今様シンデレラの結末は-第11話

今様シンデレラの結末は-第11話

作家名:くまあひる
文字数:約4500文字(第11話)
管理番号:r700

11.心の看病

携帯を鳴らしても出ない・・・。
きちんと会って謝らなければ。
っと、美和の家を俺は知らないんだ。
ちくしょう!結局アイツを頼るしかない。
さっきまで俺を滅多打ちにしていた男の名前を仕方なく携帯に映し出す。
「バカは死んでも治らない~」と鼻で笑われる。
「いいから教えろ」
「それが人にモノを尋ねる態度・・・かなぁ?」
「・・・・教えてください、頼む!」
やっとのことで住所を聞き出したあと、電話の最後にヤツはこういった。
「彼女に何一つ期待するな、致命傷になる」と。

美和の部屋のインターフォンを鳴らしても応答はない。
明かりもついてない。
いないのか?日下は体調を崩した美和を送って行ったと言ってたが・・・。
インターフォンを繰り返し押しながら、携帯も鳴らし続ける。
しばらくして携帯がつながった。
「美和?今どこ?」
「滝本さ・・・・ん?ど・・・うし・・て?」
美和の声はくぐもっていて、途切れ途切れになっている。
「美和、どこにいる?病院か?」
「へ・・やです」
「大丈夫か?ドア開けられるか?」
「どう・・・して・・・?」
「今部屋の前にいるんだ、鍵開けられるか?」
「・・・お引き・・・とり・・ください」

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拒絶の返事にかなりダメージを受けたのが自分でもわかる。
しばらく間があいて苦しそうな声で
「風邪・・・うつる・・・・から」
風邪が拒絶の理由とわかると不謹慎にも喜んでしまう。
「構わない、開けてくれ」
またしばらく沈黙のあと、
「ポ・・スト、暗・・・番号・・・予備キー・・・あるから」
慌ててポストから鍵を取り出し、部屋に入ると、真っ暗な室内で動く気配がした。
明かりをつけると美和がベッドから身を起こしたところだった。
ベッドのそばまで行くと弱り切った美和がいた。
「何でこんなになっているのに連絡してこないんだ!」
「だっ・・・て」

「そうだよな、俺のせいだよな、ゴメン」
「ちが・・自分のこと・・・は私が一番・・・よく・・わかって・・るの。帰って・・・うつるから」
「何言ってるんだ、薬は飲んだのか?」
「夕方飲んだのが‥最後・・・」
テーブルの上には錠剤の空き箱があった。
部屋を出てドラッグストアに向かう。
風邪薬と栄養ドリンクとスポーツドリンクとゼリーを買い占めた。
コンビニに寄り、レトルトのおかゆを買い、部屋に戻った。
美和を起こさないようにそっと音をたてないように中に入ると美和の声が聞こえてきた。

「ごめ・・・なさい。こんな私じゃ・・・ダメなん・・・だも・・・の。そばにいたかっ・・・な」
うわごとの様に聞こえるが一人で泣いているのだろう。
「美和、薬買ってきた」
と声をかけて傍に行くと明らかに泣いていたのがわかる。
「ど・・・して?」
「自分の彼女が熱出して寝込んでるのに放置するわけないだろ」
「でも・・・」
「ゼリーとおかゆどっちがいい?」
「・・・・」
「どっち?」
「ゼリー」
「たくさん買ってきたから、いるだけ食べて、薬飲んで」
美和に薬を飲ませると買ってきたものを冷蔵庫に片付ける。

「美和、寒くないか?」
「大丈夫です」
「じゃ、しんどかったら呼べよ」
「帰らないんですか?」
「熱が下がるまではいるから」
「でも・・・」
横たわる美和のそばに腰かけ、生気のない顔に触れる。
「美和、泣きたい時は泣いてもいいんだ。美和は愚痴も言わないし、ネガティブなことも言わない。だから俺、勝手に思い込んだんだ。美和は明るくて、前向きでパワフルな人なんだと。ごめんな、そんなわけないよな。あんなにつらい目にあってたのに、無傷なわけないよな」

