伝説の女性器-第10話
挫折した箱根駅伝ランナーが次に追い求めるモノとは!?
作家名:ステファニー
文字数:約2000文字(第10話)
管理番号:k139
とにかく唖然としているうちに二曲目のジャスティン・ティンバーレイクの「Sexy back」となった。これも歌い手は男であり、珠季はバックダンサーだった。
凄い。
そんな表現が適切でないことぐらいわかっている。それでもそれしか出てこない。
いかにも難しそうなリズムに合わせて、珠季の細く長い手脚が、くびれたウエストが、上下左右、自由自在に、飛び、跳ね、回る。目まぐるしい動きに、いくら見入っても飽きが来ない。
また曲調が変わった。今度はレディ・ガガとビヨンセのデュエット曲、「telephone」だ。ついに珠季が歌うらしい。頭にインカムをセットして、舞台の中央に出てきた。レディ・ガガのパートが珠季を、ビヨンセのパートをドレッド頭の女が、それぞれ担当するようだ。
透き通っているけれども、強く太い珠季の歌声が場内に響く。アオの敏感な箇所がムズムズと反応した。
常に変わる早い振り付けにも関わらず、珠季は息切れすることなく、踊りながら歌っている。
プロであっても、日本国内にこれだけの芸当をやってのける歌い手が果たしているのだろうか。テレビの歌番組を観る限り、アオには思い当たる名前は浮かばない。
嗚呼、珠季。
貴女は素晴らしい。
アオはようやく自身が珠季の卓越した才能から入り、一人の女性として愛していると、自覚した。 この曲はデュエット曲なので、珠季ともう一人のダミ声の女も歌っている。しかし、珠季の声しかアオの耳には入ってこない。
アオにとってはいかにもへんてこりんなダンスだが、珠季が踊っているとそれも可愛い。
ずっと目に焼き付けていたい、とも思うが、無情にもまた次の曲に移った。
今度の曲はアオにも聞き覚えがあった。格闘技のオープニングでお馴染みのプリンスの「Endorphin Machine」である。珠季はインカムを外し、後列に下がり、ダンサーに回った。
この時、アオの背後から煙が回ってきているのに気づいた。その匂いは、煙草とは明らかに異なっていた。
決して振り返るな、と東澤がした忠告を思い出した。後方で行なわれている蛮行に目もくれず、アオはとにかく前方の珠季にのみ集中した。
この曲では男のボーカルが主役なため、珠季は後ろでその他大勢をしている。おそらく会場内の他の客は誰も珠季を観ていないだろう。最も、珠季だけでなく、そもそも舞台上に注目している客自体、皆無なのかもしれないが。
プリンスが終わると、珠季はまたインカムを耳につけた。そして舞台の中央に立った。
マドンナの「Vogue」だ。
芸術的な振り付けが特徴のこの曲を再現するように、ダンサー達は一人ずつ動き、その他の者達は静止をしている。
再び珠季が歌い出した。今回はデュエットではなく、珠季一人が歌う。アオは思う存分、珠季の澄んだ歌声に聴き入った。
有名な楽曲だが、若いアオは存じていないし、ダンスも含め、ちっとも理解できない。珠季が歌うから魅力を感じるだけだ。
珠季、珠季、珠季…。
下半身が疼くのをアオは感じた。
歌い踊る珠季を観て、発情を抑えられなくなったのだ。
まずい、律しなくては。
そう自分をアオは戒めた。
その時だった。
アオは場内で、パンッ、パンッ、とゴム毬を弾くような異音を感知した。
まさか発砲か、と一瞬、冷っとしたが、それは間違いだとすぐに自身の見解を訂正した。その音はアオ自身も耳にした経験があるモノだったからだ。
恐らく、後ろでは行為に及んでいる男女がわんさといるのだろう。
神聖な珠季のパフォーマンスの面前でなんという冒涜。失敬だ。
怒りで少しアオの分身はクールダウンしてくれた。
ステージ上の全員の動きが一斉に止まり、珠季の「Vogue」は終わった。インカムを外し、珠季はまた後方に下がった。
エド・シーランの「Shivers」が流れ出した。また男のシンガーが中央に陣取り、おかげで珠季は影に隠れてしまう。それをアオは必死に目で追った。
珠季、珠季、珠季、珠季、珠季…。
誰より小さな顔。
身体は他の人間の半分しかないほどよく絞れている。
小枝のように細くて長い手脚。
粉雪のように真っ白な肌。
中東のモスクで使われているタイルのように神秘的な碧眼。
艶があり滑らかな緑の髪。
アニメやゲームの世界から抜け出てきたのか、と思ってしまうほど、浮世離れしている。
美しい。底抜けに。
また曲が変わった。マイケル・ジャクソンとジャネット・ジャクソンの唯一のデュエット曲「scream」だ。これも珠季はダンサーのようで、後列にいる。先程、珠季と一緒に歌っていた女性がインカムをつけて、ボーカルを務めている。
これまでにないほど激しい曲だ。振り付けも同様だ。
ハスキーな女のボーカルが邪魔だったため、アオは耳をシャットダウンし、珠季を追うことに集中した。
珠季の踊りを追っていると、至近距離にいるわけではないのに、自制をいくらしても、アオの欲棒は反応してしまう。別に素肌を晒しているわけではない。洋服を着て、他のダンサーもいる中で、真剣にダンスに興じているにも関わらず、アオは邪な気分を抑えられない。
(続く)
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