セックスフレンズ-第8話
謎の美青年レオンを取り巻く女たちの物語。
作家名：ステファニー
文字数：約2860文字（第8話）
管理番号：k127
洗面台のミラーに萌乃は手を伸ばした。そこにはピンクの球体があり、それを萌乃は風呂水に放り込んだ。たちまち浴槽は泡で溢れた。萌乃は温かなゲレンデに入ろうとレオンを誘った。
バブルは瞬く間に膨れ上がり、二人の身体を覆い込んだ。ヌルヌルしたボディを互いにくっつけ合う。その感触がなんとも言えず、性的五感を刺激する。
白い気泡で身体の細部が隠れた。手探りに大事な箇所を辿る。
レオンはバックから萌乃を抱き、下半身を重ねた。萌乃は太腿を開け、レオンの掌が陰部に侵入するのを容易くした。
血走ったレオンのバナナは、萌乃のもうひとつのお口へと潜っていく。ビクンと萌乃の腰が震えた。うっすらと甲高い音がレオンの耳に届いた。
ゆっくりと、軽やかに、レオンは萌乃の中で動いた。萌乃はそれに合わせて尻を揺らす。萌乃は柔和で童顔であるが、セックスに関してはかなり熟達しており、技巧的であった。それなりに性の経験を積んでいるようだ。
泡まみれの乳房を突き出し、揉むように萌乃はレオンにせがんだ。レオンは格別にソフトな萌乃の大粒のマシュマロをもみくちゃにした。
蒸気して紅らんだ萌乃の皮膚。
熱気の中、くねらせる萌乃の豊かな腰。
メレンゲの合間にのぞく萌乃の桃色の乳首。
ピッチリと締め付ける萌乃の滑らかな膣。
すべてが快感だ。
萌乃の色香が、吐息が、レオンの性感を唆す。
逝け、逝け、と。
丸みのある萌乃の腰をきつく抱擁した時、レオンは果てた。発砲を感じた萌乃は震えを止めた。
シャワーから流れる水音だけが静かに響いた。
なぜだろう。
今、満たされたばかりなのに、まだ物足りなさを感じる。
でも、それは萌乃に対して向けられたものではない。
また新たなる未知の領域に期待している自分がいる。
セフレとの行為の後、レオンはいつもこう感じている。
少し冷めた萌乃の背中からレオンは離れた。
いらないとあれほど言ったのに、母親は保険屋とのアポを取り付けてしまった。あんたもいい歳なんだし、それなりに仕事も軌道に乗ってるから、万が一の事態に備えておかないと、というのが母の言い分だ。
レオンはまだ見ぬ将来に備えた生き方はしないと決めている。それが度重なる数奇な境遇をくぐり抜けた故にたどり着いた結論だ。
だが、母には通用しない。あんたのためを思って言ってるのよ、の一点張りだ。レオンにしてみれば、体良く業者に言いくるめられたにすぎないのでは、としか思えない。
とはいえ在宅勤務のレオンは、自宅へ彼らに押しかけられれば、ひとたまりもない。抵抗もむなしく、あえなく面会の流れとなってしまった。
『2 名いらっしゃるの。営業職員の大倉さんという女性と、彼女の上司で営業課長の中園さんの二人』
母は手話で伝えてきた。レオンは手話が嫌いだ。母としか使わない。
『母さんが手話通訳で仲介するから』
うんざりだった。なんでこいつはこんなに出たがりなんだろう。レオンは、白塗りの化粧をしよそ行きのセットアップを着た母親を睨みつけた。
そうこうしているうちにベルが鳴り、客人がやってきた。母はレオンに居間のソファで待つよう、指示してきた。
二人がけソファの真ん中でガックリと項垂れて腰を沈めていると、香水の匂いが鼻腔をついた。にこやかに会話をしながら見慣れぬ女性が二人、居間へ入ってきた。母はレオンに立つようサインしてきた。
ショートカットで黒いパンツスーツを着込み、化粧気のない女性を母は大倉さんだと紹介した。若いが華がなく、体型もずんぐりむっくりしており、冴えない。レオンが最も興味のない類いの女だ。
対してもう一人の女性はパッと目を惹いた。背が高く色白で、明るく柔らかい雰囲気だ。例えれば、アニメの『赤毛のアン』みたいな…。
『大正生命新百合ヶ丘支店第三営業課の課長さんで中園さんよ』
中園沙也香、と書かれた名刺がレオンに差し出された。レオンはそれを受け取り、女の顔をまじまじと見た。
純子だ。間違いない。素知らぬ顔をしてはいるが。
戸惑いを見せぬよう、レオンはソファに戻った。純子はレオンの斜向かいに腰掛けた。
大倉が出してきた資料がテーブルに広げられた。いくつかのプランを母に説明している。就労不能時に備えた補償だという。興味がない上に、保険がさっぱりわからないため、話は頭に入ってこなかった。
それよりも、純子が気になる。レオンは折を見て純子を盗み見たが、純子はレオンの母をまっすぐに見つめたまま、微動だにしない。
「すいません、会社から電話が入っておりますので、少し席を外しますね」
スーツのポケットに手を当てて、純子は母にそう言い、席を立ち、居間から出て行った。レオンはそれを目で追った。
純子がいなくなると、母と大倉は保険の話を一旦中断し、雑談に興じた。レオンがそっぽを向いたその時、ズボンに入れていたスマホがバイブした。光る液晶画面は、純子からの新着メッセージを報せていた。瞬時にレオンは仕事先からの緊急連絡だから、と母に嘘を吐き、席を立ち、部屋の隅に行きメッセージを確認した。
『レオンさん、お久しぶりです。ずっと連絡を返さず、ごめんなさい。まさかこんな形で再会するとは思いませんでした』
レオンは高鳴る心臓を抑え、固唾を飲んで読み進めた。
『あなたのこと、そこにいる大倉を通して聞いています。お仕事の内容も、年収も、すべて知っています。まさかあの日あの場所でお会いしたあなただったなんて、予期もしていなかったので、本当に驚きです』
何か返信をしなくてはと思うが、純子から来るメッセージのスピードが速く、レオンはただただ目で言葉を追った。
『もうご存知の通り、私は純子ではありません。ただの OL です。あなたのように若くもなければ、才能もカリスマ性もありません。どうかあの日の出来事は一時の火遊びであったと捉え、水に流してはくれませんか。私もあなたとの出来事を墓場まで持ち込むつもりです』
読みながら、レオンは自分の呼吸が荒くなるのを感じた。
『あなたはまだ若く、将来性もあります。まだまだこれからも世界に向けて大きく羽ばたいていくのだろうと思います。ですから、私のような女に固執してはいけません。私に限らず、あのサイトのような所で交流をするべきではありません。今すぐ書き込みを削除し、清算してください。でないと、取り返しのつかない後悔をする恐れがあります』
なぜ、こんな言われ方をしなければならないのか。レオンは純子に対し、ひどく憤りをおぼえた。
『このメッセージに対する返信は不要です。私は今すぐあなたをメッセージブロックリストに登録します。それでは失礼致します』
このメッセージが来てすぐに、純子は居間に戻り、ソファに居直った。宣言通り、レオンはメッセージを純子に送れなくなっていた。
仕方なくレオンは母の隣りに戻った。純子は何食わぬ顔で母と歓談をしている。
それからあとのことは、よく覚えていない。結局、母と大倉の間で何らかの契約が交わされたようだ。数枚の資料にレオンはサインをし、大倉と純子は帰って行った。
自分の何がいけないのか。
どうして責められなければならないのか。
（続く）
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