セックスフレンズ-第6話 2990文字 ステファニー

セックスフレンズ-第6話

謎の美青年レオンを取り巻く女たちの物語。

作家名:ステファニー
文字数:約2990文字(第6話)
管理番号:k127

そして連休目前の本日、美咲はその通報者と面会を果たした。神保町のいわゆる打ち合わせ喫茶で、美咲はその通報者と向かい合って座った。
「『週刊スピードトピック』編集部の阿久根美咲と申します。山内舞さんですね。今日はわざわざ神保町までご足労いただき、ありがとうございます」
女子大生だという通報者は、まるでアイドルかのように大きな瞳と長い睫毛が特徴の美人だった。毒舌な美咲に言わせれば、綺麗に巻いたライトブラウンの髪をポニーテールにし、白い花柄のワンピースを着た、いかにも男ウケしそうな女子である。

「では山内さん、ご存知だという情報を教えていただいてもよろしいですか?」
ペンとメモを広げながら、美咲は話した。
「私は日本芸術大学に通ってます。音楽学科なんですが、友だちの友だちが美術学科でして、その子が漫画家の藤林晃のアシスタントらしいんです。で、藤林晃が同級生に小鳩レイがいたって言ってるみたいなんです」

藤林晃。風変わりで有名な人気漫画家である。雄英社の『週刊少年ジャンボ』で連載を抱えている作家だ。清水を通して何かのコネをつけられるものだろうか。いずれにしても難航しそうだ。
「それで藤林先生が言うには小鳩レイは耳が不自由なんだそうです。その話を聞いて、私の知り合いかもしれないって思ったんです。女の勘と言いますか」
「山内さんのお知り合いかも、ということですか?」

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「はい。言いにくいんですけど、私のセフレかなって気がしてます」
耳が不自由。セフレ。
どこかで聞いた話だ。
美咲は嫌な予感がした。
舞はスマホの液晶画面を見せてきた。見慣れた掲示板が美咲の目に飛び込む。

『舞です。音大生です。都内で会ってくれるイケメン大募集。待ってるよーん♡』
随分と無防備なメッセージだ。悪用される、という発想が舞にはないのか。
「これに返信くれたのが、レオンっていう男性でした。背が高くて、韓流スターみたいな容姿の人で。でも耳があんまり聞こえなくて、チャットとか、筆談とかでコミュとってて」

セフレなんだから相手のプライベートは問わない。他にもセフレがいたって、それは自由だ。頭ではそれがわかっていても、いざ別なセフレを目の前にするとあまりいい気はしない。
「山内さんはどうしてその人が小鳩レイだと感じたのでしょうか?」

「私の大学の話になって、日本芸術大学だと伝えたんです。そしたら自分も日芸の出身だって、レオンが言ったんです。美術学科だって」
彼は美咲に対しては何も語らない。美咲も話さないから仕方ない。だが、決定的な差のように思えてしまう。
「レオンは同じ大学のよしみで、学生生活の悩みとか聞いてくれたり、キャンパスとか生協の話で盛り上がったりしました」
この子が好きなんだ、きっと。美咲は表情が強ばらないよう、頑張った。

「では、山内さんはお友達が言っている方とご自身が会われた方が同一人物ではないか、と睨んでいらっしゃるのですね?」
「はい。耳が不自由で日本芸術大学の美術学科を出ていて、藤林晃先生と同じ年頃と思われる方なんて、そういないはずなんで」
「山内さんは藤林晃先生のご年齢はご存知なんですか?」
「いえ、でも若いでしょう」

薄ピンクに染めた舞の頬骨が美咲の癇に障った。
「小鳩レイは年齢非公表です。藤林先生はネットとかに出てるかもしれませんが、それが正確かはわかりかねます。さらに言えば、山内さんがおっしゃる方はおいくつなんですか?」
舞は押し黙った。店内の BGM が気まずい二人の間を支配した。

