今様シンデレラの結末は-最終話
作家名:くまあひる
文字数:約2120文字(第18話)
管理番号:r700
18.未来をともに
赴任先から戻ってきた柊さんは少しやせていたけど、初めて経験したことや現地スタッフとの生活などを楽しそうに話した。
そして自分が滝本姓を名乗っていたことや、家族のことをきちんと説明してくれた。
由紀さんから聞いていた内容と同じで、お義母さんにはとても感謝していると言った。
「美和、俺会社辞めようと思うんだ。起業しようと思っている。オヤジと死んだオフクロは二人三脚で今の会社を興したんだ。俺も一から自分でやってみたい。美和には俺と結婚してパートナーとして手伝ってほしい」
「・・・・・・・」
「苦労させないとは言えないし、もしかしたら苦労ばっかりかも。でも俺は美和と一緒にやっていきたい。美和とじゃないと成功しないと思う」
「起業するから結婚するの?」
「バカ!こんないい女いないから結婚するんだよ。俺のいない間にどんどんキレイになって俺をヒヤヒヤさせる女は、24時間俺のそばに置いとかないと心配で仕事にならない」
「返事は?」
「うれしいです。でも、私は一般家庭で育った人間だから、起業を支えてあげられる人脈もお金もないですよ」
「そんなものいらない。美和がいたらいい。週末、俺の家に来て。家族が集まるから」
「えっ、そんな急に・・・何も準備出来てないのに」
「大丈夫だよ、皆でメシ食うだけだから」
「でも・・・」
「実は美和のことを由紀が実家で言いふらしてるんだ。だからオフクロが早く会いたがってて、これ以上先に延ばすと俺、何言われるかわかんないよ。固く考えなくていいから」
そんな柊さんの言葉を真に受けて、伺ったお宅は、恐ろしく豪邸だった。
けど、ひるんだ私を皆さん温かく迎えてくれて、緊張は少しだけほぐれた。
お義母さんは「また娘が出来たわ、由紀ちゃんと三人でお出かけしましょうね」と大喜びだった。
柊さんとどことなく似ているお父さんは、お義母さんの喜び様を笑顔で見ていた。
会社で数回しか見たことのない幸也さんも私たちの結婚をとても喜んでくれたけど
「兄さん、美和さんは置いていってくれないかな。美和さんの戦力がなくなるのはウチにとって損害じゃないか」というと、
「お前もさっさと有能な嫁さん探せ」と応酬。
とても楽しい時間を過ごさせてもらった。
帰り際、由紀さんが私の手を取り
「ようこそ木之内家へ、お義姉さん。兄を宜しくお願いします」と言ってくれた。
そしてご両親からも「息子を頼みます」と深々と頭を下げられ、抱いていた不安が消えた。
数日後、由紀さんが支店に来て、私と日下課長が呼ばれた。
犬飼課長のパワハラに対して私が訴訟を起こすかどうかの確認だった。
そんな気はないと答えると、由紀さんは「人がいいんだから」とこぼしながら書類を並べた。
内容は退職した女子社員に対して、自己都合とされていた退職金を会社都合とし、それに見合う金額を支払うこと、パワハラを受けたことにより通院、治療した場合は治療費を支払うこと、パワハラを受け、退職に追い込まれた事実に対して慰謝料を支払うこと。と書かれていた。
「私は本日、社長である木之内敦の名代として参りました。退職した社員の中には、家族の生活を背負っている人もいたと聞いています。その方たちが理不尽な理由で困窮する原因を作ってしまったことを心から恥じ、今後の戒めといたします」
由紀さんはそう言って頭を下げた。
そして手続きは謝罪を兼ね、人事部長が責任を持って、本人に直接対面して行うと言ってくれた。
後に、由紀さんが人事部長に着任しこの件に関して、人事部長として創業家として私との約束を果たすべく対応してくれた。
由紀さんは自ら人事部長を希望し社内改革と人材育成、研修や内部告発の仕組みなどを作りたいと役員会で掛け合ったらしい。
柊さん曰く、
「由紀はオヤジの血を色濃く受け継いでいるんだ。一時期オヤジは由紀に会社を任せようと思ってたんだ。けど、由紀は幸也が適任だと言ったんだ。自分のような血の気の多いタイプは起業したての頃は必要だが、成熟期に入ればその価値はないと。その点、幸也は冷静で善悪の判断をあやまることはないし、会社を安定的に経営するには幸也が適任だと」
経営陣の中での由紀さんのあだ名はいい意味で“女暴れん坊将軍”だそうだ。
退職の日、皆に最後の挨拶をし、今までの感謝を述べた。
私に大きな花束を渡してくれたのは、かつて喜び組と呼んでいた中でも最も私に反抗的だった子だった。
涙を浮かべた顔を見ると、ここで働いてきてよかったと心から思う。
「はーい!婚約者殿のお迎えですよ~」
と冷やかすように言う日下課長の視線の先に柊さんが立っていた。
会社を出て歩いていく中、柊さんがポツリとこぼした。
「美和、後悔してない?あんなに頑張っていた仕事辞めて」
「してませんよ。せっかちで、強引で、変態な柊さんについて行けるのは私だけだと思いますから」
「ひどい言われ様だ、汚名挽回できるよう頑張るよ。ああそうだ、ブライダルエステは美和の行っているサロンにしよう」
「いいの?」
「俺も行ってみたいしな」
しかし・・・後日二人で行ったサロンで美和が俺を彼氏ではなく婚約者と紹介すると少し表情を曇らせた後、「まだ夫ではないのよねぇ・・・」と笑ったこの美しい男とは、ひと悶着ありそうな気配を感じた。
(終わり)
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