今様シンデレラの結末は-第10話

今様シンデレラの結末は-第10話

作家名:くまあひる
文字数:約4110文字(第10話)
管理番号:r700

10.悔恨

美和が心を開いてくれないと感じてイラついてしまった。
これが自分の悪い癖だとはわかっている。
自分が思う分だけ相手にも求めてしまう。
かつて日下はそんな俺のことを傲慢だと指摘した。
俺に遠慮なくそんなことを言ってくれるのは日下くらいだ。
だから日下とは長く友人としても続いているのだろう。
でも彼女は明らかに何かを抱えているように見える。
そしてそれを話してほしくて彼女に詰め寄ってしまった。
金曜の夜は普通だった。
飲んで、笑って、キスして、名前で呼んでくれて、美和も素で楽しんでいたと思う。

だが家に帰って話した美和の話し方は他人行儀で、まるで上司と部下のような。
俺を警戒しているようにすら思えた。
美和を自分のモノにしたくて強引に引き留めたからか?
違う、明るく快活な美和に影のような部分が見え隠れする。
美和自身が隠し続けているようにも思える。
あれから連絡もない。
こちらからすべきなのだろうが、どう解決したらいいのかわからない。
解決策も持たないまま会っても、また同じことの繰り返しだ。
どうすべきなのか考えていると、夜、日下から食事の誘いがあった。
珍しい、日下は嫁さんと晩酌するのを楽しみに生きているような男だから自分から誘ってくることなどほとんどない。
おそらくただの食事の誘いではないのだろう。

店に行くと日下はもう来ていた。
その表情は食事を楽しもうとしている男の顔ではない。
これからの話の内容を暗示しているかのようだ。
それに気づかないふりをして座る。
「お前からの誘いなんて珍しいな、何かトラブルでもあったのか?」
「お前、高橋に何を言った?」
「・・・・・」

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「彼女、体調を崩している。雨に濡れてしまったと言っていたが、お前と関係あるのか?」
「ちょっと、彼女の考えていることがわからなくてな・・・」
「まさか・・・お前まで彼女を責めたのか?」
「・・・・・」
「お前はどこまで傲慢なんだ!そんなんじゃ人の上に立って率いていく資格も器もないな。彼女を否定するようなことしやがって」
「そんなことしてないだろ!彼女は今とても精力的に仕事をこなしているはずだ、彼女が有能であることは誰もが認めている。誰も彼女を否定したりしていないだろ」

「お前ホントにそう思っているのか? 彼女はいつでも仕事面では認められていた。犬飼ですら彼女に仕事を押し付けてただろ。それにお前が現れたことで彼女のメンツは保たれた、問題はそこじゃない。彼女は間違いなくPTSDを発症している。彼女は長期に渡って犬飼からパワハラ・セクハラ・モラハラ・エイハラ・・・ハラスメントのフルコースを受けてたんだ。彼女の人格は全否定され女性としてのプライドはおそらく薄氷を踏むが如く崩壊寸前だったはずだ。現に他の女子社員は全員辞めているじゃないか。犬飼の仕打ちはこのテの案件を扱いなれた人事部員でも耳を疑う熾烈さだったらしい。

一人一人個別に聞き取りをしていく中、最初は半信半疑だったが、すぐにそれが事実としか思えなくなり、聞き取りをした数人の人事部員の調査結果が退職者全員全く合致していたことに驚いていたよ。普通は綿密に口裏を合わせていてもボロは出るもんだがな。聞き取り調査をした人事部員の女性は泣きながら聞いた人もいた。社内で公然とあんなことが行われていたかと思うと人事部として恥ずかしくて顔を上げられなかったと言っていたよ。ストレスを与え続けた人間が目の前からいなくなったからといって彼女のメンタルが回復するわけじゃないんだ。受けた心の傷は時間をかけてゆっくり薬を塗り続けてやらなきゃダメなんだ。

傍にいて、かけがえのない存在なのだと言い続けて、自分が必要な存在だともう一度思えるように支えてやらないと。それは本来、肉親の愛情が一番いいんだ。彼女が絶対的に信用していて、彼女を決して裏切らない、回復と後退を繰り返すのを長い目で見守ってやれる、無償の愛情を持っている家族のもとで傷を癒すのが。他人なんかじゃ不可能なんだ、それくらい深い傷を負っているんだ。彼女は今、自分を全く肯定できなくなっているんだよ。当然だろ、長期間自分を全否定され続けて、それを刷り込まれていたんだから。それをお前はよくもそんなことが出来たな。信用してる人間から与えられたダメージは計り知れない。まして手負いの人間なら致命傷になりかねない。お前が彼女にしたことは犬飼よりもタチが悪いんだよ。確かに高橋美和と言う女は強い人だと思う。耐えて耐えて限界がくるまで耐え抜いた人だから。だが無傷じゃないんだ。それどころか満身創痍で体中から血を流してるんだよ、今もな。お前が求める本来の強さを発揮できる状態じゃないんだよ」

「・・・・・・」
「それからな、犬飼のやったことは退職した女子社員から集団訴訟を起こされてもおかしくない案件だ。この件が世間に明るみに出たら、世間からは一斉に批判を受け、企業体質を問われ、この会社の企業価値は失墜する。最悪、経営陣は総辞職に追い込まれる。しかし彼女たちは人事部の聞き取りにも非常に協力的で、訴訟を起こす気配は窺えなかった。中にはその後の就職に恵まれず、経済的に困窮している人もいたのに。しかも100%勝てる裁判だぞ。 なぜだかわかるか?一つは愛社精神。

