今様シンデレラの結末は-第15話

今様シンデレラの結末は-第15話

作家名:くまあひる
文字数:約4130文字(第15話)
管理番号:r700

15.不穏な空気

赴任地に戻る前に日下に連絡を入れた。
日曜日ということもあり、家にいたいと渋る日下を連れ出した。
美和の日常を聞く為だ。
日下の第一声は「健康的になったな」だった。
もちろん仕事は順調だし、体調もいいようだ。
体力をつけるために階段を利用したり、忙しくても食事もちゃんととっているとのことだ。
一番肝心のトンビの話になると日下は少し表情を曇らせた。

「諦めてないよ、ウチのトンビ君は。多分な」
「・・・・」
「諦められると思うか?普通。お前よりも先に惚れて、チャンスを伺ってたのを、いきなり新参者に奪われたんだからな。しかもどんどんキレイになっていくんだ。それが他の男の手によってだとしてもだ。お前ならどうする?相手の男が今そばにいないとしたら、トンビ君にとっては今がこの上ないチャンスだろ」
自分でもその危機感はあった。
美和がとてもキレイになっていたから。

「どうすんだ?あの輝くばかりの変貌っぷりならトンビじゃなくても振り向くさ」
「わかってるよ、だからエステにはもう行かせないようにした」
「エステのどこが悪いんだ?」
「オーナーが男なんだ」
「もしかして・・・そんなことで行かせないようにしたのか?マジか?」
「施術で美和に触れた」
「バカかお前・・・・何でそう墓穴を掘るんだ。それじゃ、お前の器の小ささを彼女に御披露しただけじゃないか。終わったな」
「・・・・・・」
「彼女からしてみたら自分を信用せず、行動を束縛する男に魅力を感じるか?」

「じゃあ放っておくのか?お前ならどうするんだ?」
「まず彼女からサロンの話を詳しく聞き出すね。彼女がサロンのどこを気に入って通ってるかとか、そこにいる従業員のこととか、彼女の話をじっくり聞いて彼女の興味がどこにあるのかを探るね。お前の場合、彼女はお前がいない間にキレイになろうと頑張ってたわけでお前はその努力を否定した挙句、今後彼女が変化していくことすら拒んだんだ。ホントどうしようもない男だな、縛り付けてどうすんだよ。女は自分の懐の中で泳がせてやるのが一番なんだよ。ま、その狭―いお前の懐じゃ、そのうち彼女も息苦しくなって逃げ出すだろうけどな」
「・・・・・」
「女と付き合うのは初めてか?それなら情状酌量の余地はあるがな。それなりに女と遊んできたヤツが何やってんだ」
「・・・失いたくないんだ・・・俺の気持ちはもう固まってる」

テディプレイスーツ一覧01

「ふうん・・・、で?どうすんだよ」
「立ち上げが終わって落ち着いたら話そうと思ってるんだ」
「オヤジさんには話したのか?」
「ああ、好きにしたらいいと言ってた。跡取りはいるしな」
「専・・・幸也さんには?」
「話したよ、オヤジに話す前にな」
「反応は?」
「怒ってた。自分一人に押し付けるのかって・・・後悔しないのかって・・・」

「いいのか?後悔しないのか?」
「しない。もう何年も前から考えていたことだ。公私を共に過ごす最高のパートナーも見つけた。今までケリがついていなかったのはそこだけだ。オヤジとオフクロみたいにやってみたいんだ」
「そうか・・・頑張れよ」
日下と別れ、最終の新幹線で現地へ戻った。
美和には今度一緒にサロンに行こうとだけメッセージを送った。
美和のところに戻れるのを励みに着々と立ち上げを終わらせ、こちらにいるのも残り一週間を切った。
現地スタッフと夕食をとっていると、日下から着信があった。

「今いいか?」
その声を聞いただけで、良い話ではないと分かる。
「ああ、何かあったのか?」
「犬飼とトンビが接触しているようだ。おそらくお前の素性もバレているだろう。こっちに戻ろうと色々画策してるらしい。その一環としてトンビを抱き込んだようだ」
「待てよ、トンビ・・・筒井はアンチ犬飼だっただろ。それがどうして」
「油揚げが手に入るとしたら?諦めきれない男に飛びつくような情報が与えられたら?」
「っ!」
「お前と高橋の間を引っ掻き回して、トンビは高橋を手に入れる。犬飼はお前と会社にダメージを与えた上、お前をネタに交換条件出してこっちに戻るって筋書きじゃないの?」

「バカなことを、幸也はともかくオヤジがそんなことでひるむとでも思ってんのか。これは犬飼の独断か?それとも犬飼の親族っていう役員が裏にいるのか?」
「俺の予想だと多分独断。役員クラスならオヤジさんの気性を知ってる。今は幸也さんに任せて表舞台には一切出て来られないけど、オヤジさんが本気になったら誰も無傷では済まないことはわかってるはずだ。バカな男だよ、せっかく幸也さんが穏便に済ませたってのに。本来なら懲戒解雇だぜ」
「出来るだけ早くそっちへ帰る」
「それだけでいいのか」
「俺のことは俺の口から彼女に伝えたいんだ」
「トンビが先にちょっかい出してくるかもしれないぞ、あることないこと吹き込んで」

「俺は美和を信じる、美和も俺を信じると思う」
「はいはい、ゴチソーサマ!じゃ俺は高見の見物といきますか」
日下の呆れたような、安心したような声を聞いて電話を切った。
それからすぐ俺は電話を掛けた。
「由紀、この前言ってたよな。俺と出かけた時、誰かに写真を撮られたって」
「うん、でもあれからは何もないから。どうしたの?」
「ちょっとな、厄介なことになりそうなことがあって」

