私たちの結婚-最終話

私たちの結婚-最終話

作家名:バロン椿
文字数:約2780文字(第10話)
管理番号:r701

そして、秋の学校祭。
私たちは午前中で学校を抜け出し、両親が留守をいいことに、圭子の部屋で結ばれたが、これも、「どこに行ってたのよ?怪しいぞ」と雅美にしつこく追求され、最後には喋らされてしまった。
「言わないと、ダメ?」
圭子は顔を赤らめ、もじもじしていたが、「例外はなし!」と誰も容赦してくれない。
「私は奥手で26歳、初夜…」
圭子はそう言って、ハンカチで顔を隠していた。

私はほっとしたが、隣の雅美が「はあ?」と私の顔を覗き込んできた。
「何だよ?」
「いえ、何でもないわよ」
雅美はぷいっと横を向いてしまったが、何か企んでいるような顔をしていた。
そして、私の番がきた。
「二十歳。トルコ、あ、今はソープか、つまんない話です」
そう言い逃れたが、座る前に、「本当につまんねえな」とおしぼりが飛んできた。

最後は雅美。
昔は可愛らしいところがあったが、今は貫禄のある熟女。
彼女も17歳の時、相手が1学年上の3年生だったということは、圭子のことを喋るのと引き換えに聞き出していた。
雅美は私からマイクを取り上げると、「全くウソつくんだから」と立ち上がりながらマイクで私の頭を突いてきた。
「え、後藤がウソをついているか?」
「雅美、ウソって何よ?」
皆が私の方をじっと見ている。圭子の顔も引きつって見えた。

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「中学の時、後藤君なの。私の最初のお相手って」
「えっ、ち、中学…」
これには悪がき、梁瀬亨も驚いて、飲もうとしてハイボールにむせてしまった。
圭子は私をじっと睨んでいた。

シーンとなったスナック。
だが、熟女の図々しさというか、誰もが押し黙っている中、雅美はスカートの裾をちょいと摘んで、「ははは、そんな訳無いでしょう。今も処女でーす」とやってみせた。
「ほぉ…」
「ビックリさせるなよ」
「雅美ったら」
安堵のため息というか、「あんたには敵わない」という空気になってしまい、もう彼女に「いつなんだよ、初体験は?」などと聞き返す者はいなかった。
スナックから出る時、圭子と目が合ったが、なんとなく互いに恥ずかしくて、何も言えずに別れてしまった。

雅美のアドバイス

「後藤君、たまには一緒に帰ろう」
「脅かすんだから、冷や冷やしたよ」
久し振りに雅美と同じ電車に乗った。
「どうして別れちゃったの?」
「ははは、昔の話だよ」
私は笑って済まそうかと思っていたが、「助けてあげたんだから、それくらは本当のことを言いなさい」と、昔と同じく、肘でドーンと突いて、ごまかしを許してはくれなかった。

「彼女は現役で大学に入り、俺は浪人。ちょっと意識がずれちゃったんだよね」
「やっぱり、そうか」
「雅美も、同じか?」
「そう、同じ。大学に入ったら、高校生なんか、子供扱い」
電車は比較的空いていた。
並んで座ると、40年前に戻った感覚になった。

「背伸びするのよね、あの頃って」
「全くだよね。タバコ吸って、酒なんか飲んじゃって。女は化粧をして」
「田舎者なのに、ねえ、きれいなレストランに行こうって、無理して服なんか買っちゃって」
「そうそう、締められないのに、ネクタイなんか買ってきちゃった」
「ははは、バカみたいね」
「そうだ、バカだよな」
車内アナウンスは次が乗換駅であることを告げていた。

「どうするの、危ないんでしょう?」
「別れることになると思うよ」
今も隣町に住む彼女は私が離婚に向け調停中であることを知っている。
「ダメよ、別れたら」
「えっ…」
「もがきなさい。圭子とだって、もっともがけば、乗り越えられたんじゃないの?」

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雅美は真顔だった。
「私もね、時々、そう思うのよ。彼、大学院に行って、製鉄会社に入って、何本か論文も書いて」
「そこまで知ってるの?」
「未練たらたらよね。時々、ネットで探すの。ははは、こんなことしたって、どうにもならないけど」
雅美はふぅーと大きく息を吐いた。

「昔に戻れたら、なんて考えることもあるけど、そうしたら、今の主人や子供たちとは別れなくちゃいけない。そんなことは絶対にできない。だから、あの人のことは、胸の中にしまって置く、そういうことよ」
「俺も同じだよ。圭子の顔を見ると、いろいろ思い出すけど、どうにもならないね。今日も、一言も話ができなかった」
「あなたはいいわよ。顔が見れるんだから。私なんか顔も見れない。インターネットに同期会のホームページがあるけど、1学年上だから、そのパスワードも知らないから開けないし、開いたところで、あの人の写真があるのか、あっても変わってしまって、もう分からないだろうし」
「そうか、見れないのか…」
「まあ、こんなこと言えるには、後藤君しかいないけど、こうして思いを吐き出すと、すっきりするのよ」

貫禄のある熟女が昔の可愛かった頃の少女のような顔をしている。
「おせっかいかも知れないけれど、初恋じゃないのよ。今、もがかなかったら、奥さんだけじゃない、子供も手放すことになるのよ。それでいいの?高木紀江だって、あんなこと言って自分を誤魔化しているけど、本音は違うんじゃない?」
「手遅れだけど」
「簡単に手遅れだって結論付けないで。もっと、最後まで粘りなさいよ」
乗換駅は過ぎてしまったが、雅美は席を立つ気配がなかった。

「圭子もあなたが幸せであることを願っているのよ。『26歳、初夜』なんて、ウソついて。でも、あれは、後藤君以外には誰にも体を許さなかったってことよ」
「それは考えすぎだろう…あっ、痛ぇ」
またも、つま先で脛を蹴られてしまった。
「何を言ってるのよ、全く。ドライな女もいれば、ウェットな女もいるってことよ」
「いや、ごめん、ごめん。俺もそう思っていたけど、自分からそんなことは言えないでしょう」
「格好つけちゃって」

雅美は肩をぶつけてきた。
「俺が『二十歳、トルコ』って言ったら、圭子も「バーカ」って顔で笑っていたし、雅美が初体験の相手は俺だって冗談で言ったら、もの凄い顔で睨んでいたよ」
「ははは、私も見てた。あれは笑っちゃった」

粘ってみるか

電車は次の駅に止まった。
「あらあら、乗り過ごしちゃった」
私たちはそのまま駅の改札を出た。
「もう一度、カラオケでも行くか?」
「その代わり、タクシーで家まで送ってよ」
「分かってるよ。だけど、俺の歌をちゃんと聴けよ」
「音楽が2だった人にカラオケに誘われるなんて、世の中、変わったわね」

相変わらず、口の減らない女だ。私がドーンと肩でぶつかり、「うるさい、俺も進歩したんだよ」と言えば、「進歩したらな、今度は諦めないで、もがいて、粘りなさい。」と本気になって心配してくれる。
幼馴染はいい。互いに遠慮はいらない。
「はいはい、分かりました、雅美さま」
「『はい』は1回」
「あなたには勝てませんね、ははは」

私は気持ちがすっきりしてきた。
まあ、どうなるか分からないけど、頭を下げて、
粘るってみるか…
春の夜はまだまだ肌寒いが、コートが要らない分だけ、身も軽い。私は心も少し軽くなってきたように感じていた。

(終わり)

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