現代春画考~仮面の競作-第6話 2810文字 バロン椿

現代春画考~仮面の競作-第6話

その話は、日本画の巨匠、河合惣之助の別荘に、悪友の洋画家の巨匠、鈴木芳太郎が遊びに来たことから始まった。
本名なら「巨匠が何をやっているんだ!」と世間がうるさいが、仮名を使えば、何を描いても、とやかく言われない。
だったら、プロのモデルじゃなく、夜の町や、それこそ家政婦まで、これはと思った女を集ろ。春画を描こうじゃないか。

作家名:バロン椿
文字数:約2810文字(第6話)
管理番号:k086

槇子

日本旅館の離れ、そこを借切っての写生会。
今日のモデルの槇子(まきこ)は「クラブ 寿々(すず)」のママの信頼の厚いホステスで、鈴木画伯のお気に入りの一人でもある。彼女は43歳だが、35歳と言われても誰も疑わない艶があり、そこに目を付けた鈴木画伯から「浮世絵を描きたいんだ。槇ちゃん、モデルになってよ」と口説いていた。

槇子は若いホステスに「処女じゃないんだから、体を張らなくちぁ、ホステスで生き残れないわよ」と言っているから、例え、「ヌードになれ」と言われたって、そんなことには抵抗が無かった。だが、つい2、3ケ月前、「美術界の巨匠、鈴木芳太郎画伯、本日引退」と新聞を飾っていたのに、「浮世絵を描きたい」ってことに引っかかるものがあった。

(変ね。何か企んでいるんじゃないかしら……)
「先生にそんなことを言われると、その気になっちゃうけど、もう年だから」と槇子はやんわりと断ったが、「いや、君は美しい」と鈴木画伯も粘る。
そんな二人のやり取りを口を挟まずに見ていたのが、鈴木画伯のマネージャー、岡田とママだった。

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岡田は水割りを飲みながら、「『脱がせ屋 鈴木さん』、今日はどんな手を使いますか……」とニヤニヤしていたが、ママの方は気が気でなかった。何せ、鈴木画伯は豪快に遊んでくれる上に、「美術界の巨匠、鈴木画伯のご贔屓のお店」とPRになる。そんな画伯の気を損ねたら……
ママは「先生のお願いなんだから、いいじゃない」とテーブルの下で槇子の脛を蹴っていた。

この世界、ママの言い付けは絶対。
「先生にそんなこと言われたら、私、どうしよう……きれいに描いて下さる?」とウソの涙を流して鈴木画伯の胸に顔を埋めると、「ははは、今夜は愉快だ。さあ、前祝いだ。ドンペリでも抜いてくれ」と画伯はご満悦だった。

しかし、旅館に来てみると様子がおかしい。
「いやいや、無理言ってすみません」と岡田が迎えてくれたが、離れに案内されると、上がり端には赤い行燈が置かれ、中の座敷を覗くと、真ん中にピンクの大きな布団が一組敷かれているだけだが、その後ろには屏風を立ててある。

(「浮世絵を描く」って、春画じゃない。そんなことだと思ったけど……)
槇子は「ちょっと、岡田さん」と彼の手を抓っていたが、奥から出てきた鈴木画伯に「槇ちゃん、どうしたんだ?」と笑顔で聞かれると、「ふふふ、緊張しちゃって」とその手を離していた。

だが、槇子にも意地がある。
「ごめんね」と目で謝る岡田に、「ウソつき」とその足を踏みながらも、鈴木画伯には「私、恥かしい」と甘い声でしなだれかかり、「でも、先生だから安心」と手を握ると、これで、攻守逆転。鈴木画伯は「そうか。お礼はたっぷりしないとな。箱根にでも行くか?あははは」と言い出す始末だった。

写生会の筈だったが……

浴衣に着替えて座敷に上がると、そこには鈴木画伯の他、河合画伯、それに岡田、吉光の両マネージャーと数人のアシスタントが待ち構えていた。
「いいかな、槇ちゃん?」
鈴木画伯の顔からは笑いが消えている。