彼女たちには会社に育ててもらったという恩が残っている。犬飼が着任するまではやりがいのある仕事をさせてもらったと感謝した人もいた。もう一つは高橋の存在だ。自分たちが訴訟を起こせば高橋が困った立場に追い込まれる。犬飼の所業の証言を求められるからな。在職中の社員として会社と原告側の板挟みで苦しむことになる。彼女たちは調査の最後に皆こう言ったそうだ “高橋美和を守ってやってほしい”と。彼女たちは自分たちだけ逃げてしまったことへの悔恨があり、高橋が顧客を守ってくれたことに感謝していた。この上彼女を追い込むようなことはしないだろう。高橋は会社にとってある意味人質の役割を果たしているんだ。今の高橋に寄り添ってやれないなら離れろ。これ以上傷つけないために。

人はお前の思うようにはならない。お前が高橋を変えられると思っているならそれは驕りだ。高橋に限らず、人は皆いろんなものを抱えてるんだ。生まれ、育った環境、受けた躾、教育、どれ一つ同じものはない。それが長い時間をかけて人格を形成していき、各々生きる礎となっているんだ。彼女は自分を支えている基礎の部分を犬飼によって崩壊寸前まで否定されたんだ。高橋を地獄から救い出してやったとでも自惚れているのか?高橋に自分の理想を押し付けて、それに至らないからと責めるのは立派なハラスメントだぞ。俺から見たら犬飼もお前も大差はないわ」

「おい!」
「なんだ?違うと言いたいのか?じゃあ高橋に聞いてみるさ、今彼女は、お前から押し付けられた理不尽な期待に応えられないことにのた打ち回って苦しんでいるだろうよ。お前のその理不尽さに気づけないほど自分を見失ってるんだ。お前は高橋のどこを見てた?何も語らなかったが、彼女は自分が悪いのだと泣いていた。言ってみろ、彼女のどこが悪いんだ?お前が勝手に期待した挙句、彼女を地獄へ突き落としたんだよ。善良で親切そうなナイトの顔をしておきながら、とんだ死刑執行人だったってわけだ」

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「じゃあ、どうすればいいんだ。何で俺に頼ってくれないんだ。言わなきゃわかんねーだろ。美和が俺にそう言ってくれたら・・・・」
「お前!一回死んで出直して来たらどうだ?泣き喚いたら苦しんでいると認めるのか?笑っていたら悩みのない幸せな人間だと判断するのか?強い人間だから、出来ない自分を責めるんだ。強い人間だから弱音を吐けないんだ。パワハラを受ける人は決して弱いからじゃない。強いから我慢して我慢して笑うんだ。傷ついていると思われたくないから、その傷の存在も理由も知られたくないんだ。傷ついていても泣けない人間もいるんだよ。

限界まで追い込まれた人間からしたら、誰かを頼るなんてもう考えられないんだ。だから病んでいくんだよ。彼女は心の傷を恥と思っている。これはパワハラを受けた人間は少なからずそう思うんだ。自分にも落ち度があるのではないか、嫌われる原因があるのではないかと必死で理由を探すんだ。でもそんなものそもそもありはしない。パワハラをする人間の発端はほとんどが直感的な好き嫌いだ。でもまじめな人間ほど考えて考えて見つからない答えを探して回って、次は答えを見つけられない自分を否定し始めるんだ。

会社では彼女は普通に振舞っているよ。お前と2人でいるときもおそらく一般的な恋人だろう。でも一人になると犬飼に指摘されたことや傷つけられたことがフラッシュバックして、どんどん自分を否定してしまうんだ。そして繰り返しいろんなことを重ね合わせてしまうんだ、エンドレスの闇だよ。それがPTSDの恐ろしさだ。お前はトラウマになっている傷をえぐって、高橋の恐れていることを目の前でやってみせたんだ。俺からしたらお前はクラッシャーだよ。お前のような人間に見初められた高橋は気の毒だな。犬飼が消えたらお前のようなフレネミー彼氏が現れたんだからな。じゃ、帰るわ、勘違い男の顔見ながらうまい酒なんて飲めそうにないからな」

そう吐き捨てて日下は帰って行った。
PTSD・・・?美和が・・・。
時折見せる自己肯定感の低さはそれが原因だったのだろうか。
傷つけられたのは美和が語っていた仕事上のことだけではなかったのか。
俺は美和の会社での強い部分しか見えてなかったのか。
犬飼がいなくなったから、もう彼女がつらい思いをすることはないと思っていた。
彼女の環境を変えてリセットできたと思っていた。

けど彼女は一人でずっと戦ってたんだ。
理不尽に傷つけられたのに、一人で抱え込んで。
美和に気持ちを伝えて、受け入れてくれて、同じ気持ちだと舞い上がって何も言ってくれない美和を不満に思っていた。
彼女の現実なんてわかってなかったんだ。
俺を信用してないみたいで、頼ってくれないと思って不貞腐れて・・・。
彼女の中の強い部分だけしか認めてなかったんだ。
言えなかったのか・・・俺の傲慢さが美和の口を封じてしまったのかもしれない。

(続く)

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