現代春画考~仮面の競作-第4話
その話は、日本画の巨匠、河合惣之助の別荘に、悪友の洋画家の巨匠、鈴木芳太郎が遊びに来たことから始まった。
本名なら「巨匠が何をやっているんだ!」と世間がうるさいが、仮名を使えば、何を描いても、とやかく言われない。
だったら、プロのモデルじゃなく、夜の町や、それこそ家政婦まで、これはと思った女を集ろ。春画を描こうじゃないか。
作家名:バロン椿
文字数:約3220文字(第4話)
管理番号:k086
悪魔に魂を売る
「他の雑誌記者もモデル候補者を連れて来るから、叔母さんの顔を立てるつもりで頼まれてよ」
「僕なんかモデルになれるの?」
「バカね。なれる訳がないじゃない。でも誰か連れて行かないといけないのよ」
「へへ、叔母さんも辛いんだね」
「そういうことよ」
近藤啓子は甥の荒井(あらい)和夫(かずお)を連れて画壇の実力者、河合惣之助のところに向かっていた。
三日前、近藤啓子は姉に電話をした。
「絵画雑誌のモデルコンテストがあるのよ。日本画の河合画伯が審査委員長なのよ。和夫を連れて行ってもいいでしょう?」
本当の目的など話せない。万が一、姉に知られたら、もう二度と顔向け出来ない。
「啓子、河合画伯って、あの有名な人?」
「お姉さん、そうなのよ。」
「だけど、和夫は痩せっぽちでモデルなんか出来ないわよ。」
「それは分かっている。選ばれる筈がないけど、とにかくモデル候補を連れて行かないと、『お前は役立たず』って締め出されちゃうのよ。だから、お願い」
「そんなに厳しいの?」
「河合画伯のマネージャーが意地悪なのよ」
中堅雑誌ながら、質の高い記事と評価が高い「主婦のお友だち」の編集長をしている妹がピンチ。姉としては何とか助けて上げたい。妹が自分の息子を春画のモデルに差し出そうとしているなど、知る由もない。
「分かったわ、啓子。その代わり、河合画伯のサインを貰ってきてよ。和夫を貸すんだから、それくらいいいでしょう?」
「ありがとう、お姉さん。本当に助かるわ」
高台にある河合画伯の屋敷が見えてきた。啓子はハンドルを握りながら、隣で欠伸をしている甥の和夫にもう一度注意した。
「ねえ、行儀よくしてよ。うるさい先生なんだから」
「分かってるよ、そんなこと」
甥の和夫はバックミラーに自分の顔を写して、ニヤッと笑ったりして、全く緊張していなかったが、啓子はガチガチに緊張していた。
(悪魔に魂を売るって、こういうことなのね……)
車はついに別荘の門を潜っていた。
面接試験
「先生、『主婦のお友だち』編集長の近藤啓子さんがいらっしゃいました。」
「おお、そうか、どれどれ」
日本画の巨匠、河合惣之助が絵筆を止めてアトリエから出てきた。
「せ、先生、ご無沙汰しています」
啓子は声が上ずっていた。
「どうしたんですか?」
「いえ、ちょっと緊張しまして」
「ははは、あなたらしくない」
彼は小柄だが、眼光は鋭く、殆どの者は対面した瞬間にその迫力に圧倒されてしまう。
啓子も担当になってから2年ほど経つが、今回のように特別な事情を抱えていると、なおさら緊張してしまうのは仕方がない。
先程までは全く緊張していなかった甥の和夫も、そんな叔母の様子を見て、急にカチンコチンになってしまった。
「彼かな?」
「そ、そうです。甥の和夫です」
「あ、あの、あ、荒井和夫です」
「和夫君か、よろしく。」
河合画伯はニコニコしてはしていたが、少し首を傾げ、“おい、イメージが合わないじゃないか”とマネージャーの吉光にメッセージを送っていた。
なにしろ、和夫は背丈が170cm位しかなく、華奢だ。元服前の若侍のような、元気のいい運動部を望んでいただけに、画伯がそう感じたのは無理からぬことだ。だが、吉光も粘る。
渋る近藤啓子に単独インタビューをさせるからと餌をぶら下げ、なんとか甥を連れて来させただけに、印象だけでダメだと言われても、「はい、そうですかと」とは簡単には引き下がれない。
「先生、風呂にでも入って和夫君と裸の付き合いをしたらどうですか?」
河合画伯の風呂好きは有名だ。風呂に入れば気分が変わるかも知れない。
「風呂か、まあ、それもいいなあ」
お前の顔は立ててやらなくてはならないが、こいつは使えない……と画伯はイラついていた。
「和夫君、この別荘の風呂は凄いぞ。先生とご一緒しなさい」