(ふざけているようで、やっぱり〝巨匠〟と言われるだけに、目が凄い……)
槇子も緊張してきた。「はい」と答えると、アシスタントが「失礼します」といきなり浴衣の帯を解いた。「あ、いや、それは」と慌てたが、彼女は構わずに和装ブラも湯文字も外してしまった。

肌襦袢を一枚羽織った槇子は勝手が分からず、戸惑っていると、「さあ、ここです」と椅子で、「裾を捲って、太腿が見えるように」と最初のポーズ、続いて「足を広げて、もっとです。そう、そう奥が見えるように」と大胆になった。

鈴木、河合両画伯は集中し、せわしく手を動かしスケッチブックにそれを描いていく。時々、疲れてポーズがずれると、「甘えないで。ダメよ、それじゃあ。まったく」とアシスタントはずけずけと文句を言ってくる。

(なによ、小娘のくせに、偉そうに!)
槇子は怒鳴ってやりたくなるが、両画伯は「疲れたかな?しかし、きれいだね」と優しく微笑んでくるから、ぐっと飲み込み、モデルを続けていた。

最後は布団に座り、「襟を抜いて……そう、そう、大胆に。それでいいです」と、休みなく続き、1時間程経ったところで、「はい、休憩にします」と声が掛かった。すると、「槇子さん、お疲れ様でした。生意気言ってすみません」と、意外にもアシスタントが真っ先に謝ってきた。こうなると、槇子は怒る訳にはいかなくなる。

「いいのよ、お仕事だから」と笑顔でこう返すと、「槙ちゃん、偉いな」と今度は河合画伯が持ち上げてきた。
(この程度なら、お礼もたっぷりもらえるから、まあ、我慢しておこうかしら……)
そう思ってほくそ笑んだ槇子だったが、浴衣姿の20代の男が入って来ると、雰囲気が妖しくなってきた。

「遅くなってすみません」と、彼は挨拶もそこそこに浴衣を脱ぐと、下には何も着ていなかった。
「え、ウソ……」と槇子は飲んでいたペットボトルを落としそうになったが、「小山君、頼むぞ」と河合画伯が声を掛けていた。そして、「槇子さんもお支度を」とアシスタントに肌襦袢を取られてしまい、衆人環視の中で、「始めますよ」とその青年に抱きかかえられてしまった。

カサカサ、カサカサ……
画伯たちの絵を描く音が聞こえるが、槇子にはそんな音も聞こえない。
「あ、何をするんですか!」と小山青年がいきなり槇子の下腹部に顔を埋めてきた。

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「イヤ、ダメよ、せ、先生、止めさせて下さい……あっ、イヤ、イヤ……」と槇子は布団の端を掴んでもがくが、絵に集中している両画伯はそれも題材と受け止め、鉛筆を動かす。

小山青年は女の扱いには随分と慣れている。槇子もホステスとして体を張って生きてきたが、彼の勘所を外さぬ攻めには堪えきれず、「あっ、あ、あ……は、はあ、いや……あ、あ、あ、あああ……」と声が出てしまう。
それを見た岡田は「小山君、槙ちゃんもOKしているから、生で入れていいよ」と勝手なことを言う。

約束違反にも程がある。槇子は身悶えながらも「そ、そんなこと言ってないわよ……」と青年の頭を叩くが、小山青年は「は、はい、そうですか。それじゃあ、遠慮なく」と槇子のお尻を抱えると、割れ目にペニスをゆっくりと合わせると、グイッと腰を突き出し、体を繋げてきた。

「あっ、あっ、いや……あっ、ああ……」
その後、槇子はどうなったのか覚えていない。
気がついた時には髪は乱れ、首筋には汗が滲んでいた。

「お疲れ様でした」
おしぼりを手渡すアシスタントの女性も顔が赤くなっていた。
「私、興奮しちゃいました。槇子さんの声、耳から消えません」

隣りでは男が「はあ、はあ」と息を弾ませながら、ペニスをおしぼりで拭いていた。
「僕も久しぶりに逝ってしまいました。いやあ、槇子さんの声、締め付け、凄いですね」
布団には大きな染み。「いやあー」と叫んだ槇子は襦袢を手に取ると、浴室に駆け込んでいったが、両画伯は絵の仕上げに余念がなかった。

(続く)

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