。じゃ、始めるわね、私の問いかけは無視していいからね。うん、きれいなお肌ね、きめも整っていて、なめらか。少しお手入れしたらすごくきれいになるわ。後でメイクの方法もレクチャーするからね」

本当に気持ちよくてそのまま寝ちゃいそうなくらいだったんだけど、ハンドマッサージをし始めた時、一真さんの手がしばらく止まった。
「あの・・・どうかしました?」
「何でもないわ、気にしないで」
野崎さんのマッサージもすごくよくて、自分でもキレイになっているとうぬぼれてしまいそうなくらいだった。
全ての施術が終わって着替えを済ませ、今度は対面で座る席へ案内された。

「じゃ、次はネイルね。美和さん、どんな感じが好みかしら」
「あの・・・やったことないんです。だから知識も全然なくて・・・ごめんなさい」
「全然OKよん。お仕事は何してる人?」
「事務職です」
「そう、あんまり奇抜じゃないほうがいいのかな。美和ちゃんは目立ち系は好みじゃない気がするんだけど、当たってる?」
「そうですね、結構シンプル派かもしれないですね」
「了解、じゃあ今日は指先をキレイに整えてコーティングするだけにしとくわね。次に来た時にしたかったら、どんなのがいいか考えてきてね」
自分の考えを押し付けたり、勝手に判断しないのが一真さんの方針のようで、
「だってぇ・・・そんなことしても本人が望んでなかったら何にもならないでしょ」
とあっさり。

「キレイになりたいと思ってウチに来てくれているのに、本人が望まないことをしても逆効果でしょ」
「私、エステとかってちょっと怖いイメージがあって、強引に勧誘されたり、高額なローン組んで化粧品買わされたりしたらどうしようって、なかなかチャレンジできなかったんです。だから佐伯トレーナーに紹介して頂いてすごく助かりました」
「あるある、利益優先で、ホントの目的を見失ってるトコ。でもそういうトコって遅かれ早かれ潰れるのよ。お客さんのこと考えずに高いだけの化粧水買わせたり、下剤しか入ってないサプリ勧めたり、犯罪スレスレのところも多いわね。ウチも商売だから、いろんなもの扱うけど、高価だからってすべての人に合うってわけじゃないし。正直、ドラッグストアで売っているものだって、その人に合えばそれがいいのよ。どれがいいかを決めるのはお客さんよ。店を選ぶのも、エステシャン選ぶのも、お金を払うのもお客さん。主役はお客さんなのよ」

「それを伺ってほっとしました。佐伯トレーナーにも感謝感謝です」
「それとね、言いたくなかったら構わないんだけど、ちょっと前、辛いことあった?」
「え・・・・」
「さっきハンドマッサージした時に爪見たんだけど、爪って健康状態が出るのよ。今は大丈夫なんだけど、少し前は結構不調だったんじゃない?」
黙ってしまった私に一真さんは察したらしく、
「今はキレイな状態だから、もう気にしなくていいと思うわ」
と言ってくれた。

心配して言ってくれているのに隠しておくのも申し訳なく感じて
「仕事で色々あってめげてたんです。でも、それも改善されたので今は大丈夫です」
「そう?でも無理はしないでね、体は正直なんだから」
それから、メイクのレクチャーを受け、日常のお手入れ方法までじっくり教わった。
「宝塚じゃないんだから、弱いところを補ってやったり、きつく見えるところは少し優しさを加えてやるくらいで十分だから。いろんなものを塗りたくるより、基礎をつかんでおくほうがいいわよ」

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一真さんから教えてもらったワザはホントに基礎の基礎だけど、今まで出来てなかった部分が多く、今更ながら基礎の大切さを知った。
「筋トレ出来てない人がスポーツ出来るわけないでしょ、それと同じよ」
「反省反省です、何にも出来てなかったんですね」
「美和ちゃん彼氏いる?」
「え・・・ええ」
「彼氏の為にウチに来た?」
「それもありますけど、自分を変えたかったのもあると思います」
「じゃ、私からのアドバイス、まずは自分を好きになって。自分を誰よりも愛してあげてね。自分を愛せないということは自分を知らないということ。自分を愛せて初めて相手を愛せるのよ」