「吉光さん、そんな厚かましい真似は」
甥の和夫を春画のモデルに差し出すこと、それは覚悟してきたのだが、いきなり風呂と聞いて、慌ててしまった。
「いいじゃないですか。先生からいろいろお話を聞けば、和夫君も勉強にもなりますから」
「そ、そうですか」
この場で「やっぱりダメです」なんて言えない。啓子は後ろめたさに逃げ出したいくらいだった。
男は見かけでは分からない
この別荘は仲間と集まってワイワイ騒ぐために建てたものなので、温泉旅館とまではいかないが、3、4人が一緒に入れるように三畳間程の洗い場に、檜で造られた四角い浴槽は大人が2人ゆったりと入れるだけの大きなものだった。
画伯が脱衣所に行くと、カゴが一つ埋まっていた。
「おーい、誰かいるのか?」
「あ、先生、ごめんなさい」
声の主は先程まで画伯のモデルをしていた三浦(みうら)幸代(さちよ)だった。彼女は40歳、日本髪が良く似合い、160cm、84-64-88と肉感的な魅力たっぷりなモデル、ここ数年、画伯のお気に入り。時々、一緒に風呂に入ることもあったから、「なんだ、先に入っていたのか。ははは、こりゃ楽しい」と、イラついた気持ちは消え失せ、画伯は服をカゴに脱ぎ捨てると、前も隠さず、ガラッとガラス戸を開けた。
「どうだ、湯加減は?」
「先生、私、この檜の香りが大好きなのよ」
シャワーで体を流す画伯は「ほほぉ、幸代さんもそうかね。僕もそうなんだよ」とすっかりご機嫌になっていた。
「ちょいとごめんよ」
「あら、先生!少しは隠しなさいよ。目の遣り場に困るじゃないの」
しかし、湯船を跨ぐ時も、幸代からはペニスが股間からぶらぶらするのが丸見えだ。
「いいじゃないか。裸を描く絵描きが裸になって、どうして隠すんだ?」
「全く、もう」
「そんなに怒らんでもいいだろう」
幸代と並んだ形で体を湯船に浸かると、湯がざぶざぶと溢れ出し、湯気がもうもうと立ち込めた。その湯気の中に人影があるのを幸代が見つけた。
「誰?」
「おお、忘れとった。和夫君だ。君も入れ」
「あ、は、はい……」
和夫は浴室から女性の声が聞こえた時からドキドキしていた。叔母の啓子が言うように「勉強一筋」の彼にとって、混浴など考えてみたこともない異様な世界だ。
何しろ、湯の中を覗けば、乳房どころか、黒々とした股間の陰毛も丸見え。頭はクラクラ、ペニスはニョキニョキと大きくなり、風呂に入れと言われても、湯船を跨ごうとすれば、それが二人に分かってしまう。だから、和夫は跨ぐこともできず、両手で隠しているしかない。
「恥かしいの、僕?」
ニコッと笑う幸代がざぶっと音を立て立ち上がった。湯に温められた肌は桜色、湯に濡れて輝く乳房、それに陰毛は股間にピッタリと張りついている。
「あ、いえ、そ、その……」とオロオロする和夫に近寄った幸代は「手を外してちょうだい」と左手で彼の右腕に触れた。ビクッとした和夫は「えっ、で、でも……」と一歩退いたが、意地悪く右手で胸を撫でながら、「ここでは絵描きもモデルもお客さんも、みんな裸なの。隠すのはルール違反よ。ねえ、先生?」と媚を売る。
「ははは、そうだ。その通りだ」
画伯は幸代の手前、そう言って笑顔を作っていたが、心の中では、「このグズ、早くしろ!」と思っていた。
ところが、「ふふふ、先生もそう言っているのよ、和夫君、オープン、オープンよ」と幸代が和夫の両手を無理やり外させると、画伯の顔は一変した。何と、驚くことに、華奢な体に不釣り合いなものがぶら下がっている!顔を見合わせた幸代と画伯は、
「えー、ウッソー……大っきいじゃない」
「ほおー、こりゃあ、ご立派だ」
「汚ならしい先生のとは大違い」
「おいおい、汚ならしいは余計だぞ」
「あら、本当ね。ごめんなさい。ほほほ」
と両手を叩いて喜んだ。
何せ、画伯のペニスは使い込んで黒くなっているが、和夫のは薄い桜色で、半立ちなのに、細いが長くて15cmを遙かに超え、ピンクの亀頭はカリがしっかりと開いている。どんな大人にも負けない。
「可愛い顔をしているのに」
「うーん、いやあ、分からんな、男は」
二人とも和夫の股間に釘付けになっていた。
(続く)
※本サイト内の全てのページの画像および文章の無断複製・無断転載・無断引用などは固くお断りします。
リンクは基本的に自由にしていただいて結構です。