詩織の冒険・リボーン-第1話 2380文字 キラ琥珀

詩織の冒険・リボーン-第1話

最愛の夫が先立ってしまった。残りの人生を夫なしで生きなければならない。出来るのか? 生まれ変わるしかないのだけれど……。

作家名:キラ琥珀
文字数:約2380文字(第1話)
管理番号:k111

第1話

新田詩織が住んでいるのは、東京の南西に位置する茜が丘市である。
茜が丘市は渋谷まで電車で30分ほどの位置にある。
都心への通勤に便利なため早くから発展した。

それだけに今では老朽化して再開発が進んでいる。
再開発の目玉の一つとしてタワーマンションが建った。
このマンションの最上階に新田詩織は住んでいるのだ。

今は亡き夫の新田卓也が富士山が好きであり、彼の希望でこのマンションを購入したのである。
窓のカーテンを開ければ、彼方に富士山のきれいな形がしっかりと見える。
〈富士は日本一の山〉という歌の文句が実感できるのだ。

富士山を見ていると活力が湧き出て来る。
ここに住んでよかったと思う。
もちろん、見えるのは晴れている日に限る。
くもりや雨の日には見えない。

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皮肉にも、タワーマンションのために上階が雲の中に入ることもある。
こうなると、地上も見えない。
窓の外は霧に覆われて白一色になる。
窓ガラスについた雨粒だけが見えるのだ。

今日、朝起きてカーテンを開けると、外は白一色であった。
新田詩織は、陰鬱な気持ちで窓ガラスの雨粒を見ていた。
机の上の写真の中で夫が笑っている。

だが、彼女は笑う気にはなれない。
陰鬱な気持ちである。
(1年前の運命の日にも雨で富士山は見えなかったな)

* * *

1年前のことである。
その時、夫は生きていてロンドンに単身赴任していた。
朝起きてカーテンを開けると、外は白一色であった。

(雨か……なんとなく陰鬱だな……)
富士山が見えないと元気になれない。
しかも、夫もいないのだ。
これでは陰鬱になるしかないではないか。

パジャマを脱いでベッドに放り投げる。
ベッド――。
独りで寝て、いま起きたベッド――。
いつもなら、そこには夫がいたのだ。

思い出すだけで心が熱くなってくる。
カーテンを開ける音を聞いて夫が目を覚ます……。
詩織の手を取ってベッドに引きずり戻す……。
朝立ちのをすぐに挿入する……。

詩織の淫壺の中でビクン・ビクンと動く……。
詩織の壺が締めつける……。
(すごい、ヒダヒダが蠢いているよ)
詩織をベッドに押さえつけて、腰をバンバンと押しつける……。

詩織は大声を出す……。
密閉度の高いマンションの最高階だから、遠慮なく嬌声が出せる……。
(ああああ、もう我慢出来ない。出すぞ)

熱い液体が淫壺に満たされる……。
(ああ、さっぱりした)
(なによ、私は便器じゃないわ)
(オレの肉便器だぜ)

(このドスケベ!)
(会社から帰って来たらゆっくりかわいがってあげる)
(約束よ)
(もちろん)

チュ。
詩織は思い出し笑いをした。
(早くロンドンから帰って来て、かわいがってよ……)
身体の芯が疼いてきた。

(なんだかオナニーをしたくなってきたぞ)
でも、今は我慢、我慢よ、と思う。
午後までの我慢なのだ。
洗顔をし、目玉焼きとトーストを食べてコーヒーを飲んだ。

それから掃除をした。
独り暮らしなので掃除は簡単に終わる。
それから居間に行き、紙と鉛筆を前にして仕事にかかった。
詩織はプログラマーである。

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プロのグラマーAV女優というのではない、念のため。
コンピュータのプログラムをする人間なのだ。
ちなみに、〈仕事〉といっても、会社の社員というのではない。

社会的な身分、ということでいえば彼女は専業主婦である。
IT関連の会社に勤めていて新田卓也と出会い、寿退社して家庭に入ったのである。
だが、コンピュータは好きだし、暇があればプログラムを考えているのであった。

好きだからプログラムを考える――、まあ、趣味なのである。
だが、斬新なプログラムが出来れば売れる――、そうなれば仕事なのである。
今、考えているのは高圧縮のプログラムであった。

これが完成すれば、『スターウォーズ』、『アベンジャーズ』、『007』のすべてを8K精度で1枚のディスクに入れることが出来るのだ。
詩織は、窓の外の霧を眺めながら考えた。
ちなみに、コンピュータに向かってコードを打ち込むのは最後の最後である。

先ず、プログラム全体の設計をしなければならない。
それを考えるのが最初であり、いちばん大切なことであった。
窓の外を眺めながら考えた。
霧で富士山は見えない。

どうにも陰鬱である。
考えがまとまらない。
なんだか胸騒ぎがする。
紙にいたずら書きしながら神経を集中しようとした。

ダメであった。
(仕方ないなぁ……。映画でも見るか……)
ラックから『007 スカイフォール』を抜き出すと、デッキにセットした。
ジェイムズ・ボンドシリーズは彼女のお気に入りの映画である。

ポテトチップを食べながらぼんやりと見る。
軽快なアクション映画だから、陰鬱な気持ちを発散させるには最適である。
陰鬱な気分が発散するはずであった――。
だが、途中で気がついた。

ロンドンの地下鉄が壊れるシーンがあったのだ。
夫のいるロンドンである。
なんだか縁起が悪い。
もっとも、その後、映画の舞台はスコットランドに移る。

スコットランドは夫とは関係ない。
(どうも神経質になりすぎているな)
ということで、『007 スカイフォール』に続いて『スターウォーズ・エピソード4』を観た。
これなら絶対にロンドンは出てこない。

昼過ぎになった。
昼食はとらず、外出の用意を始めた。
ざっとシャワーを浴びて、ベージュ色のブラジャーとパンティを身につけた。
大胆なカッティングのオープンブラとパンティ――、ではない。

普通のブラジャーである。
フルカップ。
彼女の巨大な乳房をサポートするには、これしかない。
パンティも普通使用のものである。

縦横に伸びる素材で、はきごこちがよい。
フロント部分はレース。
詩織の趣味からすれば地味な下着である。
(まあ、いいわ。エロい下着になるのはホテルに着いてから……)

詩織は、〈エロい下着〉やその他道具、それにノートパソコンをトートバッグに詰めた。
部屋を出る前に、ふと見ると、富士山がくっきりと見えたのであった。
いつのまにか晴れていたのだ。
気分も晴れてきた。

(続く)

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