「・・・・」
「やだ、ゴメンねぇ・・・美和ちゃん、何か健気でさ。構いたくなっちゃうのよね。ハイ、出来たわよ、鏡見て!」
そこに映し出された私は、私なんだけど、私ではなくて。
数時間前にココにやってきた私ではなかった。
何も言えずにいると、
「どう?美和ちゃん好みではないかしら?」
「いいえっ!スゴイです。自分じゃないみたいでビックリしちゃいました」
「よかった、その言葉が何よりうれしいのよ」

支払いを済ませ、次回の予約をしようとすると
「美和ちゃん、今日は予約しないで帰って」
「どうしてですか?」
「よく考えて、今度来るときは自分で来たいと思ってきてほしいのよ。今日は妹の紹介だし、エステデビューでテンション上がってるからね」
「わかりました。また後日、連絡させていただきます」
「美和ちゃん予約の電話くれるときはこの番号にしてね。お手入れとかでわからないことがあったらいつでも電話してね」
とカードに手書きで電話番号を書いてくれた。

店の外まで送ってくれた野崎さんが
「今日は驚きの連続でした。だってオーナーが一からすべて指揮して、それに予約に店の番号じゃなくてオーナー直通の番号を渡すなんて」
「そうなんですか・・・なんか悪いことしちゃいましたね。オーナーを独占してしまったみたいで」
「いいえ。オーナー自身、とても楽しそうだったから。それに私にとってはオーナーの技をそばでじっくり勉強できた貴重な時間でしたから。よろしければ、またいらしてくださいね」

野崎さんをはじめサロンの皆さんはとても親切で、接客もとても上手だった。
そういうのもオーナーの教育が行き届いているからなんだろうな。
だからと言ってスタッフさんも委縮してる様子ではなく仕事を楽しんでいるみたいに見えた。
お世辞じゃなく、また行きたいと本心から思うお店に出会えたことは、とてもラッキーなことだ。

ジムに行ったら佐伯トレーナーが待ち構えていたように、サロンでのことを尋ねられた。
「大丈夫だった?アイツ好き嫌いハッキリしてて、感じ悪い時あるから。美和さんだったら大丈夫だと思うけど・・・心配で」
「オーナーもトレーナーのこと、そうおっしゃってましたよ。似た者兄妹ですね」
「マジで!?許せないわー、アイツにだけは言われたくないのに!」
口ではそう言いながら兄妹仲の良さがうかがえる。
「美和さん、だいぶ体整ってきたね、姿勢もよくなってきたし、筋力ついてる証拠だね」
「ホント?うれしいです。確かに疲れにくくなってきた気がします」

「でしょ。正しい姿勢を保つには結構筋力使うのよ。美和さん、まじめにトレーニングしてくれたから、結果が出るのも早かったわ。優秀な生徒で助かりました」
そんなふうに褒めてもらえると思ってなかったので、とてもうれしかった。
家に帰ってストレッチをしていると柊さんからメッセージが届いていた。
“美和、もう家か?”
“はい”                                         
そう返信したらすぐ電話がかかってきた。

「美和、体調はどう?」
私を心配してくれるその声に心が暖かくなる。
「柊さんこそ、お疲れ様です。大丈夫ですから」
メッセージは毎日欠かさずくれていたけど声を聴くのは久しぶりだ。
「悪いな、あんまり話も出来なくて。終わるのが遅いから起こしちゃ悪いと思って」
「気にしないでください、立ち上げは激務ですから。体には気を付けてください」

