セックスフレンズ-第7話
謎の美青年レオンを取り巻く女たちの物語。
作家名:ステファニー
文字数:約2910文字(第7話)
管理番号:k127
冷静に考えれば、塩入の助言が当たっていたことになるし、編集長の予感も的中した、と言えるのだろう。偽名で書き込みしていたため、黙っていれば、美咲があのサイトでセフレと交流していたことはバレない。素知らぬふりをして記事を書けばいいのだ。
それでも、後味の悪いものを感じざるを得ない。
勤務時間中だが、無性に酒が飲みたくなった。でもこの店は純喫茶のため、置いていない。
ではタバコを、と思ったが、ここは禁煙だ。
諦めて美咲は荷物をまとめ、伝票を手に席を立った。
聖羅からの忠告を受けても、レオンは懲りなかった。サイトへの書き込みは偽名であるし、仕事のやり取りは母親がマネージメントを一手に引き受けているから、出自が割れるとは 考えにくいと踏んだためだ。
自分はどうしてこんなに性欲が強いのか。何人を抱いて、どんな女を抱けば満たされるのか。行き当たりばったりの関係を求め続けるのはいかなる理由からなのか。
たまにはそんな葛藤を抱くことだってある。
その度に深く考えず、ただ自分の欲求の赴くまま、流れに身を任せてきた。
以前、舞に「セックスだけが自分と他者が対等になれる手段」と言ったが、セフレ垂らしを繰り返している根底にある本音はそれだと自認している。悲しいが、それがレオンの人生観だ。
特別支援学校で絵が上手いと褒められた。その日から美大に入ろうと決めた。毎日毎日絵を描くことに明け暮れて、その甲斐あって現役で日本芸術大学に合格した。
大学では友人にも恵まれ、好きな絵の勉強をたくさんし、しかも職を得ることもでき、実りある四年間を過ごした。
それでも常に何かが足りないし違う、という思いが拭えなかった。
大学の友人たちはみな親切だった。教授も配慮してくれ、不自由ない学生生活を送れていた。だが、みなの気遣いが逆にレオンを孤立させているように感じた。
笑顔で接してくれているし、優しく対応してくれる。それが息苦しかった。
絵の才能があると判明してからの母の態度が気に食わなかったのもある。これ見よがしに講演などで、自分の子育て論のダシに使われることは我慢ならなかった。
セフレに捌け口を求めたのは言語化しにくい孤独感からなのか、母への当てつけからなのか。答えは出ないし、出す気もない。
ただ、現状がこのまま続けばいいのに、としか願わない。だがら、今日もまた、出かけてきた。
首都高の架線をくぐり抜け、かつてプランタン銀座があった通りに出る。平日の日中は、この界隈でもスーツ姿の人が多い。
大通りを背に飲食店や美容サロンが入居する雑居ビルが立ち並ぶ路地に入ると、小規模なシティホテルが銀座といえどあるものだ。
白を基調としたモダンなエントランスをしたホテルに、レオンは足を踏み入れる。最近開業したばかりのこのホテルは、フロントが無人である。代わりにレセプション用のタブレット端末が設置されている。すでに先方がチェックインしていると連絡があったため、レオンは端末を触らずにエレベーターに乗り込んだ。
予約した部屋の呼び鈴を鳴らすと、数秒してドアが開いた。垂れ目でふっくらした印象の若い女性が笑顔で出迎えた。萌乃、と女性は名乗った。
『マジイケメンでヤバイ。当たりキターって感じ』
中に入ると早々にこんなメッセージが来た。その言葉通り、萌乃はソワソワとしている。レオンは少し微笑んで反応を誤魔化した。
エントランスの様子から予想はしていたが、やはり部屋は狭苦しかった。ダブルとは言い難い小さめのベッドが部屋の大部分を占め、まるで恩情とでも言わんばかりの小さなデスクとソファがその端に置かれている。それらとベッドとの隙はほぼない。デスクの右上には、格子窓のようなものが嵌め込まれ、薄汚くせせこましい都会の路地裏を映している。長く宿泊施設を営んでいる場所にありがちな水と煙が染みついたようなひとときの生活臭がひどくレオンの鼻についた。
萌乃はレオンをよそにひっきりなしに写真を撮り続けている。黒いワンピースとカチューシャで整えたロングヘアをヒラヒラさせながら、あちこちでシャッターを切っている。
『銀座ってマジアガるから好き』
ひと仕事終えたようで、萌乃はベッドに腰掛けた。
『そうなんだ』
『私、千葉県民。しかも鎌ヶ谷っていう内陸で私鉄しかない冴えない所。数少ない自慢できることが都心に出る時に最初に着くのが、銀座ってこと。正確には東京駅だけど、京葉線のホームって、実際には地上の有楽町駅に当たる場所でね、改札出るとそこは銀座なんだよ。これって埼玉県民と神奈川県民に勝ってると思わない?』
『そっか。それは知らなかったな』
神奈川県民であるレオンには複雑な情報だったが、ここは萌乃に付き合った。
『今日は銀座で写真撮りまくって、たくさんインスタにあげる予定』
『楽しそうだね』
『今日はね。でも私の日常はマジ退屈』
『えーっ?なんで?』
『千葉ニュータウンっていうド田舎のショッピングモールで金持ってなさげな層向けのファストファッションのショップスタッフとか有り得ないでしょ』
千葉ニュータウンはド田舎とは思わないし、ショッピングモールに入っているファストファッションブランドイコール貧困層向けという構図にも違和感を感じるが、それが萌乃の価値観らしい。
『アパレルの店員さんとは大変そうだね』
『うん、マジ残酷。客いないのにノルマだけあったり、意味不って感じでさ。おまけにパートの主婦とか、子どもが具合悪いとかで急に休んだり早く帰ったりとかで使えなくて、こっちが残業くらったりで、有り得ないんだけどー』
『それは酷いね』
『もうっ、ほんっとにやってらんないっ。私だって都心のオフィスでバリバリ働くOLしたかったのにさっ。だから仮想の中だけでも、キラキラ生活装ってもバチ当たんないでしょ、って感じで、インスタは盛りに盛りまくってんだ』
それはあまり見たくない、とレオンは思った。
『でも今日はツイてる。こんなイケメンとデートだなんて。銀座来た甲斐あったよ』
『そんなに喜んでくれるなんて嬉しいよ』
萌乃はレオンに身体を寄せてきた。
『ねぇ、バスルーム行こ』
バニラの香が萌乃の首筋からした。レオンは誘われるまま、萌乃とバスルームに入った。想像していた通り、こぢんまりとしたバスタブが窓もないユニットバスルームにちょこんと置かれている。浴槽からは強い塩素臭がした。
萌乃はあまり新しいとは言えないシャワーを全開にして、湯を張り出した。そしてワンピースとカチューシャをそそくさと放り出した。レオンは合わせてシャツとズボンを脱いだ。 黒いメタリックのブラとショーツ姿になった萌乃は、レオンに向かって垂れ目をさらにトロンとさせて甘い顔をしてきた。光沢あるブラに包まれた胸は丸くこんもりとしており、かなりのボリュームであることが見て取れた。
少し太めの二の腕をレオンの脇に回し、萌乃はキスをねだってきた。レオンはそれに応じた。舌の綱引きの応酬がしばし行われた。互いに譲らない。
やがて足元から湯気が立ち上り、視界が曇ってきた。熱気で肌が汗ばんでもきた。
知らぬ間に萌乃は下着を取り、マシュマロのような乳房をレオンに押し付けた。レオンもパンツを足から抜いた。
(続く)
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