北陸道ー熱愛ライン-第6話
夏休み、高校２年生の高木秀夫は、知り合いから「ちょい手伝うて欲しい」と、お土産店の店番を頼まれた。気が進まないアルバイトだったが、出掛けてみると「社長はん、拭き掃除、終わったけど」と、３６歳の熟女、木村美佐江が現れた。
何やら胸が高まるが、狭い町だから仲良くなっても噂になるのも早い。さて、どんなことになるか……
作家名：バロン椿
文字数：約2410文字（第6話）
管理番号：k138
思わぬ再会
ところが、そうは簡単に問屋が卸さない。お開きになると同時に、「高木、二次会に行くで」と山岸先輩が肩を組んできた。
それを見て、他の部員たちは〝飲み神様〟には触れてはいけないと、「もう遅いからな」と、たちまち姿を消してしまった。
「えっ、俺だけかいな。参ったなあ」
こうなれば徹底して飲まされることを覚悟しなくてはいけない。秀夫は山岸先輩に渋々連れ従い、次の居酒屋に向かっていたが、飲食街の中程を過ぎた時、突然、スナックの扉が開き、「ほいじゃあ」と出てきた５０代の会社員に、「ねえ、また来てよ」と抱き付く長い髪を金色に染めた、チャイナドレスのケバい熟女とぶつかりそうになった。すると、酔っ払っている山岸先輩が反射的に「あかんな、あないな女は」とぺっと唾を吐いたが、その声が聞こえてしまったのか、「何よ、『あないな』って」と熟女が絡んできた。
その隙に、５０代の会社員は「お休み」とさっさと消え、山岸先輩も「行くで」と無視したが、秀夫だけは、その化粧の濃さと割れたスリットから覗く太腿に目を奪われ、立ち止まっていた。が、その時、「あれ、秀夫ちゃん、秀夫ちゃんなん？」と、その熟女が懐かしげに話しかけてきた。
金沢には親戚もいないし、知り合いもいない。まして、金髪のケバい熟女なんか知っている筈がない。
秀夫は「だ、誰？」と一、二歩後退りしたが、「うちよ、美佐江やで」と近寄ってくる。金髪で化粧は濃いが、よく見ると、左の口の横にほくろがある。まさか、まさか、「北海道に行った」とか、「九州に行った」とか、色々な噂を聞いたけれど、金沢にいるとは、もう二度と会えないと思っていた木村美佐江が金沢にいるとは……
「み、美佐江はん！」と秀夫は飛びつくようにその手を握った。が、そこに「おい、何してるんや」と山岸先輩が寄ってきた。
お邪魔虫だ。即座に、「あんたには関係あらへん」と美佐江に追い返されてしまった。
「どうして？」
「まあ、いろいろあったんよ。それより、秀夫ちゃんこそ、なんで金沢に？」
「あ、え、うん、金沢大学に入ったんで」
「えっ、金沢大学！凄いなあ」
懐かしさと嬉しさ。互いに抱き締めたい気持ちを抑えつつ、二人は手を取り合っていたが、開いた扉から顔を出した店のママが、「何しとんの？」と言わんばかりの顔で「ミサ、お客さん、待っとるわよ」と呼んでいる。
「ハーイ、今、行く」と返事をした美佐江は、「あ、これ、持ってて」と店の名刺を秀夫に渡すと、「じゃあ、またね」と扉の中に消えていった。
〝微笑みスナック 上海〟 ミサ
美佐江だから、「ミサ」って名乗ってるんか……店の灯りを見詰める秀夫に美佐江の身体のぬくもりが蘇ってきていた。
微笑みスナック 上海
「ミサ、ボーイフレンドか？」
「えっ、何？」
「若い男とチュッとやってたって」
「あら、嫌だ。見てたの？」
店内には中年男が５人ほど、カラオケのマイクを取り合い、盛り上がっていた。中には、それを聞いて、「う、ウソだろう……」とうろたえる美佐江のファンもいたが、「フフフ、通りでチュウなんかする訳ないじゃない。久しぶりに甥っ子に会ったのよ」とドレスのスリットをちょっと広げると、「そ、そうか。それで安心した」とニヤけた笑いを浮かべる。そこに、「さあ、歌いましょう」と腕を組まれれば、「よし、ママ、シャンパンだ！」とご機嫌になる。
男はどこでもバカである。
京丹後を追われた美佐江は金沢市に辿りついたが、生きて行くために手っ取り早く飛び込んだのが、やはり水商売だった。
キャバレー、熟女パブ、ピンサロ……身を売ったことも一度や二度ではなかった。色々あって、１年前から、ここ、「微笑みスナック 上海」で働いている。
ママの王怜（ワンリン）は中国・上海出身だが、在日１０年を超え、日本語に苦労はしない。
彼女には、「『美佐江』なんか長うてあかん。『ミサ』がいい。『ミサ』にするよ」と、源氏名をつけてもらったり、「ほら、これ着て」と身体の線がはっきりと出るチャイナドレスを貸してもらったり、それに「あんた、簡単に男と寝たらダメちゃ」と諫められたり……色々と面倒をみてくれたから、裏切りはできない。
美佐江はお客とデュエットしながら、秀夫のことを話したら、なんと言われるか。「アホちゃうか」、「何を考えてんの」と言われるか……
「ミサ、今度は俺だ」
「ええわよ」
また、お客から声が掛かるが、会いたい、秀夫ちゃんと話がしたい……と心にはずっと秀夫の顔が浮かんでいた。
市内デート
電話で連絡を取り合った二人は、美佐江の公休日、午後２時過ぎ、金沢駅のバス乗り場で待ち合わせた。
「ここやで」と手を振る美佐江は、金髪は変わらぬが、化粧は抑え目で、ネイビーのパーカーにジーンズ。３８なのにとても若々しく、本当に垢抜けている。
「金沢は分からへんやろ？」
「うん。まだ、大学と下宿の往復だけやさかい」
「これ便利なんよ」
と、先に来ていた美佐江はバスの市内フリー乗車券を用意していた。
それはバスが兼六園だけでなく、料亭のある花街や、代表的な繁華街の香林坊、市民の台所、近江町市場等を周り、乗客は好きな所で降りて、金沢を楽しむことができるというもの。
「ほな、行こか」と美佐江に連れられバスに乗ると、約１５分で兼六園に到着。
「これを見なくちゃ」とバスを降りた二人は、兼六園の中でも人気の徽軫（ことじ）灯籠で写真を撮り、霞ヶ池の周りを歩き、それから再びバスに乗って香林坊まで行き、歩いて花街の一つ、にし茶屋街まで足を伸ばした。
「あら、芸者はんよ」
「きれいだな」
故郷、京丹後市網野町には温泉街があるが、趣はまるで違う。
「ええねえ、金沢は」
「そうやろう」
町並みもいいが、秀夫は美佐江と歩く気分の良さを満喫し、午後５時過ぎ、バスで金沢駅に戻ってきた。そして、「入学のお祝いもしてへんさかい、今夜はうちがご馳走するさかい」と、美佐江は秀夫を美味しい日本酒の楽しめる居酒屋に案内してくれた。
（続く）
※本サイト内の全てのページの画像および文章の無断複製・無断転載・無断引用などは固くお断りします。
リンクは基本的に自由にしていただいて結構です。
▼セクシーランジェリー通販サイト