美和の頬に添えていた手が濡れていく。
しゃくりあげながらそれでも声を押し殺して泣こうとする彼女を見ると、こうしてずっと一人で声を上げずに泣いてきたんだと胸が締め付けられる。
美和の腕が両方俺の方へ伸ばされた。
「柊・・・さん」
上半身を起こしてやると、そのまま美和は俺にしがみついた。
「怒っていいんだ、理不尽な仕打ちに、我慢しなくていい、泣きわめいていいんだ。美和は一人でよく頑張ったよ。もう一人で頑張らなくてもいいんだ」

「こんなの・・・私じゃっ・・・ないの。私、こん・・・なに弱くっ・・・なかったっ。いい歳して泣いちゃダメなのにっ!見苦しいだけ・・・だから。こんなの・・・柊さんに見られたくなかったのに」
「泣きたい時は泣いたらいいんだ。俺、前もそういったことあるよな」
「うん、うれしかった、泣いてもいいって言われて泣いちゃっ・・た。犬飼課長に濡れ衣着せられて、悔しくって、思わす泣いたことがあったの。そしたら、若くもない女の涙見たって罰ゲームだって言われたの。確かに会社で泣くなんて私が悪いんだけど、見苦しいって言われてあれから素直に泣けなくなった気がする」

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「そうか、でももう解禁だ。美和の怒った顔、泣いた顔、笑った顔、困った顔、喜ぶ顔、色んな顔見てみたいんだ」
驚いたように美和が顔を上げた。
そして、ゆっくり顔を横へ振った。
「もっとふさわしい人がいますよ。こんな壊れかけた女より、心身ともに健康なかわいい女性が」
「俺は自分の好きな女と一緒にいたい、美和といたい」
「自信がないんです、愛される自信が、すぐに愛想をつかされてしまいそうで。立ち直れなくなりそうで・・・自分を一番信用できないんです」

「もう誰も美和を傷つけたりしない。美和が傷ついたら、俺がそばにいて癒すんだ。俺が傷ついたら美和がそばにいて慰めてくれよ。まずはちゃんと食べて、ちゃんと睡眠取って元気になって。おいしいものいっぱい食べに行こう。俺、色々調べとくから」
「・・・・・」
「美和、またなんか考えてる?」
「ガッカリさせそうで・・・いろんなことを我慢させてしまいそうで・・・」

「俺は俺の意志で美和のそばにいる。あの時言っただろ、美和をあきらめるつもりなかったって。あれは今も変わってない。それに、これからも俺の無神経さが美和を傷つけてしまう方が多いと思う。日下に滅多打ちにされたんだ。一回死んで出直してこいとまで言われた」
「あの日下課長が?」
「でも、何も言い返せなかった。俺の傲慢さが美和を追い込んだんだ」
「そんなことないです、私のことは自分で解決していかなきゃいけないから」

「美和、これからいっぱい話していこう。美和も俺のことほとんど知らないだろ。そういえば美和は何にも俺のこと聞かないよな、もしかして興味なし?」
「ううん、聞いてみたいことありました。でも、知ったら知った分だけ離れられなくなりそうで。貴方という人を知ってしまったらどんどん好きになりそうだったから、聞けなかった」
「美和ー!めっちゃうれしい。俺も美和に惚れられてるんだな。っとゴメン、横にならなきゃな」

布団を首までかけてやって寝るように促すと、薬が効いたのか、すぐにウトウトし始めた。
夜中に何度か額に手を当てて熱を測ったが、それほど上がっている様子はなかった。
朝起きると美和は流しの前にいた。
後ろからそっと抱きしめるとキャッと声がする。
「美-和、寝てないとダメだよ」
「大丈夫です、熱下がったし、会社行かなきゃ。朝ごはんの前に柊さんもシャワーどうぞ」

「美和、今日一日休んだほうがいい」
「大丈夫ですって、柊さんも急がないと、一旦帰ってから出勤されるでしょ」
「アイツに連絡したら、美和の休み有給扱いにしとくって返事来た」
「アイツって・・・日下課長ですか?」
「うん」
「何てことするんですか、公私混同ですよ!」
「まあまあ、いままで全然有給消化できてなかっただろ。で、俺も今日有給だから」

