私たちの結婚-第9話

私たちの結婚-第9話

作家名:バロン椿
文字数:約2420文字(第9話)
管理番号:r701

離婚しちゃ、ダメよ

離婚調停

憂鬱な午後だった。
家庭裁判所の受付で、「調停の件で、来たのですが」と告げると、待合室で待つように指示された。
案の定、待合室には妻が先に来ていた。
会うのは2ケ月振りだったが、「やあ」と手を上げた私を、妻はちらっと見ただけ、「こんにちは」と儀礼的に返してはきたが、後は本を読んでいるだけで、私に何も話し掛けてこなかった。

「後藤(ごとう)さん、中にどうぞ」
呼ばれた部屋は会社の会議室のような雰囲気で、テーブルを挟んで調停委員と向き合って私たちは並んで座った。
「最初ですから、お二人揃って入って頂きました」と前置きされ、調停の手続きや進行予定などについての説明を受けた。
そして、最後に「調停は裁判ではありません。私ども調停委員は、お二人からお話を聞き、解決に向けて手助けします」と言われた。

結婚して30年、どうしてこんなことになったのか、元々の原因は私にある。
5年前、事業に躓き、なんとか立て直そうと家にも帰らず、資金集めや客先回りに必死になっていたのだが、「あなた、これを使って」と差し出してくれた彼女の預金を「そんなのじゃ足りないんだよ」と突っ返してしまったところがいけなかった。
抱えていた借金からすれば、確かに全く足りないものだったが、イライラしていた私は妻の気持ちさえ受け止める余裕がなかった。
その後は、お決まりのように、些細なことまで、刺々しい言葉の応酬、幸せだと思っていたものがあっという間に崩壊し、気がついた時には、別居。
修復は難しくなっていた。

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「それでは、ご主人、外でお待ちください」
私は一旦、外で待たされ、30分ほどして、妻が調停室を出てくると、「ご主人、どうぞ」と、今度は私が呼ばれた。
「後藤さん、二人の経歴や結婚した経緯、離婚を考えた事情など、こちらからご質問しますから」
仕事とは言え、こんなことを聞き続けなくてはいけない調停委員とは酷なものだな等と考えていたのは最初だけ。
やはり、根掘り葉掘り聞かれると、「うるさい!」と言いたくなったり、「やっぱり俺が悪いんだ」など、時間は1時間も掛からなかったが、終わってみると、ぐったりしていた。

「次回は別途お知らせしますが、必ずご出席下さい」と言われた。
外に出ると、妻はいなかった。
当たり前だ。
離婚しようという相手を待っている筈はない。
56歳、このままいけば熟年離婚か、情けない。

同期会

「えっ、離婚したの?」
「驚くことはないでしょう」
久し振りに集まると、こんな話の一つや二つは必ずあるものだが、まさか自分がそういう立場で参加することになるとは思いもよらなかった。
「おお、元気か?」
「相変わらずだよ」

男同士であれば、話題は仕事のことが中心だが、男女が揃うと、子供の就職のこと、結婚式のこと、孫のこと等、やはり家族のことが多くなる。
「後藤、お前のところはどうなんだ?」
聞き役に徹していた私にもお鉢は回ってきたが、「まあ、みんなと同じようなもんだ」と言ってなんとかごまかした。
二次会はその場の流れで集まった仲間たち15人ほどで「カラオケでも」とスナックに寄ったが、運よく他の客は誰もいなく、貸切となった。

「ねえ、初めてはいつだったの?」
男も女も50を過ぎると、図々しくなるというか、大胆になるというのか分からないが、こんなことを言い出したのは、当時の学級委員長、高木(たかぎ)紀江(のりえ)だった。
彼女も離婚経験者で旧姓に戻っていた。
「紀江、何を言ってんのよ!」
「人前で言うことでもないだろう」

良識派はどこにでもいるものの、「へえ、高木さんもさばけているじゃないか」と当時悪ガキ、梁瀬(やなせ)亨(とおる)が賛成だと言うと、酔った勢いとは恐ろしいもの、女性の多くが「今更、隠すこともないでしょう」、「今夜だけの内緒ね」と賛成し、その場は「カラオケ大会」ならぬ「告白大会」になってしまった。

「よし、最初は俺だな」
梁瀬がマイクを握ったが、「お前は16だろう」、「聞き飽きたよ」とやじられ、「やっぱりそうか。俺の話は既に内緒じゃないか」とあっさり引っ込んでしまった。
「なら、私ね」
そのマイクを引き継いだのが、言い出しっぺの高木紀江だった。
ゴクッと唾を飲み込む音が聞こえた。
男はいくつになっても、こんなことに興味がある。

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「二十歳、別れた旦那。あの時は仲良かったのに、全く、どうしちゃったのかしら」
照れ隠しに自分で頭をポンポンと叩いていた。
これがきっかけとなり、「18、3年生の時、中学の同級生よ」、「17、へへ、叔母さんと」など、生々しい告白が続いた。
「ええ、言わなくちゃいけないの?恥ずかしいわ」
旧姓加納(かのう)圭子(けいこ)、現、久保(くぼ)圭子(けいこ)がマイクを持っていた。
「ダメだよ、例外は認めない」
「圭子、言いなさいよ」
「そうだ、言っちゃえ、みんな、告ってんだぞ」

私はバツが悪く、圭子も私と目を合わさないようにしていたのだが、その時だ。
「あぅ、痛っ…」
突然、私は脛を蹴られ、蹲ると、今度はポーンと頭を叩かれてしまった。
見上げると、隣に座っている小学校からの幼馴染、旧姓長野(ながの)雅美(まさみ)、現姓、米井(よねい)雅美(まさみ)がニヤッと笑っていた。
「他人ぶっちゃって…」
雅美の顔はそう言っていた。

高校2年の時、私と圭子は同じクラスになったのをきっかけに、付き合い始め、夏休みにはファーストキスを済ませていた。
「後藤君、圭子と付き合ってるんだって?」
二学期が始まった学校帰り、電車から降りてバスを待っている時、カバンで突いてきたのが、当時も同じクラスの雅美だった。
「な、何、言ってんだよ」
「赤くなっちゃって。私、知ってんのよ」
私は周りを見回し、誰もいないことを確かめると、「シー!絶対に喋るなよな」と口に指を立てて睨んだが、雅美のほうが一歩も二歩も上手だった。

「バーカ、カマかけただけなのに、引っ掛かって」
「あ、ずるいぞ、雅美」
私は口止め料として当時はそれほど安くなかったマックのチーズバーガーで奢らされたことを覚えている。

(続く)

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