私たちの結婚-第6話

私たちの結婚-第6話

作家名:バロン椿
文字数:約3130文字(第6話)
管理番号:r701

秘かな恋愛意識

秋が深まり、冷え込んできた頃、澄子さんから夕食に呼ばれました。
「おでんを作ったから食べにいらっしゃい」
私はまだ19歳でしたが、背伸びをして、ワインを買っていきました。
どんなワインが美味しいかなんて知りませんから、酒屋さんに入ると、目に入った赤ワインを掴んでとにかくお金を払って出てきました。
未成年ですから、それだけでも、心臓がドキドキしてしまいました。

「はい、これ」
「えっ、何、ワイン?へへぇー、君も洒落たことが出来るようになったんだ」
澄子さんはちょっとびっくりした様子でしたが、素直に喜んでくれました。
「さては、彼女でも出来たかな?」
「そ、そんなのいないよ」
澄子さんは料理を取り分けながら、私をからかって楽しんでいました。
「君はイケメンなんだから、声を掛ければ訳ないでしょう?」
「そんな簡単にはいきませんよ」
「澄子おばさんにはそんな言い訳は通用しませんよ」

私が「美味しそうですね」と話をそらそうとすると、「今日は君の好みをじっくり聞き出すからね」と料理のお皿を取り上げられてしまいました。
「意地悪ですね」
「そう、私は意地悪ばあさんですよ」
それから、女の子の好みをあれこれ聞かれた上、声の掛け方から、手の繋ぎ方まで、澄子さんの恋愛講座でした。
「ねえ、こんな色々なテクニックを知っているのに、どうして澄子さんは独身なの?」
失礼を顧みない私の発言に、澄子さんは一瞬顔が強張った感じがしましたが、直ぐに「大人には大人の事情があるのよ」と笑っていました。

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私が澄子さんに好きな人がいることを知ったのは、それから間もなくのことです。
その日、大学から帰る途中、新宿駅の近くの交差点で澄子さんを見つけました。
これはラッキーと思い、手を振って知らせようとした時、彼女は別の方向に向かって小さく手を挙げていました。
そちらの方を見ると、相手は40歳くらいのスーツ姿のメガネを掛けた男性でいた。
信号が変わると、澄子さんはその男性に駆け寄り、二人で手を繋いで歌舞伎町方向に歩いていってしまいました。
恋人か…

彼女は自分よりずっと年上、好きだとか、そんなことは考えたこともありませんでしたが、心の奥底には「澄子さんは僕だけのもの」という意識があったのだと思います。
その晩、私は一睡もせずに澄子さんの部屋のドアが開くのをずっと待っていましたが、彼女は帰ってきませんでした。
私は大切な人を取られてしまったショックから、翌日、大学に行けませんでした。
それからというもの、私はなんとなく顔を合わせるのが嫌で、少しずつ澄子さんを避けるようになりました。
澄子さんもその男性とのお付き合いが増えたのでしょう、「一緒にご飯食べよう!」という電話もだんだん無くなっていきました。

童貞を卒業したのもそんな頃でした。
こう言ってはなんですが、私は澄子さんに勝手に義理立てしていたのです。
「イヤらしいところに行ったら嫌われる」、そう思っていましたが、もうそのような義理立てをする必要が無くなりました。
私はアルバイトで貯めたお金を持って、一番簡単に童貞を卒業出来る場所、ソープランドに行きました。
「お客様、おまたせいたしました」
私は名前を呼ばれて廊下で女性に引合されました。
薄い生地の色っぽいドレスを着た女性で、「○○です」と挨拶されましたが、名前なんか憶えていません。
年齢はよく分かりませんが30歳くらいだったと覚えています。

部屋に入ると、「○○です」と改めてそれこそ三つ指をついて挨拶されましたが、私は緊張で足が震え、横のベッドに腰砕けのように座り込んでしまいました。
「初めてなの?」
「うん…」
彼女は優しく笑うと、私を裸にしてくれました。
こういう場所ですから、裸になるのも恥ずかしくはありませんでしたが、緊張のあまり、チンポは縮こまっていました。
それからは雑誌に書かれている通りです。
彼女も裸になって、私とお風呂に入り、ベッドでコンドームを付けてセックス。
感動したか?
ははは、童貞を卒業したというすっきり感だけです。

