濃いのは危険-第1話

濃いのは危険-第1話

作家名:バロン椿
文字数:約3150文字(第1話)
管理番号:k075

スーパーで働く木村久美は結婚して10年になるが、子供が出来ずに悩んでいた。そんな悩みを職場の同僚、中村洋子に「主人は43で、薄くなったから、濃いのを出してくれる若い子となら出来るかしら?」とふと漏らしたことから、相手探しが始まるが、狙われた若い子とは、なんと東京大学法学部3年の佐々木幸一。

子種の出し手としては申し分ないが、さあ、どうなるか?

他人に言えない悩み

「皆さん、おはようございます」
朝礼で男の主任が元気一杯の声を出したが、スーパーは女の職場。
実質、仕切っているのは、パートだが、怖いもの知らず、44歳のオバチャン、中村(なかむら)洋子(ようこ)だ。
今朝もさっそく、皆の身だしなみをチェックするが、25歳の新婚、天知(あまち)恵美子(えみこ)が餌食になった。

「あらら、天知さん、なによ、その爪?」
「え、これですか?ふふふ、2時間かけて手入れしたの」
「ダメよ、そんなネイルアートなんか。レジが打てるの?食品を扱って、お客さんがいい顔するとでも思っているの?」
「でも、彼が……」
「ダメなものはダメなの。すぐに剥がしてきなさい」
「酷い……」

彼女は泣きながら、ロッカールームに駆け込んでいったが、こうしたことは日常茶飯事。
「それでは、今日も頑張りましょう!」と主任が朝礼を締めくくったが、オバチャンたちは「はあーい」と気の抜けた返事をして、てんでんばらばら、持ち場に散っていた。
しかし、レジのカンバン娘(といっても、オバチャンだが)の木村(きむら)久美(くみ)は思いつめた顔で洋子の方に寄って来た。
「元気ないのね。何かあったの?」
「またダメだったのよ」
「そうなの。ねえ、直ぐに出来ちゃう時もあるのにね」
「主人は43だから、だんだん薄くなっちゃうのかしら。私も年が年だから、もう無理なのかな。でも、赤ちゃん、欲しいな」

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彼女は38歳。
結婚して10年になるが、なかなか子供に恵まれない。
今度こそはと思っていただけに、結果が出ずに落ち込んでいたが、声を掛けられると、溜まっていたものを吐き出したいもの。
キョロキョロと周りに人がいないことを確かめると、「変な話なんだけど、時々、主人じゃなくてもいいから、濃いのを出してくれる人としたら出来るかな、なんて考えちゃうのよ」と切実な思いを洋子に打ち明けた。

しかし、朝だ。
いきなり、こんなことを相談されても、直ぐにはいい考えなど思い浮かばない。
「濃いのね……若い子なら、きっと濃いわね」と軽い気持ちで呟いたのだが、「そう、若い子でA型なら、直ぐにでもして欲しいの」と久美が真剣な眼差しで、迫ってきた。
こうなると、逆に、洋子の方が追い込まれてしまう。
だが、店内を思い浮かべても、さえないオジサンしかいない。
だが、「アルバイト募集」の貼り紙を目にした瞬間、パッと閃いた。

「いる、いるわよ、いる、幸一君よ。あの子、A型よ。この間、献血したって言ってたの。間違いないわよ、久美さん」
「幸一君」、通称「幸ちゃん」、本名、佐々木(ささき)幸一(こういち)。
背が高く、イケメンの21歳。
いや、東京大学法学部3年生と言った方がいいかも知れない。

ところが、その名前を聞いて、久美は「ダメ、ダメよ、そんなこと、絶対にダメ」と頬が赤くなった。
(あら、やっぱりそうなんだ……)
ニヤッと笑った洋子が「幸一君のこと好きなんでしょう?いつも言ってたじゃないの」とからかうと、「そ、それは、『いい子』って意味でよ、洋子さん」と慌てる。
これは格好のイジリ材料。
「何を言ってるのよ。一昨日だって『デートしたい』って言ってたのに、今になって、それは無いでしょう」と洋子が突っ込むと「そんなつもりはないけど……」と久美はしどろもどろになってしまった。

こうなれば、洋子の思う壺。
「あの子、今月でアルバイトを辞めるのよ。誰にも解らないように誘って、ホテルで押し倒しちゃえばいいじゃない」とけしかけるが、「でも、そんなこと……」と久美はウジウジしている。
「おはようございます」、「いらっしゃいませ」と買い物客が増えてきた。
いつまでもこんなことをしている訳にはいかない。
「じれったいわね」となじられても、「だって……」と踏ん切りがつかない久美に、洋子は強行策を打つことにした。

