詩織の冒険・リボーン-第3話 2530文字 キラ琥珀

詩織の冒険・リボーン-第3話

最愛の夫が先立ってしまった。残りの人生を夫なしで生きなければならない。出来るのか? 生まれ変わるしかないのだけれど……。

作家名:キラ琥珀
文字数:約2530文字(第3話)
管理番号:k111

第3話

夫の会社からの電話の後のことは、詩織はよく覚えている。
これからも絶対に忘れることはないであろう。
だが同時にそれは、現実とは思えない、夢の中のようなことであった。
その電話は、次の声で始まった。

「新田さんの奥さまですか?」
そして詩織が答えたのである。
「そうですけど。あなたは?」
「ISHの者です」

ISHとは、詩織の夫が勤めている会社である。
「主人に何か?」
「実は、ご主人が亡くなりまして……」
「え?」

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「……それで……」
詩織は驚いた。
だが、瞬時に気がついた。
(この電話、何かの詐欺ではないのか?)

詩織は、相手が話そうとしているのをさえぎった。
「ちょっと待って。あなた、誰?」
「あっ、失礼しました。ISHの安岡です」
「銀座の本社ビルから電話しているの?」

「銀座? 違いますよ。新宿の本部です。本部で仕事をしていて電話を受けまして……」
「ちょっと待って。リカーシブを書くのには何を使う?」
「何でそんな質問を? あっ、分かりました、これイタズラ電話だと思っているのですね」

「そうよ、こちらからかけなおすわ」
詩織は電話を切った。
ISHの、公表されている代表番号ではない、社内連絡用の番号に電話した。
電話から聞こえてきたのは、同じ声であった。

「これで信用していただけますか?」
「分かったわ。それで、どういうこと?」
「ロンドンから、ご主人が亡くなった、という連絡が入ったのです……」
詩織は、心臓がドキドキしているのが分かった。

「……事故、ということなのですが、詳しいことは分かりません。ともかくも至急、ロンドンへ行っていただきます」
「パスポートならあるわ。すぐ家に帰る」
「家に帰る? 今、どちらですか?」

「渋谷」
「車ですか?」
「電車」
「それならお迎えにまいります。日曜ですから、車の方が早いですよ」

「そうね」
「それでパスポートを持ったら、羽田までお送りします」
「都合のよい飛行機があるかしら?」
「社のビジネスジェットを使います。この電話を切ったら、すぐに社長に連絡して許可を取ります」

さすがにISHの社員である。
切れるのであった。
こうして30分後には空の上にいた。
ロンドンまでの13時間、詩織は、目の前の空間をただ見ているだけであった。

詳しい情報が入って来た。
ロンドンの地下鉄の駅で、うっかり転倒して首の骨を折って即死した、ということだ。
ロンドンのISH支社がこのことを知り、急遽、日本の本社に連絡したのである。
(ウソだろう……)

詩織は、窓から外を見た。
暗闇で何も見えない。
窓ガラスに虚ろな顔だけが映っている。
(ウソだろう……)

ロンドンの大学病院で遺体と対面し、ウソでないことが分かった。
だが、実感が湧かない。
警察との応対、日本大使館との連絡、遺体の日本への搬送手続きはISHの社員がやってくれた。

詩織は、ただ見ているだけであった。
日本へ戻り、ISHの社員が葬儀の手配をしてくれた。
茜が丘市の近くの寺で葬式が行われた。

すべてが終わり、タワーマンションの居間に、遺骨と夫の笑っている写真が置かれた。
窓の外には富士山のきれいな姿がある。
その富士山を見て、詩織は泣いた。
いつまでもいつまでも泣き続けた。

* * *

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それから1年が過ぎた。
あの日と同じであった。
朝起きてカーテンを開けると、外は白一色なのである。
陰鬱な気持ちである。

(1年前の運命の日にも富士山は見えなかったな)
机の上の写真の中で夫が笑っている。
その隣には、四角い箱に入った夫がいる。
夫が死んでから1年――。

詩織は、夫の死に関係するいくつかの問題を解決してきた。
先ずは、死亡に関する事務手続き。
これは簡単であった。
遺産相続に関する手続き。

これについてはISHの弁護士がアドバイスしてくれた。
今後の生活費。
これは問題がなかった。
生命保険が入り、会社からは退職金がたっぷりと出たのである。

タワーマンションのローンは終わらせることが出来た。
しかも、大化メディカル産業で〈情報管理コンサルタント〉をしている。
この給料だけでも生活は出来た。
必要なら、どこかへ再就職すればよい。

詩織のスキルがあれば、いつでも再就職は可能だ。
しかしながら、詩織の〈理系スキル〉では解決不能、と思われる問題があった。
墓地の問題である。
夫の新田卓也の実家は長野であった。

松本市の浅間温泉で旅館を経営しているのだ。
彼はそこの三男であった。
新田家としては、先祖代々の墓地に卓也を葬りたいであろう。

だがそれは、詩織にとっては夫との絆を断ち切られるようなものであった。
新田卓也の母親が冷徹に言うかもしれない。
「詩織さんはまだ若いのだから、息子にこだわらなくていいのよ。好きに生きてちょうだい」

そして、詩織の肉体を見ながらつけ加えるであろう。
「その身体では一人寝に耐えられないわよね。これから生涯、我慢することないわ」
こういう言葉への返答は〈理系スキル〉では無理である。
〈文系心理小説〉の世界なのだ。

陰鬱な気持ちを振り払い、洗顔をし、軽く朝食を取って、それから掃除をした。
今日は、一周忌の法要で義母が来る予定なのである。
2週間前、義母から連絡があった。

「一周忌の法要はいつやるの?」
詩織は日時を伝えて、そしてつけ加えた。
「簡単にやる予定です。お坊さんに来てもらってお経をあげてもらうだけにします」
「それがいいわね。私も出るわ」

実の母親が出席すると言うのである。
断るわけにもいかない。
義母が続けた。
「一周忌で一区切り。ねえ、一泊くらいでどこかへ行かない? 気分転換よ」

「はあ……」
「いいわね。じゃぁ、決まり」
義母にはワンマンのところがある。
自分で思いついたことを即断即決し、それを相手に押しつけるのだ。

この性向は詩織にもある。
性格が似ている、ということではつき合いやすい人物ではある。
だが、夫の母親、つまり義母、ということではやはり煙たい存在ではあるのだ。

詩織は、義母の言った一言が気になった。
〈一周忌で一区切り〉
これは、言外に、息子を実家の墓に入れる、という意味なのかもしれない。
つまり……、

「詩織さんはまだ若いのだから、息子にこだわらなくていいのよ。好きに生きてちょうだい」
ということなのだ。
詩織は、こういうことを考えながら掃除をし、義母と僧侶を迎える準備をした。
そのとき電話が鳴った。

(続く)

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