現代春画考~仮面の競作-第5話
その話は、日本画の巨匠、河合惣之助の別荘に、悪友の洋画家の巨匠、鈴木芳太郎が遊びに来たことから始まった。
本名なら「巨匠が何をやっているんだ!」と世間がうるさいが、仮名を使えば、何を描いても、とやかく言われない。
だったら、プロのモデルじゃなく、夜の町や、それこそ家政婦まで、これはと思った女を集ろ。春画を描こうじゃないか。
作家名:バロン椿
文字数:約2520文字(第5話)
管理番号:k086
実地試験
「あの……」
二人は文字通り〝棒立ち〟の和夫を入浴させるのも忘れていた。
「あ、ごめんね。先生、ちょっとそっちに寄って。ねえ、先生、先生たら!」
「あ、あ、うん。見とれとった」
画伯は一旦立ち上がったが、「いや待てよ」とすぐに湯船に座り込んだ。
「どうしたのよ、先生?」
「幸代さん、彼と、和夫君と、あ、あの…」
端切れの良い画伯が言い淀んだ。やはり、あれは言い出し難い。だが、頭に浮かんだインスピレーション、「元服前の若侍を奥女中が犯す」、それを描くチャンスを逃がしてはならない。「セックスしてくれないか?」と幸代の腕を掴んでいた。
「な、何を言ってるの!」と幸代はその腕を振り切ったが、「なあ、頼むよ。この通りだ」と画伯は目を光らせ迫ってくる。
(全く、何を考えているのよ……)
幸代は怒るのを通り越し、呆れていたが、目が光っている時の画伯の要求は、たとえ、それがどんな理不尽なものであっても、応じなくてはいけない。彼との付き合いの長い幸代は十分に分かっていた。
「しょうがないわね、先生がそこまで仰るんだから」と言って湯船から上がった幸代は簀子にバスタオルを敷くと、「いらっしゃい」と和夫を誘った。だが、河合画伯がじっと見つめている。そんなところで女と抱き合うなんて、遊び馴れた男にしかできない。
女のことを何も知らない和夫は「ぼ、僕は……」と後退りしたが、幸代も引き受けた以上は意地もあるから、「ダメよ、逃げちゃ」と手を掴んで、グイッと引き寄せた。すると、「あ、あ、あああ」と和夫は倒れ込むようにして幸代に重なったが、チュッ、チュッ……と唇を合わせられると、抗うことはなかった。頭の中からは河合画伯が見ていることなど消えてしまった。
「おっぱい揉んで」、「乳首、舐めて」と幸代に言われるがまま、気がつくと、顔は下腹部に埋まっていた。顔にはごわごわした黒い陰毛がかかり、頭を押されると、目の前には初めて見る性器が……周りの肉よりも黒ずんではいるが、少し膨らんで、縦に合わせ目が走っている。和夫はカアーと後頭部が熱くなったが、幸代は「舐めて」なんて言う。
頭がおかしくなった和夫は夢中でそこに吸い付いた。少ししょっぱいが、ペロペロしているうちに、ヌルヌルしてきた。そして、「はあ、はあ、あ、あ、あああ……」と悩ましい声。彼のペニスはグーンと伸びて20cm程、まさに青竹のように股間からそそり立っていた。
その時、画伯はカッと目を見開き、二人の様子を追っていた。
幸代は和夫に体を開きながらも、横目で画伯を見ていたが、彼の目に絵心が浮かんでいたことに気付いていた。
(だ、ダメよ、こんなことを絵にしたら……)
しかし、とっくにその気になっている画伯を止められないことも良く知っている。腹を括った幸代は「もういいから」と和夫の肩を叩いて舐めるのを止めさせると、体を入れ替え、そのペニスをパクンと口に咥えた。喉仏まで届きそうな大きさ。しゃぶれば、「ああ。ああ」と泣きそうな声を出して体を捩る。初めての男に無駄玉を使わせてはいけない。
咥えていたペニスを口から離した幸代は和夫の上に跨ると、右手でしなる青竹のようなペニスを掴んでヌルヌルの性器の合わせ目にあてがい、ゆっくりと腰を下ろしていった。
(よし、その目だ、その目。若侍が大事な筆を下ろす目……いいぞ、幸代さん。ギャラはうんと弾むから……)
幸代と画伯がそんな勝手な思いを巡らせている間にも、童貞を卒業する和夫は、おののきの目から歓喜の目に変わっていった。そして、直ぐに、「あ、あ、あああ……あっ!あっ!あっ!……」と下から腰を突き上げるようにした、和夫は大量の精液を幸代の中に噴き上げ、立派に「元服」を果たしていた。
(ふぅー、いいものを見せてもらった……)
早く絵筆を取りたい画伯は湯船から勢いよく飛び出した。しかし、物足りないのは幸代だ。
「あん、先生、私、こんなんじゃ、イヤよ」と不満を漏らすが、次のことを考えている画伯はそんなことには関心がない。
「おお、二階の客間を使え。布団が敷いてあるぞ」
「泊まってもいいの?」
「好きにすればいい」
画伯は振り返りもせずに浴室を出て行ってしまった。
絶品!
応接間に残された近藤啓子が心配そうな顔をしていた。
「吉光さん、どうなるの?」
「先生は風呂好きですから」
「そんなことじゃなくて、浮世絵って、本当は春画なんでしょう?」
「えっ、そんなこと言いましたっけ」
目を合わせたくない吉光は惚けながら、庭の方を見ていたが、そこに「おい、掘り出し物だぞ」と白いガウンを着た河合画伯が風呂場から目を輝かせて戻ってきた。
「先生、どうしたんです?」
吉光ではらちが明かぬと、近藤啓子は思い切って、そう訊ねたが、「いやあ、近藤さん、あなたの甥っ子は〝立派なもの〟を持っている」とすこぶる機嫌が良かった。
「えっ、〝立派なもの〟?」
「ははは、決まっているでしょう、チンチンだよ。こんなに大きい。絶品だ!」
芸術家、河合惣之助に常識は通じない。女性、しかも叔母にあたる近藤啓子に両手でサイズまで示している。
「ま、まさか……」と言葉を失い、顔どころか、首まで真っ赤になっていたが、そんなことにはお構いなく、「今日はここに泊まるそうだ。今、うちのモデルの幸代さんとセックスしとる。幸代さんが彼を離さないよ。ははは、凄いよな、こんなだもん」とお腹を抱えて笑っている。
近藤啓子を騙した吉光もあっけにとられ、言葉が出てこなかった。
「吉光、近藤さんの頼みは何でもOKだ。よろしくな。じゃあ、僕はこれで」
画伯は一方的にそう話すと、もう一度、「凄いよな」と呟きながらアトリエに戻って行った。
「はは、ははは、そういうことで、近藤さん、よかったですね」
吉光は笑ってその場を終わらせようとしたが、近藤啓子には通じない。
「よかった?どんな神経しているのよ!」
「あははは、まあまあ、そんなに怒らない」
「バカ!全く何を言ってんのよ。姉に会わす顔が無いじゃないの」
「まあまあ、今日のところは。これで。いずれお礼を」
こうして近藤啓子はその別荘から追い出されたが、彼女は道徳的罪悪感に頭がくらくらして、その夜、どのようにして帰ったか、全く覚えていなかった。
(続く)
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