セックスフレンズ-最終話 2550文字 ステファニー

セックスフレンズ-第9話

謎の美青年レオンを取り巻く女たちの物語。

作家名:ステファニー
文字数:約2550文字(第9話)
管理番号:k127

セフレ掲示板を通して女と出会うなんて、世間にいくらでもやっている男はいるはずだ。
なんで自分だけが批難される必要があろう。
純子と過ごした池袋の午後は刺激的で、愉しかった。もう一度味わいたいと望むことは罪なのか。
純子の優しいぬくもりを感じることは金輪際叶わないのか。
レオンはわからない。
自分の何が悪いのか、が。

『―謎に満ちた人気イラストレーター小鳩レイを追う 2―
前回の小誌記事を掲載後、小鳩レイ氏が都内某有名芸術大学の卒業生ではないか、という 情報を記者は得た。さらに同大学にて、小鳩レイ氏は超売れっ子漫画家 X 氏と同級生であったとの噂も耳にした。真偽の程を確認すべく、X 氏を擁する人気漫画誌の編集部へコンタクトを図った。残念ながら本人への接触は叶わなかったが、別の情報筋により、X 氏が同大学の卒業生であることの裏付けは得られた。今後は同大学を中心に小誌は聞き込みを続ける予定である。(阿久根 美咲)』

5 月の連休明けの長い陽がようやく沈み、上野の街に夜の帳が下りた頃、レオンは美咲と悦に浸っていた。
『今日もよかったよ』
事を終え、ベッドでひと息つくとすぐにレオンはこう美咲に送信した。
『私も』

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美咲は一言返信すると、起き上がり、レオンに背を向けた。
『でも、私がレオンに会うのは今日が最後だよ』
レオンも上体を起こし、美咲の背中越しに問いかけた。
『どうして?僕はまたアヤちゃんに会いたいよ』
美咲は振り返らずに会話を続けた。

『私はね、アヤじゃないんだよ』
偽名であること、自分の職業が週刊誌の記者であることを美咲はレオンに打ち明けた。
『小鳩レイを追う記事があったでしょ。あれを書いたのが私なの』
その記事については知っていた。母が騒ぎ、狼狽えていたからだ。
『そうなんだ。記者さんなんて、すごいね』

『とぼけないでいいよ。あなたが小鳩レイなんでしょ、レオン』
レオンは黙った。肯定できなかったからだ。
『1ヶ月ぐらい前にね、私のもとにタレコミがあったの。自分のセフレが小鳩レイじゃないかって。見慣れた掲示板見せられて、あなたの特徴話されてさ。守秘義務があるから提供元について詳しくは話せないけど』

純子か。もしくは聖羅か。出処になりそうなのはその二人に違いないとレオンは踏んだ。 『驚いた、こんな偶然ってあるんだね。ネタを追い始めた時はあまりに尻尾が掴めなくて、 何度も挫けそうになってたのに。灯台もと暗しって言うのかな。こんな足元に答えが転がってるなんてね。もちろん、私的な関係については記事に書けることじゃないし、今後も出すつもりはないから、安心していいよ』

シーツを掴みながら、レオンは美咲にお願いした。
『僕はアヤちゃんがあの記事を書いた人とか気にしない。単純にただ、またアヤちゃんと会いたいな』
『記事は大学での調査はうまくいかなかった、ってことで打ち切りにする予定。だからこれ以上、深掘りしないから、大丈夫だよ』
『また会いたいよ。ダメかな?』

美咲はガウンを羽織って、立ち上がった。
『ごめんね。私、他のセフレを目の前にして平気でいられるほど強くないんだ』
小刻みに美咲の肩が震えていることに、この時になって初めてレオンは気づいた。
『レオンはどうして私にまた会いたいの?』

レオンはわからなかった。定期的に会って美咲とセックスするのが当たり前になっていたから、としか言いようがないからだ。
『理由なんていらないよね。だって私たちセフレだもん。身体だけの関係だし、それ以上の何物でもない。同時に複数人と肉体関係結んでたってどうってことないし、むしろそんなの当たり前だし』

個人的には美咲との身体の相性はいいと、レオンは思っていた。美咲は美人ではないが、肉付きが良く、抱き心地がいい。萌乃と似たような体型だが、萌乃が綿あめのような肌触りだとすれば、美咲はグミのようにハリと弾力がある。どちらもそれなりの良さがあるのだが、人となりが表れているようにも思え、奥深さを味わっていたものだ。
『だからこそ、個人としてのバックグラウンドは知りたくないし、知る必要もない。知ってしまったら、それまでと同じように振舞っていられないから』

『そうかな。僕は大丈夫だよ』
『あなたが良くても、私は良くない。特に私は仕事にも差し支えるかもしれないから』
美咲はベッドから離れた。そして、そのまま部屋の隅へと移動した。レオンはそれを目で追った。
『レオンはどうしてセフレなんて関係を続けてるの?地位と名声があって、金銭的に余裕もあるわけでしょ。こんな安っぽいサイトで女漁りしてないで、もっと高級な場に出会いを求めたらどうなの』

ああっ、とレオンは思わず声を出してしまった。
『そうだね。そういう手もあるよね』
そこに自分を受け入れてくれる余地があるのかわからないし、拒絶されるのが怖いから、と本音を打ち明けることは躊躇われた。代わりにレオンは美咲から目を逸らした。
『ごめんね、責めてばかりいて。私だって褒められたものじゃないのに』

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『全然大丈夫だよ。怒ってないよ』
暗がりの中、衣擦れの音がした。美咲は着替えをしているようだ。
『でもね、これだけは言わせて。いつかレオンに身体だけじゃなくて心も通わせた相手ができるといいなって思うの。残念ながら私じゃないみたいだけどね』
美咲とは結構長い付き合いだった。会うことが当然になっていただけに、突然の別れはなかなか喪失感が大きい。

『ベッドでだけじゃなくて、他の場所でも会いたい子がいたら、その子は大事にしな。本当の恋人になれると思う』
明後日、レオンは舞とディズニーランドに行く。舞から誘ってきたのだが、楽しみにしている。セフレとホテルか飲食店以外の場所に出かけるのは初めてである。
『それと、恋人が見つかったら、きちんと身を固めた方がいいよ。その方が身の為だよ』
いつの間にか黒のパンツスーツに身を包んだ美咲は荷物を抱え、レオンに向かって手を振った。

『うん。わかった。アヤちゃん、今までありがとう。これからも元気でお仕事頑張ってね』
『ありがとう。こんな私に最後まで優しい言葉をかけてくれるなんて感激だよ』
それだけ言うと美咲は部屋を出て行った。影が減り、薄オレンジのライトが煌々と裸のまま座るレオンを照らしていた。
舞が自分のお嫁さんになるのかな、とレオンはぼんやり思った。

(終わり)

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