「知りませんけど、20代後半に見えます」
美咲はふぅ、と一息ついてから言った。
「憶測でしかない、ということですか?」
「そうなります」
自信満々といった感じで舞は姿勢を正した。

「わかりました。お話はお伺いしました。ありがとうございます」
「お役に立てれば嬉しいです」
ピンクのスプリングコートと、これまたピンクのフリルとリボンのついたエナメルバッグを持って舞は立ち上がった。
「但し、記事にするかどうかは編集部で相談の上、検討してからとなります」

その場で立ち、一礼し、お気をつけて、と添えて舞を美咲は送り出した。舞が店を出て、姿が見えなくなったのを確認し、美咲は席に戻った。
普通に考えれば信憑性は低い。第一、藤林と小鳩が大学の同窓生だという話は又聞きの又聞きだ。あるいはそれ以上かもしれない。学生の噂話など、都市伝説のレベルだ。尾鰭がついている可能性だってある。

さらにレオンが小鳩レイである説については、あくまで舞の勘でしかない。そこには何の証拠も裏付けもない。しかも裏サイトで知り合った相手がそうっぽい、程度では記事にしようがないし、使っているサイトがサイトのため、コンプライアンス的にも疑問が生じる。書きようによっては訴訟沙汰にもなりかねない。
と、ここまでは理性的に考えた美咲の意見だ。本心を言えば、舞の言う通りなのだろう、と勘が告げている。

あのセフレ募集サイトを通して美咲がレオンに初めて会ったのは、半年前だ。以降、5 回ほど関係を持った。毎回、鶯谷のラブホテルで待ち合わせ、解散している。個人的な話はしていない。ただひたすらに、お互いの身体を貪り合う、それだけを追い求めている。会うのは決まって平日の夕方か夜であるし、ラフないでたちでいるから、自由業かベンチャー勤めなのか、とは推測していた。だとすると、余計に舞の想像と合致する。

思い込んではいけない、客観的に判断をしないと、と意気込むほど、舞が正しいように感じてしまう。
身から出た錆、か。
美咲は右肘をテーブルにつき、頭を抱えた。
セフレにはまり出したのは、就職活動が終わった直後、大学四年生の夏だった。理由はただひとつ。人肌が恋しくなったからだ。

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美人ではないが肉感的な肢体をしている美咲は、大学に入ると同時に性生活を活発化させた。というより、周りから活動させられた、と言った方が正しいだろう。
以前、あるタレントが発した「ちょうどいいブス」とはまさに美咲のことを指すようで、とにかく美咲は飲み会の後に毎回のように誘われた。そして、それはいつも一夜限りの関係だった。

美咲自身も酔っていたから、誰に抱かれたのか、覚えていない。何人と関係を持ったのかも、だ。
だが、きちんとした交際歴は、ないに等しい。恋人と呼べるような、身体以外の付き合いをした相手はいないのだ。
しかし、それも大学四年になり、それぞれの進路がはっきりしてきた頃になるとぱったり途絶えた。卒業に向けて多忙になり、顔を合わせる機会がめっきり減ったからだ。
小さな頃から美咲は性欲が旺盛だった。もちろん、子どもの時分ではそれが性欲だと認識していたわけではない。折に触れて目に入る性的な映像に、酷く興奮を覚えていた、に留まる。そして中学生になって性交渉の存在を知るようになると、早くしてみたい、という思いでいっぱいになり、セックスシーンのある漫画を眺めては想像に耽った。時には性器を弄り、一人快感を得たりもした。

だからこそ、味を覚えた後のセックスレスには耐えられなかった。もともと特定の相手としていたわけではない。こだわりも少ないため、セフレ募集サイトに書き込みをするのにためらいはまったくなかった。それよりもとにかく満たされたかった。
けれども、まさかこんな形で仇になって返ってくるとは、思ってもみなかった。
編集長にどう報告すればいいか。頭がこんがらがってしまう。

(続く)

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