今様シンデレラの結末は-第4話

今様シンデレラの結末は-第4話

作家名:くまあひる
文字数:約2070文字(第4話)
管理番号:r700

4.約束

約束の金曜日、終業前からソワソワしている自分の気持ちをどう納得させたらいいか
わからない。
その理由はわかっているけど、認めたからといってどうなるものでもない。
悶々と考えているとあっという間に店に着いてしまった。
定時ジャストに出てきてしまったからいつもの時間より早い。
どこかで時間をつぶそうと体の向きを変えたら目の前に滝本さんが立っていた。
「よかった、間に合った。帰られたらどうしようかと思ったよ」
そう言いながら前と同じ席に座った。
「滝本さんの目的はもう果たされたのに、なぜまだ“金曜日の約束”を継続されるんでしょうか」
「目的?」
「私から社内の情報を収集するのが目的だったんですよね。それだったらもう必要なくないですか?」
「美和さん、何か勘違いしてるな。そもそも君がウチの社員だから声をかけたわけじゃない。まあ、その社章見たらわかったけど」
「じゃあ何でですか?それに、なぜ私がチームリーダーなんですか?あの子たちが部下だなんて」
「彼女たちをどうするかは君次第だよ」
「え?」
「使えないなら異動させてもいいし、今までの恨みを晴らすべくこき使ってもいい。君に任せるよ」
「・・・・・」
「どうする?」
いたずらっぽく目を輝かせてこちらを見ている。
「教育します」
「教育?何で仕返ししないの?犬飼課長はもちろんだが、彼女たちが美和さんに与えたストレスも相当なモンだろ」
「そうですけど、でも恨みを仕返しで応えたらエンドレスじゃないですか。“徳を以て恨みに報いる”が正しいかと」
「大人だねぇ」
「いえいえ、先輩たちにそう教えられただけです。切り捨ててしまうのは簡単だけど、そこからは何も生まれない。有能な人材に育ててこそ、先輩としての価値があると。かつて先輩たちも出来の悪い私にそうやって機会を与えてくれたと思うと無下には出来ませんよ」
「俺はね、その発想が出来なくて傲慢だと言われるんだ」
「傲慢・・・ですか?」
「うん、自分と同じものを即相手に望んでしまうんだ。俺は自分が相手に10望んでいたら、10返してほしいと期待してしまうんだ。他人だからそんなことはあり得ないのに」
「それは誰しもそうじゃないですか?自分が好きになった相手に、自分の気持ちと同じくらい自分を好きになってほしいと思いますよね」
「そうかな・・・」 
「少なくとも私はそうです。でもこれからですよ、キレイごとじゃすまないだろうし。こっちがそのつもりでも相手は臨戦態勢かもしれませんし」
「困ったことがあったら遠慮なく言って、協力は惜しまないよ」

テディプレイスーツ一覧01

余裕を感じる笑顔を見て、ふとあの夜の電話を思い出した。
電話の相手に会いたいと懇願していたあの夜を。
この人にあんなふうに望まれるなんて羨ましい。
私にそんな相手がいたのは何年前だったかも、もう覚えてない。
仕事が楽しくて気がついたら30を超えてた。
それを後悔したこともないけど、誰かと何かを共有したい時もある。
最近はストレスフルな生活で誰かと付き合うなんて考えられなかったけど、
誰かにそばにいてほしかったり、話を聞いてほしいこともあった。
「何考えてるの?」
「え?」
「さっきから黙ったまんまだからさ」
「彼氏が欲しくなりました」
そう言った途端、滝本さんはビールでむせた。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ」
「滝本さんは彼女さんとは長いんですか?私、恥ずかしながらずいぶんおひとり様なんですよ。でもこれからは仕事のストレスも今までみたいなことはないだろうし、プライベートも頑張ってみようかと」
「ふーん・・・、好きな人いないの?」
「いませんよ、もう人を好きになる感覚も忘れた気がします。この歳で初心者マークですよ」
「どうして俺に彼女いるって思うの?」
「実はですね、泊めていただいた時、滝本さんが彼女さんに会いたいって電話してるの聞いちゃったんです。正直あんなふうに言ってもらえる彼女が同性として羨ましかったです」
「あ、あれは!」

そう言いかけたところに滝本さんの携帯が鳴った。
発信者を確認した滝本さんは少し嬉しそうな表情になった。
「ちょっとゴメン」
「どうぞどうぞ」
そんな顔するんだったら例の彼女さんからかな。
聞いちゃ悪いと思ってお手洗いに立った。
戻るとまだ電話中だったので席に着くのをためらっていると
「一日でも早くな。会って直接話したい」という声が聞こえてきた。
それからすぐ携帯を置いたので、素知らぬふうで席に着いた。
「食事中にゴメン」
「気にしないでください。彼女さんですか?私と飲んでて誤解されませんか?」
「いや、そういうんじゃないからさ」
「寛大ですね、私だったらちょっとイヤかも。彼氏が他の女性と2人っきりで飲みに行くなら事前に教えてほしいです。でもこういうの重いって嫌われるんですよね」
「そう?僕は別に重いとは思わないけど。仕事で飲みに行くこともあるし、やましいことがなければ言っとけばいいだけだろ。男でも女でも好きなヤツが何しているのか気になるのはフツーじゃないのかな」
滝本さんでもそうなのかと少し安心した。
店を出て滝本さんは送っていくと言ってくれたが、彼女に申し訳なくて丁重に辞退した。

(続く)

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