「えっ、でも・・・」
「美和と今日一日一緒にいる。昨日よりは顔色よく見えるけど、全快じゃないからね」
「もう大丈夫ですから、柊さん昨日寝てないでしょ?」
「じゃあ美和と一緒に昼寝するよ」
「あの、心配しないでください。私のことで柊さんに迷惑かけたくないんです」
「看病だとか理由つけても一緒にいたいだけだから」
美和の暖かい体温が感じられてほっとする。

「ご飯出来たら呼びますから、そっちでテレビでも見ててください」
そう言って寝室に戻された。
不覚にもそのまま寝てしまった。
「柊さん、ご飯出来ました」と起こされた。
目の前に並んだ朝ごはんは和食だった。
「ありあわせなんでこんなものしか・・・」
ご飯、みそ汁、焼き魚とサラダ・・・
「美和、いつも朝メシこんなの食べてるの?」

「すいません、魚とかNGでした?」
「そうじゃないよ、こんなちゃんとした朝飯久々だよ!」
「柊さん、朝ごはんはパン派ですか?」
「食べない日のほうが多いかな、食べない俺が言うのもなんだけど本来和食派なんだ。だからスゴイ感激」
「こんなものでよかったらいつでもどうぞ」
「・・・・」
「あ、すいません、出しゃばりすぎですね・・・」
途端に曇った表情になった彼女は下を向いてしまった。

「美和・・・今の社交辞令?」
「え?いいえ、ホントによかったらいつでも・・・」
「めっちゃうれしい、また美和とこんな朝飯食えるなんて!っと、美和の分は?」
「まだ・・・あんまり欲しくなくて・・・」
「そう・・・じゃ半分っこしような」
そう言って少しずつ食べさせ、薬を飲ませた。

「柊さん、一緒にいたら本当にうつってしまいますよ」
「美和からうつったんなら構わない」
「でも・・・」
「一人になりたい気分?」
「そうじゃなくて、申し訳なくて・・・」
「俺が美和といたいって言っただろ、早く横になったほうがいい」
「・・・・・・」

「なあ美和、今さらって思われるかもしれないけどさ、俺は美和がどんな美和でも気持ちは変わらない。美和はつらい経験をしてダメージを受けていることを恥じているかもしれないけど、そんな美和に出会って美和を好きになった。美和は何もしなくていい、いてくれるだけでいい」
「・・・・・」
「これからは二人でいろんなことしたい。美和とドライブも旅行もしたい。スポーツは?観るほう?プレイするほう?食べ歩きもしたいし、今まで通り飲みにも行きたい。美和とやりたいことがたくさんあるんだ。二人で笑って、喧嘩して、仲直りして、お互いを知っていこうよ」

「・・・ありがとう、柊さん」
「じゃ、お礼のキスは?」
「・・・・」
「ほら」
みるみる真っ赤になった美和に自分の顔を近づけてせがむ。
結局我慢できなくなった俺は自ら美和の頬に一つ、そして唇に長いキスをした。
昼ご飯は俺が用意しようと思っていたのに、熟睡してしまい、結局美和が作ってくれた。

「申し訳ない!俺が作るはずだったのに」
「そんなこと気にしないでください。それに・・・私のせいでお疲れだと思うので、こちらこそすいません」
「違うよ」
「え?」
「それは違うよ、俺は今ここにいられてよかったと思ってる。疲れて寝てたんじゃない、ほっとして美和がそばにいるから安心して寝てたんだよ。あのままだったら、俺こんな気持ちではいられてないはずだよ」
「柊さん・・・」

「何・・・?」
「ぎゅーってしてください」
「了解!喜んで!」
美和を強く抱きしめて、恐ろしく痩せていることに今さらながら気づいた。
改めて、どれだけ過酷な環境にいたか思い知らされる。
「ありがとう、柊さん」
「いつでもどうぞ」
美和の初めての“お願い”が俺を受け入れてくれた証のような気がして、うれしかった。

(続く)

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