今様シンデレラの結末は-第3話

今様シンデレラの結末は-第3話

作家名:くまあひる
文字数:約1790文字(第3話)
管理番号:r700

3.正体

月曜日、課長のデスクに辞表を置いた。
それを見た課長は「ああ、やっと辞めてくれるんだね」と満面の笑みを浮かべた。
この人が来るまで自分がこんな辞め方をするなんて思ってもみなかった。
課長が立ち上がり、課員全員に聞こえるように
「本日で高橋さんが退職しまーす!」と嬉しそうに叫んだ。
「お世話になりました」
一言だけ挨拶してデスクを片付け始める。
用意してきた紙袋に私物をまとめオフィスを出ると、滝本さんが女性と一緒にこちらへ歩いてきているのが見えた。
「滝本さん?どうしてここに?」
「美和さん。よかった、間に合って」
そう言って私の腕をとり、オフィスへ連れ戻した。
そして一緒に歩いてきた女性が課員全員を集め、話し始めた。
「本日からこの課はこちらにいる滝本課長の管理下に置かれます。滝本課長は本社所属で、この課の総括責任者として着任します」
「皆さん本日からお世話になります、よろしく。では人事異動を発表します。犬飼課長、八戸支店に行ってください」
「なっ、なぜ私が!?」
「心当たりがありませんか?」
「ありません!到底納得できませんよ!」
「では、お聞きしますが、あなたが着任してから何人の女子社員が退職しましたか?本社人事部はその一人一人に電話をして聞き取り調査を行いました。すると全員が口をそろえて言いました。犬飼課長の嫌がらせに耐えられず退職したと。会社が時間をかけて育てた有能な人材をあなたの個人的な感情で退職に追い込んだ。そして今、また顧客からも信頼の厚い高橋さんまでも追い出しましたね。有能な人材の流出はわが社に損害を与える行為です」
「追い出したなんて。ほ、ほら、ここに彼女の辞表があります。追い出したんじゃありません、彼女が自分から辞めたんですよ。私のせいにするのはやめてくださいよ」
「そうですか」

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入り口で案山子のようにその様子を呆然と眺めていた私に、滝本さんは入室を促した。
「高橋さん、あなたの退職理由を教えてください」
「あ・・・」
「正直に、大丈夫です。あなたの証言であなたが不利な状況になることはありません。何も恐れることはありません」
「私は・・・犬飼課長に長期にわたってパワハラを受けていました。これが退職理由です」
「高橋君!何を言ってるんだっ!」
「犬飼課長、私がいつ辞めるか賭けてたんでしょう?」
課長は先ほどまでの勢いはすでになく、声は裏返り、顔面蒼白だ。
「という事です、犬飼課長。引継ぎは結構ですから、即日八戸支店に着任してください」
滝本さんは皆に追って新体制の配置転換を発表すると告げた。
そのあと私は滝本さんに会議室に呼ばれた。
「美和さん、ありがとう。当然この辞表も無効です。今後もこの会社に貢献してください」
そうか・・・彼が私に近づいたのは会社の為だったのか・・・。
今やっとすべてが飲み込めた。
「それから、金曜日の約束は無効ではありませんよ」
「え?でも、もう必要ないのでは?」
「あ、いやこれからも、その・・・この会社のこと色々教えてほしいし。じゃっ、そういう事で、これらも宜しく。おっと、これから本社帰らなきゃいけないんだった」
滝本さんは慌ててオフィスを出て行った。
ほら・・・ね。
一瞬でもバカな期待を持った自分が恥ずかしかった。
紙袋の中身をデスクに戻し、オフィスを見渡すと、喜び組たちも自分の境遇が激変したことに動揺しているようで、チラチラと私の様子を窺がっているようだ。
それもそうか、いきなりご主人様がいなくなっちゃったんだから。
アンタたちこれから大変よ・・・と、どこか憐れむように感じていた。

翌日には新しい仕事の分担と配置が全員にメールで送信された。
私は・・・えっ?チームリーダー!?
部下となるのは、あの喜び組のメンバーだ。
なぜこんな配置にされたのだろう、うまくいくわけないのに。
昼休憩の食堂で2期上の筒井さんが目の前に座った。
「高橋、良かったな」
「筒井さんも昇進おめでとうございます」
「いや、お前に祝福してもらう資格はないわ、何も助けてやれなかったからな」
「そんな・・・筒井さんもかなりキツかったでしょう?犬飼課長は有能な人を片っ端から潰しにかかっていたから」
「なあ高橋、金曜日飲みに行かないか、祝杯上げようぜ」
「あー、金曜日はちょっと」
「なんだよ、男か?」
「そんなんじゃありませんよ、ちょっと先約がありまして」
「OK、また誘うよ」
祝杯か・・・また会社の人と飲みに行ける日が来るなんてね。

(続く)

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