通じた気持ち

私は大学3年、21歳になっていました。
7月中旬、私はアルバイトの家庭教師を終え、午後10時過ぎに駅に降りました。
まだ、梅雨が明けきれず、しとしと雨が降り続き、暑さがじっとりと体にまとわりつく、鬱陶しい季節でした。
早く帰って風呂に入りたいなあ…
私が駅前の商店街を早歩きで抜けた時です。
女性が20m程前を両手に紙袋を下げ、傘もささずに歩いているのが見えました。
澄子さんだ
私は小走りに追かけました。

「澄子さんじゃない?どうしたんだよ、風邪、引いちゃうよ」
振り向いた澄子さんは表情がありませんでした。
「ねえ、風邪、引いちゃうよ」
私が傘を翳すと彼女は私を見上げ、そして、ぽつりと言いました。
「終わったのよ…」
「えっ?」
「奥さんには勝てなかったの。離婚するからと言われて、本気で付き合っていたけど、奥さんが職場に乗り込んできて、私が先にちょっかい出したとか、泥棒猫だなんて言われて、もう散々。会社も辞めてきたの」

澄子さんの肩がぶるぶる震え出しました。
私は何も言えず、ただ、「帰ろうよ」と声を掛けましたが、澄子さんはとうとう抑えきれず、その場に蹲って声を出して泣き出してしまいました。
私は澄子さんの隣りにしゃがんで、その手から袋を受け取り、傘を渡しました。
マンションまで、黙って歩きました。
10分もかからない距離ですが、澄子さんは堪えきれず、途中で何度か蹲って泣いていましたので、いつもの倍以上に時間が掛かったと覚えています。
「ありがとう…」
マンションに着き、澄子さがドアを閉める時、そう言ってくれました。
大切な人に気持ちが通じた…
私はそれだけで満足でした。

幸せに向かってGO!

会社を辞めてしまった澄子さんはアメリカに行くことになりました。
引っ越しの手伝いをしている時、こんなことを言いました。
「勉強、勉強。37のおばさんだって勉強するのよ。謙治君も大学をしっかり勉強するのよ」
「うん、分かったよ」
「約束よ。ああ、それから、卒業したら、アメリカにいらっしゃい。結婚してあげるから、あ、これは冗談よ。あははは」
そこには蹲って泣いていた姿はありません。
いつもの元気な澄子さんに戻っていました。

出発の時、私は成田まで見送りに行きました。
「元気でね。いろいろとありがとう」
「僕の方こそ、すっかりお世話になって、何もお返しが出来なくてごめんなさい」
「そんなことないわよ。一番辛い時に助けてくれたのが、君よ。私は忘れない」
澄子さんはそう言って僕の手を強く握ってくれました。

そして、いよいよチェックインする時間が来ました。
澄子さんは私を抱きしめてくれました。
周りから見れば、おばが見送りに来た甥に最後の挨拶をしているように見えたでしょう。
「ねえ、あれ信じていいの?」
私は勇気を出して言いました。
“アメリカにいらっしゃい。結婚してあげるから”

今、この時なら、「冗談よ」と言われたって、「やっぱり、そうか。冗談に決まっているよね」と笑ってお返しできる。
でも確かめないと一生後悔する、そう思ったからです。
私はドキドキしていましたが、澄子さんは笑顔で答えてくれました。
「ウソなんか言わないわよ。ずっと待ってるから」

やったあ!

そして、あれから3年です。
私は24歳、大学を卒業し、これからアメリカに行きます。
「えっ!す、澄子さんと結婚!」
母親はひっくり返りました。
当然でしょう。
彼女は私より16歳も年上、今年40歳になります。
「いい人だけど、どうしてなのよ?」
説得に半年かかりましたが、最後は「好きにしなさい」と認めてくれました。
成田を発てば、12時間後には彼女が待っているアメリカです。
わくわくしています。それでは、行ってきます!

(続く)

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