由紀に話のあらましを話すと
「お父さんと幸也相手に戦いを挑むってある意味すごく勇者よね」
「だな」
「けど、お父さんにたどり着く前に幸也に返り討ちにされるわよ。あの子最近たくましいのよ、いろんな部分で」
「うん、そこは心配してない。問題は俺と一緒にいるときに撮られたと思われるお前の写真だ」
「何でよ、家族なんだから構わないでしょ」
「何も知らない人間にまことしやかにウソを吹き込むことに利用されるかもしれない」

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「ふーん、彼女にまだウチのこと言ってないんだ・・・・兄さんにしちゃもたついてるわね。彼女って、私と兄さんで支店に乗り込んでいった時にいたあの人よね?」
「ああ、俺がこっちに戻ったら話すつもりだったんだけど、ちょっと横ヤリが入りそうでな。お前の写真が使われそうだから先に言っとこうと思ってな」
「私より彼女の心配したら?まっ、私の写真を悪用したらどうなるか思い知らせてやるから。そのあたりはお気遣いなく」
そう言って電話は切られた。
後は・・・美和だけだ。
あんなヤツらの言う事なんか信じずに待っていてくれよ。
俺は祈るように空を見上げた。

月曜日、ランチから戻ると筒井さんに呼び止められて、
「話があるから、今夜、時間を取ってほしい」
それだけ言って去って行った。
仕事の話なら会社で出来るだろうし、思い当たるものがない。
でも筒井さんがそういうのなら大事な話に違いない。
純粋にそう思っていた。

待ち合わせた場所のカフェに行くと筒井さんはもう来ていた。
「あの、お話って何でしょう」
「高橋、滝本課長と付き合ってるんだろ」
想定外の問いかけに心臓がドクンと音を立てる。
「はい」
「あの男のことはどこまで知ってるんだ?」
「どこまでって・・・」

言葉を濁していると一枚の写真を見せられた。
滝本さんとジュエリーと思われるショーケースを見る、どこかで見たことのある女性。
どこだったかしら・・・思い出そうとしていると
「場所はジュエリーショップ、一緒に写っている女性は婚約者。犬飼課長が更迭されたときに滝本課長と一緒に来てただろ」
「婚・・約者?」
「お前、遊ばれてんじゃないのか?」
「そんな・・・彼はそんな人じゃない」
「じゃあ、もう一つ教えてやるよ。ヤツの名前は滝本じゃない、木之内柊だ」
「木之内?」
「ああ、ウチの会社の経営一族だ」

「うそ・・・・」
「名前までウソついてたんだぞ、そんなヤツ信用できるか?」
「・・・・・・」
「じゃあ、その写真見せて、本人に直接確かめてみろよ。すぐにわかるさ。高橋、騙されてるんだよ、お前は」
「・・・・・」
「早いとこヤツを問い詰めるんだな。あんな男、お前にふさわしくない」
「失礼します」
私はそういうのが精いっぱいだった。

木之内・・・?オーナー一族?
騙されてる・・・?
筒井さんが言った言葉が繰り返される。
電話して確かめようか、でも・・・怖い。
ホントだったら・・・。
電話の向こうでいとも簡単に別れを告げられたら・・・。
妄想ばかりが頭を駆け巡る。
どうやってアパートにたどり着いたかは覚えていない。
ベッドに腰掛けているとケータイからメッセージを受信した音がした。
この音は柊さんだ。
恐る恐る画面をタップすると、
“美和、そっちに火曜日に帰るよ。任務完了だ!”
それと送られてきた一枚の写真。
柊さんと一緒に10人くらいのスタッフが写っている。

そして間を置かず“一緒に立ち上げた戦友たち”とのコメント。
全員が笑顔で写っている。
騙している相手にこんな写真送ってくる必要があるのだろうか・・・。
けど、筒井さんの言うこともウソとは思えない。
柊さんには何か事情があるのかもしれない。
もうすぐ帰って来るんだし、本人に直接聞いてみよう。
もし騙されていたら・・・?
そう考えてみたけど、不思議とその考えは途中で途絶えてしまう。
裏切られて彼を失ってしまうことは恐怖だ。
彼がいない生活など、もう考えられない。
でも、なぜかそうではないとどこかで根拠もなく信じている自分がいる。
本能なのか、おめでたいのか自分でもわからない。

週明け出勤すると日下課長から「もうすぐ帰って来るね」と声を掛けられた。
「はい」と言うと、少し不思議そうな顔をして、
「不安はないの?」
「ありますよ、すごく不安です」
「でも、そうは見えないよ」
「課長は全部ご存じなんですか?」
「うん、君が知りたがっていることは・・・多分」
「そうですか・・・」
「僕から聞き出そうとしないの?」

「本人から聞きます、事実だけを」
「強くなったね」
「全然です、今も悪いことばかり妄想しちゃいます。でもせっかちで強引で変態な人だけど、うそつきとは思えないんです」
「さすが!アイツのことよく理解できてるよ。でも、身辺だけは気を付けてね。君の知らないところでひと悶着ある気配だから。アイツが帰って来るまではあまり一人にはならないように」
そう言って日下課長はデスクに戻って行った。
そんな警告をしてくるなんて何があるんだろう。
生まれてこのかた、身辺を狙われるようなことは一度もないのに。

(続く)

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