詩織の冒険・リボーン-第2話
最愛の夫が先立ってしまった。残りの人生を夫なしで生きなければならない。出来るのか? 生まれ変わるしかないのだけれど……。
作家名:キラ琥珀
文字数:約3340文字(第2話)
管理番号:k111
第2話
詩織が住んでいる茜が丘市から渋谷まで電車で30分ほどである。
通勤時間帯はかなりのラッシュになる。
だが、日曜の午後のこの時間では空いており、ゆっくりと座ることが出来た。
詩織は、トートバッグを膝に置き、ぼんやりと朝の仕事の続きを考えた。
同時に夫の顔が浮かんでくる。
そして、また股間が濡れてきた。
なんだか無性にオ珍珍が欲しい。
火がついた身体は押さえようがなくなってきている。
スマホが鳴った。
「はい」
「331です」
「よし」
現実に引き戻された。
渋谷駅で降りると、目の前にそびえているコーラルリーフ・インターナショナル・ホテルに入った。
超高層の最高級シティホテルである。
広いロビーに入り、スタスタと歩いてエレベータに乗り、331号室へ向かった。
チャイムを押すと、勝呂祐樹がおびえたような目でドアを開けた。
彼は、部屋に備えつけのガウンを着ていた。
首には犬用の大きな首輪をつけており、そこから鎖が垂れていた。
詩織は部屋へ入った。
勝呂祐樹が、おずおずと鎖を差し出した。
「ど、どうぞ」
「おう」
詩織は鎖を受け取ると、引っ張った。
「おらぁ、こっちへ来い」
「は、はい、女王さま」
詩織は、ハンドバッグとトートバッグをソファーに投げ出して、命令した。
「脱げ」
ガウンの中は全裸であった。
オ珍珍が縮んでいる。
「座れ」
勝呂祐樹は正座した。
勝呂祐樹は、茜が丘の北にある大化メディカル産業の社員である。
薬を中心とする医療関係の物品の卸をしている会社なのだ。
詩織は、2年ほど前、大化メディカル産業でパートを始めた。
そのとき、勝呂祐樹が詩織に媚薬を飲ませて乱暴したのである。
詩織は、もちろん激怒した。
そして復讐をしたのである。
彼の身辺にフェイクな情報を貼りつけたのだ。
その情報が表に出れば勝呂祐樹は社会的に抹殺されることになる。
本人が、これはフェイクだ、と叫んでも誰も信じやしない。
「この情報をバラまいてやるからな」
勝呂祐樹は泣いて謝った。
「すみません」
「謝って済むなら警察はいらねぇよ」
「どうすれば許してもらえますか?」
「私の奴隷になれ」
「何ですって?」
「奴隷だよ」
「奴隷って、SMですか?」
「バカヤロー、遊びじゃない。マジの奴隷」
「そんなの、いやだぁ」
「てめぇ、そんなこと言える立場か、バカヤロー」
こうして、詩織は大化メディカル産業の中に忠実な奴隷を作ったのだ。
詩織は、奴隷を通じて会社の実情を知った。
彼女の目からすれば、ものすごく古い構造の会社であった。
そこで、情報管理の改革を、奴隷を通じて、会社に提案したのである。
勝呂祐樹が改革を思いついた、ということにしたのだ。
会社からしてみれば、勝呂祐樹は有能な社員に見えた。
勝呂祐樹は昇格し、詩織は単なるパートから〈情報管理コンサルタント〉という立場になった。
詩織がその気になれば、会社全体を乗っ取ることも出来たであろう。
だが、それは詩織の趣味に合わない。
会社経営など七面倒くさいことはしたくない。
自由に生きたいのである。
ほぼ毎週日曜日、渋谷のホテルで勝呂祐樹からデータを貰い、経営アドバイスをし、奴隷を虐める――、この生活の方がよっぽど面白い。
もちろんこの〈秘密のデート〉の費用は勝呂祐樹が負担している。
詩織は、洋服を脱ぎ、下着も外した。
勝呂祐樹が、詩織のグラマーな肉体に見入っている。
だが、彼女は気にしなかった。
なにしろ、勝呂祐樹は〈男〉ではないのだ。
〈人間〉でもない。
単なる〈奴隷〉なのである。
奴隷に対して羞恥心を感じることはない。
詩織は、トートバッグからボンデージの衣装を取り出し、手早く身につけた。
黒いエナメルのものである。
足部分はレギンスタイプで、そこから上は細い帯状であり、白い裸体に貼りついている。
もちろん乳房は丸出しとなり、詩織の巨乳を強調していた。
厚底、ピンヒールの靴に履き替えた。
靴はディープレッド。
黒と深紅の対比が凄い。
このボンデージ衣装は、性産業のメッカであるドイツから取り寄せたものである。
最後にムチを持った。
キャット・オブ・ナインテイルと呼ばれるムチである。
