伝説の女性器-第13話
挫折した箱根駅伝ランナーが次に追い求めるモノとは!?
作家名:ステファニー
文字数:約2870文字(第13話)
管理番号:k139
アニメが放送されていた際にかかっていた箇所までを歌って、マイクを手持ち無沙汰にした珠季に、アオは抱きついた。
瞬時に珠季の肩の肉が強ばるのをアオは感じた。
「アッ、アオさん、なんですか?」
若干、怒気のこもった声で、珠季は返したが、それすらもアオにとってはアニメのようでフワフワして聞こえてしまった。
「あっ、あのっ、じっ、自分、珠季さんが好きです。だから、その、だっ、抱かせて、くっ、くださいっ…」
アオは力を込めて珠季を抱きしめた。その珠季の背は、みるみるうちに硬直していった。
「私、そういうの、興味ないんです。でも、アオさんがどうしてもそうしたいと言うのなら、ご自由にどうぞ」
これまでに聞いたことのないような冷酷な口調で、珠季はそう言い渡してきた。
「えっ?それはどういう…」
「私はアオさんが思ってるような清い女じゃありません。アメリカ人としかしたことないんです。それも、留学中にホストファミリーの同じ歳の男の子に騙されて、何度か弄ばれた、それだけです」
俗に言うレイプなのではないか、とアオは思ったが、それは口に出さなかった。今、アオがしている行動と、そのアメリカ人のホストファミリーがしたことは、珠季にとっては同様にすぎないのかもしれないからだ。
「じっ、自分は珠季さんが心から好きです。だからそのアメリカ人みたいに、遊びで抱きたいとかそんなんじゃ、決してないです」
「だから、そういうのどうでもいいんですよ。要は、ヤルか、ヤラないか、の話でしょう?ヤリたいんなら、遠慮なくどうぞ」
そう言って、珠季は着ていた黒のミニプリーツスカートをガバッとめくった。同じく黒で、金色の糸で刺繍が施された面積の狭いショーツが露わになった。
「でっ、では、お言葉に甘えて…」
珠季の瞳はこの上なく、冷たい。戦場で指揮を執る司令官のようだ。
感覚の麻痺しているアオは、そんな態度を取られても尚、珠季を食す欲に駆られ、本能が暴走していく。面前に突き出された、黒い布で覆われた女性の半島に指が伸びてしまう。
柔らかくて、弾力がある。
その勢いでアオはショーツの裾から指を忍ばせた。ツルツルとした滑らかな触感が印象的だった。そこには草原が生い茂っていないため、岬の女岩は剥き出しだ。そこをアオは掘削した。
アオはそれなりに技巧派である。普通の女性なら、堪らずに顔を歪めるところだ。
だが、珠季は顔色一つ変えない。どころか、眉毛一つ動かさない。
おかしい。感じていないのだろうか。
少しプライドが傷ついたアオは、珠季の鍾乳洞に薬指をあてがった。すると、なんとそこはすでに滴りを開始していた。
吊り上がった眉に仏頂面の珠季。だが、対照的にその秘部は女の本能が燃え上がっている。
あろうことかアオはそこに萌えた。むしろ無性に挿れたくなった。
ツルツルした黒いショーツを、アオは珠季の太ももまで下げた。綺麗に草刈りされた白い逆三角形にはなんと、黒いドクロの刺青があった。
さらに心臓の鼓動を速めたアオは着用していた迷彩柄の太めのスボンとボクサーパンツを同時に下ろし、すでに準備万端となっている分身をご登場させた。
「でっ、では、失礼します」
湿り気を帯びた珠季の洞穴の奥へと、アオはバナナボートを進めた。と、その瞬間、アオの全身は稲妻に打たれたかのように、大きな衝撃を受けた。これまでに感じたことのないような、未知の快感を味わったからだ。
なんだ、これは…。
温かいというか、生温いというか、その体温が絶妙にアオの性腺刺激ホルモンを活性化させる。
小さい頃、両親と行った山奥の温泉で味わったのと同じ心地よさがアオの全身を貫いた。
間違いない。珠季はこれまでに抱いてきた数多の女とは格が違うのだ。
肉体的な相性がいいのか。もしくは、珠季の女性器は名器であって、男を呑んでしまう何かがあるのか。
後者ではないか、とアオは推測した。ホストファミリーのアメリカ人が危険を冒してまで、一度ならず二度以上リピートした点がそれを証明していよう。おそらく彼も興味本位で手を出してしまい面食らったのだろう。珠季のブラックホール的な吸引力に。
やみつきになり、アオは抽送を激しく行った。すればするほど、源泉かけ流しの湯の如く、上がりたくなくなった。
珠季の女陰を突けば突くほど、アオの意識は異世界に飛んで行った。もうそのまま転生してしまうのでは、というほどに。
つつくポイントを変えてみても、同じだった。どこをどう突いても、良い。死角がないのだ。
珠季、珠季、珠季…。
その表情は、至って冷たい。感じてなどいないに等しいように見える。だが、その実は、とめどなく大波を押し出してきている。そのギャップがまた、たまらなくそそる。いとをかし、というやつか。
新宿の占い師に言われたことを、にわかにアオは思い出した。探し物は時間がかかるけど、見つかる、と。
まさにその通りだった。
ここにたどり着くまでにかなりの時間を要した。しかし、その見返りは、想像以上だった。
これまでの回り道は、追い求めていた珠季という、伝説の女性器に出逢うための、試金石に過ぎなかったのだ。ちょうど箱根駅伝のための前哨戦としてのインカレや出雲駅伝のように。
夢は叶った。
アオは、伝説の女性器と手合わせできたのだ。
信じて良かった。
誰も観ず聴かずの珠季の舞台に、本能が反応した、自分の身体の呼び声を。
伝説の女性器とは、誰に対しても快楽を提供してくれる代物なのか、その人によって相手が異なるのかは、判然としない。しかし、これだけは動かしようがないだろう。
珠季の女性器は、アオにとっての伝説の女性器だ。
アオは咆哮を上げた。絶頂に達したのだ。
「ムーンライト伝説」はとっくに終わっていた。次の予約を入れていなかったため、液晶画面にはむなしく文字だけが浮かんでいる。
静かな個室で、アオの息遣いだけが、不気味に響き渡っていた。
それから三ヶ月が経過した。
キリヤに対してあんなに大口を叩いていたが、アオはまだ男優の仕事を辞めていない。生活がかかっているから致し方ないのだ。
ただ、転職を視野に入れ始めた。ハローワークに行き、職業訓練を受けている。
あの後、珠季との連絡は途絶えた。SNS のアカウントが根こそぎ削除されてしまったからだ。
数日前、ひょんなことからアオはその理由を知った。
渋谷のスクランブル交差点にて、新人アイドルグループの宣伝看板を見た時、既視感のある顔が目についたのだ。珠季だったのだ。紛れもなく。
調べたところ、珠季は女性三人組ユニットのメインボーカルとしてまもなくデビューするらしい。maki という名義で。
あのカラオケ店でアオが情事を働いてしまった時には、既に決まっていたのだろう。一言も言及はなかったが。
ともすれば、珠季の発言次第で、東澤どころではなく、もっと有力な誰かから、アオは抹殺されかねないのかもしれない。東京湾に沈められ、羽田空港から川崎埠頭を浮遊するのだろうか。あるいは浦安沖で夢の国を息絶えた屍となって眺めるのか。
どちらも御免被る。
くわばら、くわばら。
毎日、アオはこう唱え、ひっそりと息を潜め、日々を過ごすのだった。
(終わり)
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