今様シンデレラの結末は-第8話

今様シンデレラの結末は-第8話

作家名:くまあひる
文字数:約2780文字(第8話)
管理番号:r700

8.変態の自白

その後も、以前と全く変わらない雰囲気で食事を済ませ、店を出た。
駅に向かって歩いていると思っていたら、気がつけば彼のアパートの前まで来ていた。
手をつないだまま立ち止まると、
「約束変更OKだよね、日付が変わるのも」
「・・・・・・」
「美和さんの嫌がることはしないよ。二人で飲みなおしたいだけ」
「はい」

2度目となる滝本さんのマンションは立地、築年数を考えてもかなりの優良物件のように思える。
前回、私が酔っ払って横になっていたソファーも変わらずそこにいた。
「座ってて、用意するから、といってもコンビニで買ったものしかないけど」
改めて見る彼の部屋は物も少なく、生活感はあまりない。
テレビとDVD、ソファーとローテーブルだけがリビングにあり
書斎的に使われているのが一部屋とあとは寝室のようだ。
「ゴメン、自炊しないから食器類もあんまりなくて」

彼が手に持っているのはナッツが山盛りになったお皿と、チーズが盛り付けられたお皿。
脇にはポッキーの箱が挟まれている。
「何飲む?」
「お任せで」
持ってきてくれたビールを開けて乾杯。
テレビをつけて、他愛のない話が続く。
いつの間にか腰に腕が回されていたことに気が付いて思わず離れようとすると、それを拒むように彼の腕に力が入る。

「何もしない、でも傍にいて。久しぶりの美和さんなんだよ。会いたくて会いたくて眠れないくらいだった」
「う・・・すいません。何か久々に恋愛モードなのでちょっと免疫薄れてて」
「会社では大人の女性そのものなのに・・・かわいい」
「滝本さんこそ、さっきの居酒屋では淡々と事務的な口調だったのに、ストレートすぎます」
「だってさ、あんなところで捕獲オーラ全開で迫って美和さんにドン引きされたらまた逃げられるだろ。でも今日は絶対に逃がすつもりはなかったから。
一応あそこでは紳士的に振舞ってみました」

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「あまりに飄々としてたから、別にどっちでもいいのかと思ってました」
「一応言っとくけど、他から見ると俺は重いらしんだよね」
「重いって何が?」
「日下に言われたんだよ。美和さんのこと話した時にさ。まもなくストーカーの領域に入るとか、軽―く変態だとか」
「変態!?」
「あ、そのっ変な性癖があるとかじゃないよ」
少し慌て気味に否定する滝本さんがかわいくて笑ってしまった。

「笑ったな」
「だって・・・でもどこが変態なのか興味あるんですけど」
「自分では普通なんだけどな」
「わかりました、じゃ変態なところを見つけたら指摘しますね」
「お手柔らかにお願いします」
「美和・・・」
そう呼ばれた直後、腰に回されていた腕は私の後ろ頭をホールドしていた。
「イヤなら言って」
「イヤ・・・じゃない・・・です」

もう一度「美和」と呼ばれて唇はふさがれた。
キスってこんなに気持ちいいものだったんだろうか。
久しぶり過ぎるから?滝本さんだから?
彼の舌が私の唇を軽くノックしたと思うと、それが私の舌を追うように絡まり快楽が私の脳を刺激する。
「ゴメン、我慢できなかった」
「ううん、恥ずかしいけど、なんかクラクラしちゃいました」
「我慢している男の前でそういうこと言うのダメだろ!煽ってんの?」

「いっいえいえ、決してそんな」
「今日はこれ以上何にもしない、嫌われたくない」
「そんなの気にしないでください、大丈夫ですから」
「またそんなこと言う!」
「でも、そろそろ帰りますね」
「何で?」
「何でって・・・、とりあえず帰らないと。着替えもないし」
「あるよ」
「は?」
「一通りのモノは全部ある、来て」

手を引かれて連れて行かれたバスルームには歯ブラシやバスローブは言うに及ばず女性モノと思われるパジャマ、アメニティが置いてある。
もしかして元カノのモノか?と疑いたくなったが、どれも封を切られていない新品だった。
「これって私・・・用ですか」
「当たり前だろ」
「だって、今日成立した関係なのに・・・」
「美和がいつ来ても困らないようにしときたかった」
「・・・・」
「美和、引いてる?」
「あ、いえ・・・私がお付き合いを断ったらどうするつもりだったんですか?断わられない自信があったとか・・・」

「まさか、可能性は低いと思ってたよ。でもあきらめるつもりもなかったから」
「日下課長のおっしゃる意味がなんとなく分かった気がします」
「それは・・・変態と思ってるのか?」
「変態とは思ってないですけど・・・」
「けど・・・何?」
「いえ・・・」
居酒屋での淡々とした口調に温度差を感じていたけど、そうではなかったことにほっとした。

「ありがとうございます、でも帰ります」
「何で?」
「初日からお泊りじゃ・・・・・ 取り合えずケジメというか?」
「美和は帰りたい?一緒にいたくない?ケジメとかじゃなくて、美和の気持ちは?」
ああ、そんな顔されるとほだされてしまいそうだ。
付き合い始めた初日にお泊りなんて。
だけどホントは・・・。
「美和」

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そんな声でそんな顔で呼ばないでほしい。
逆らえなくなってしまう。
「・・・・・」
「さすが、意志の強さは筋金入りだな」
「強情な女だと思ってますか?可愛気のない女だと」
「思うわけない、そういう美和に惚れたんだから。でも帰したくないのも本音なんだ。お泊りって思わずに、帰る手間が省けたって思うのはどう?僕の部屋だと思わずにビジネスホテルと思えば?」
「滝本さん・・・」
「それはやめよう、柊だよ」

「柊・・・さん」
「うわっ、そんな顔で呼ばれると破壊力あるな、帰さなきゃと思ったけどやっぱ無理だ」
「え?」
柊さんは再び私の手を引いて、リビングに戻った。
ソファーにもたれて私にも隣に座るようにそこを軽く叩いた。
座るのをためらう私の手を強く引いたため、柊さんの胸に倒れこむ形になってしまった。
あっという間に横抱きにされてしまい、身動きが取れない。
耳まで真っ赤になっているのが自分でもわかる。
それに比べて柊さんは冷静そのもの。
自分の恋愛偏差値の低さが露呈する。
柊さんはこんなこと慣れているんだろうなと思ってしまう。

「今日は帰らないで。ここで一緒に話しててもいい、このまま寝てもいい」
付き合うことになった初日にこんな状態で眠れるヤツなんているのか?
こうして至近距離でじっと見つめられるだけで心臓が口から出そうなくらいなのに。
「お付き合いすることになったのでいつでも連絡しあえますし、こうして会いたい時に会うこともできます。今日は帰らせてください」
「わかったよ、タクシー呼ぶよ」
「ありがとうございます」

私の頭を撫でながら、ケータイでタクシーを呼んでくれるのを見て、申し訳ない気持ちになる。
「ごめんなさい、怒ってますか?」
「怒ってると思う?」
「・・・・・」
「美和の嫌がることはしないって言っただろ、嫌われたら元も子もないだろ」
「ありがとう、柊さん」
「それ、クるな・・・鳥肌立つよ」
「何が?」
「美和に名前で呼ばれるの、ゾクゾクする」
そう言っておでこに一つキスされた。

(続く)

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