柄に九本の革紐がついている。
もちろん、SMプレイ用のヤワなものではない。
中東の、現在でも奴隷を使っている地域から取り寄せた本物のムチである。
詩織はムチを振った。
ビュ、という空気を切り裂く音が鋭い。
「後ろを向け」
勝呂祐樹は、泣きそうな顔をして、後ろを向いて正座した。
「とりあえずは10回だ。ちゃんと数えろよ」
「は、はい……」
詩織は、彼の背中にムチを振った。
ビュ、ピシ。
「いーち」
ビュ、ピシ。
「にーい」
ビュ、ピシ。
「さーん」
……。
奴隷ではあるが、詩織は一つだけ情けをかけた。
ふつうに肌が出ているところにはムチを当てない、ということである。
背中や尻など、傷がついても、それが見えない場所にムチ打ちするのだ。
10回のムチ打ちが済むと、泣いている勝呂祐樹をそのままにして、詩織は冷蔵庫から缶ビールを取り出した。
ソファーに座った。
「おまわり、しろ」
勝呂祐樹は、四つん這いの姿勢で部屋の中をぐるぐると回った。
首輪から垂れている鎖がジャリジャリと音を立てている。
詩織は、缶ビールをテーブルに置いた。
テーブルの上には、書類とUSBメモリ、それにフライド・チキンが置いてあった。
勝呂祐樹が持ってきたものである。
書類とUSBメモリは、大化メディカル産業のデータであった。
門外不出の極秘データである。
これを持ち出したことが分かれば、勝呂祐樹はクビになる。
だが、クビになるより詩織のムチの方が怖いのだ。
それに、極秘データを悪用するわけではない。
詩織に見てもらい、効率化のアドバイスを貰うのだ。
フライド・チキンは、新茜が丘駅前商店街で買ってきたものである。
奴隷となった最初の日以来、このフライド・チキンが習慣となったのだ。
詩織は、ビールを飲み、フライド・チキンを食べた。
このために、今日は昼食を抜いたのである。
「おい、フットレスト」
勝呂祐樹は、詩織の前で四つん這いになって止まった。
詩織は、彼の背中に足を乗せた。
ノートパソコンを取り出し、USBメモリをセットした。
紙の書類を開く。
PCの画面の数字と、書類の数字を見比べた。
「ふうん、今期は調子がいいようだな?」
「はい、女王さまのアドバイスのおかげです」
「てめぇ、マシな口が利けるようになったな」
「ありがとうございます」
「だからといって奴隷の折檻に手は抜かないからな」
「……」
詩織は、別に簿記の資格などは持っていない。
だが、さまざまな会社用のプログラムを開発する過程で、簿記をマスターしてしまった。
もし今、簿記検定を受けたとしたら、満点で合格するであろう。
詩織は、会社のデータを見て、疑問なところを勝呂祐樹に質問した。
勝呂祐樹は、四つん這いになったまま、なにも見ないで答えた。
もし答えられなければ、女王さまに痛めつけられるのだ。
必死にならざるを得ない。
元々、勝呂祐樹は、いいかげんな人間であった。
詩織を乱暴するほどのワルだったのだ。
だが、詩織の奴隷になって真人間(?)になった。
会社の経営についても、社長以上に精通した。
なにしろ、詩織の質問に「分かりません」と言おうものなら、女王さまのムチが飛んでくるのだ。
彼も、簿記検定を受ければ合格するレベルに達したのである。
詩織は、この質疑応答で会社の効率化を工夫しているのであった。
「あれ」
詩織が首を傾げた。
「ここ、おかしくないか?」
「試供品の輸入の項ですか?」
「うん」
「やはり……そう思いますか」
「てめぇ、少しは分かるようになったな」
「ありがとうございます」
「だからといって奴隷の折檻に手は抜かないからな」
「……」
「ここんとこ、こっちの数字と比べると……」
そのとき、詩織のスマホが鳴った。
「はい?」
「新田さんの奥さまですか?」
「そうですけど。あなたは?」
「ISHの者です」
ISHとは、詩織の夫が勤めている会社である。
「主人に何か?」
「実は……」
今朝起きたときから、詩織はロンドンにいる夫の新田卓也のことが、いつも以上に思い出されていた。
彼とのエッチを思い出してオ満湖が濡れていたのだ。
その場でオナニーしてもよかった。
だが、今日は奴隷を虐める日である。
奴隷にオ満湖を舐めさせよう、と思っていたのだ。
だが、電話でエロい感情は吹っ飛んでしまった。
(続く)
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