「美和、もしかしたらちょっとそっちに戻るの延びるかもしれない」
「そうですか、大変ですね」
「美和・・・それだけ?」
「え?」
「もう少し寂しがってくれてもよくない?」
「寂しいって言ってもうっとおしいと思われるだけだし・・・仕事ですから」
「思わない。美和が寂しいって言ってくれたら俺すごく頑張れる気がするんだけど」
「・・・・」
「美和・・・・」

「さみしいです・・・ホントはすごく・・・会いたいです、柊さんに」
「うん、俺も。あー!!美和の声聞いたら、やっぱり帰りたくなってきた。こうなるのが分かっていたからあんまり電話しなかったのに!我慢できなくて電話したら、このザマだ。格好悪いな、俺」
「ううん、私も同じですよ。柊さん・・・帰ったら、いっぱいギュゥってしてください」
「美和-!今それ言うなよ、拷問だ」
「・・・すいません」
「でも、ちょっと元気になった。これでまた頑張れそうだよ」
「私もです」

それから少しジムや佐伯トレーナーの話をして電話を切った。
柊さんが戻ってくるのが延びたのはとても寂しいけど、それまでに出来ることをやっておこう。
私は翌日一真さんに予約の電話を入れた。

サロンに入ると、お客さんは一人しかおらず、野崎さんが担当していた。
「美和ちゃん、いらっしゃーい」
すぐに一真さんが出てきて、お肌の状態をチェックしてくれた。
「うん、上々。今日はフェイシャルを重点的に、よね?じゃ着替えてきて」
施術スタイルになった私は、一真さんの魔法の指でリラックスしていく。
「美和ちゃん、頑張ってるみたいね。妹が言ってたわ、見違えるようになったって。キレイになるのって全部繋がってるの、心も体も。食べ物、生活習慣、ストレス、睡眠は全部直結してるし、最も重要なのは本人の気持ちよ。健康でいたい、キレイになりたいという本人が自分の為に望むことが一番大切なの。そうすれば環境や人間関係に左右されない美和ちゃんにしかない輝きが手に入るわ」
「はい、頑張ります」

フェイシャルの施術を終え、前回と同じ対面の席に案内された。
「今日は前回とはちょっとイメチェンのメイクにしてみようと思うんだけど、何か使ってみたいカラーとか、やってみたいのある?」
「すいません、お任せしていいですか?」
「オッケー。じゃ、目を閉じててね」
そう言って10分くらいして目を開けると、鏡に映った自分は今まで見たことのない自分だった。
「どう?」
「こんなの・・・初めてです」

「前回はナチュラルにブラウン系で仕上げたんだけど、今回は寒色系にしてみたの。アイシャドウはグリーン系でホールはほんのりね。すっきり仕上げたかったから唇はこの色で・・・ハイ、クールビューティの出来上がりー!!今のヘアスタイルでも十分イケるけど、これならショートでも似合うと思うわよ」
「ありがとうございます、自分じゃ全然思いつきもしなかったと思います。こんな自分になれるなんて・・・」
「あらぁ、そのお言葉、冥利に尽きるわね!美和ちゃん、自分の為に、自分を楽しんで、高橋美和はあなただけのもので、あなたという人を誰も侵食出来ないの。あなたを変えられるとしたらそれは美和ちゃんだけよ。あなたが好きな自分でいられることがベストなのよ」

「あ・・・・」
「ん?どうかした?」
「以前、同じことを言われたことがあって・・・」
「誰?彼氏?」
「いいえ、会社の上司なんですけど・・・誰にも合わせる必要はないって。自分のことが嫌になる相手とはどんなに好きでも付き合わないほうがいいって言われました」
「あらぁ、いい男ね。その人の言う通りよ、美和ちゃん」
「はい」
「さあ、今の美和ちゃんは男が振り返るくらいの美しさだわ。自信を持って!!」
「ありがとうございます、オーナーのおかげです」
「違うわよ、美和ちゃんの努力のたまものよ」
「ありがとうございます」

(続く)

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