「しょうがないわね。ねえ、いつが排卵日なの?」
「28日だけど」
「じゃあ、幸一君の送別会は28日にしましょう。その日、いいわね、私の言う通りにするのよ、分かった?」
6つ年上の洋子に、ここまで言われると、断りようがなく、「でも……」と口ごもるが、「心配しないで、任せなさい。うまく彼とセックスが出来るように、段取りは悦子さんと相談して決める。いいわね」と話がどんどん先に進んでしまう。
しかも、名前が上がった片桐(かたぎり)悦子(えつこ)は42歳のバツ一だが、なによりも面倒見が良く、「困った時は悦子さんに相談!」がパートのおばさん達の合言葉になっている女。
洋子だからと思って悩みを打ち明けたのだが、とんでもないことになってしまった。

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送別会は最初から大暴走

「幸一君、今日で退職だね。これ、少ないけれど、お餞別だ。勉強、頑張れよ」
幸一は4月から大学3年になるので、3月末でアルバイトを辞め、司法試験の勉強に専念する。
店長から金一封を頂くと、パートのおばさん達とカラオケボックスでの送別会に出掛けた。
「4月から幸一君は弁護士をめざして勉強に専念します。だから、今夜は幸一君を思いっきり可愛がりましょう!」

幹事の悦子の挨拶が終わると、さっそく久保(くぼ)礼子(れいこ)が「かんぱ~い!」とジョッキを持ち上げると、続いて、皆が「プハ~ッ!美味いっ!」、「やっぱり、ビールよね」と美味しそうにビールを飲み干していくが、息をつく間もなく、礼子と松本(まつもと)聡子(さとこ)の間で幸一の争奪戦が始まった。
「幸一君、私の側にいらっしゃい。かわいがってあげるから」
「礼子さん、誘惑しようとしてもだめよ。今日は私の隣だから」
礼子は背が高くてモデルのような美人だが、「宴会部長」と言われるくらいに羽目を外しすぎるので、男性との付き合いは長続きせず、40歳になるのに、いまだに独身。

聡子も二人の娘がいる41歳のお母さんだが、外で飲んだりするのが大好き。
「ダメよ、今夜はみんなで幸一君を可愛がるんだから、礼子さんや聡子さんのものじゃないのよ」
礼子や聡子の暴走を止めるのは幹事の悦子の役目だが、何しろ、洋子が仕掛ける秘密の企みに一枚噛んでいるから、止めるよりも、久美の邪魔をせぬように、「さあ、礼子さんが歌っている間、聡子さんが幸一君とダンス、聡子さんが歌っている間に久美さんが、ねえ、順番よ。分かった?」と、仕分けた。

しかし、一度乗り出すと、手がつけられない。
「幸一!」と聡子が幸一を抱きしめ、またまた暴走が始まった。
こうなると、一旦引き離された礼子も黙っていない。
頬にキスしたり、股間にタッチしたり、危ない振る舞いばかりだが、久美だけがひどく緊張し、一人乗り遅れている。
「どうしたの?元気がないけど」と企みを知っている悦子が嗾けたが、ちょうど、そこに「疲れました!」と幸一がソファーに倒れ込んできた。

だが、乗りまくっている礼子は「こら、幸一!休みはないのよ」と手を引っ張る。
まさにオバサンワールドの「ハーレム」状態だが、ヒートアップしすぎると、計画が狂う。
「少しは休ませないと、ベッドまでもたないわよ」と、洋子は笑って、彼を引き戻すと、「宴会部長」の礼子は切替えが早い。
「ふふふ、ベッドね。洋子さんが誘うのかしら?」とハイボールで一息入れる。
幸一も「暑い……」とおしぼりで額の汗を拭うと、「ベッド、誰を?」と能天気なことを言っている。

(まったく世話のやける人ね)
呆れた洋子は「幸一君は何座?」と次なる手を繰り出した。
「牡羊座です。3月30日、明後日が誕生日なんです!へへへ、プレゼントでもあるのかな」
「ええ!そうなんだ。何か考えないとね、悦子さん」
「そうね、洋子さん。でも、これだけじゃ、どんなものがいいか解らないから、もっと幸一君のこと、聞かなくちゃ」
洋子と悦子は久美を見て、“さあ、始めるわよ”と次のステップの幕を切り落とした。

(続く)

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