詩織の冒険・リボーン-第4話
最愛の夫が先立ってしまった。残りの人生を夫なしで生きなければならない。出来るのか? 生まれ変わるしかないのだけれど……。
作家名:キラ琥珀
文字数:約2200文字(第4話)
管理番号:k111
第4話
朝早くからの電話である。
しかも、ちょうど夫の一周忌の日だ。
詩織はドキリとした。
詩織は理系の人間であり、占いとかスピリチュアルなどは信じていない。
だが、運命の日に胸騒ぎがあったのは事実なのだ。
虫の知らせ――。
一周忌の日の朝に電話――。
まさか田舎の両親が……。
それとも義母に何かが起きたのか?
不安の気持ちで受話器を取った。
「はい?」
「あのう……、勝呂です。大化メディカル産業の……」
「なんだ、あんたか」
詩織はほっとした。
葬儀のゴタゴタが終わってから、大化メディカル産業の仕事は続けていた。
だが、勝呂祐樹の奴隷折檻はしていなかった。
大化メディカル産業の社内で顔を合わせたとき、
「おい、今日、折檻してやろうか?」
あるいは、
「勝呂く~ん、明日、デートするぅ?」
などとからかうことはあった。
その都度、勝呂祐樹は震え上がっていた。
だが、実際にはなにもやらなかったのだ。
身近で人死にがあった後では、ムチを取る気にはなれなかったのである。
電話の向こうで勝呂祐樹が言った。
「今日は、あれから一年ですよね。一周忌。あらためてお悔やみ申し上げます」
「ありがとう」
詩織は、素直に感謝した。
「でも、朝早くから、何の用?」
「すみません。実は、あの日、女王さまが、試供品の項のところで首を傾げていましたよね」
「うん。あの件は解決したろう?」
夫が事故で死亡した、という連絡を受けたとき、詩織は勝呂祐樹の奴隷折檻をし、大化メディカル産業の帳簿を調べていた。
そして、帳簿で矛盾点を見つけたのだ。
その時は、夫の死亡、ということで慌てており、矛盾点のことはそのままになってしまった。
葬儀のことが一段落して大化メディカル産業へ行った時、勝呂祐樹が報告した。
「あの矛盾点は解決しました」
「どういうことだったの?」
「試供品のコード名を別々にしていたのです」
「別々?」
「コード名の〈アフロディテ〉と〈ヴィーナス〉です。これ、意味は同じですよね」
「分かる。〈アフロディテ〉はギリシャ神話の女神、〈ヴィーナス〉はローマ神話の女神。実は同じ女神だ」
「だから、同じ薬品なのに、コード名が違うので、違う薬品と思ったのです」
「それで数字が合わなかったのか」
こうして、矛盾点のことは解決し、詩織は忘れていた。
それを、何故、今ごろ……。
しかも、日曜の朝の時間に電話してくるとは……。
「一体どういうことなんだ」
詩織は、少し腹が立った。
奴隷折檻を再開して、ムチで虐めてやるか。
「〈ヴィーナス〉が大変なことでして。FBIが捜査を開始したんです」
「FBI?」
勝呂祐樹は、次のように説明した。
〈アフロディテ〉はアメリカの製薬会社から日本の製薬会社へ送られてきた試供品である。
そして、それが薬の卸をしている大化メディカル産業へも送られたのだ。
ところで、アメリカから出荷するとき、間違って〈ヴィーナス〉が混入していた。
この〈ヴィーナス〉は、ハイレベルの麻薬であった。
アメリカの製薬会社が闇で製造していたのだ。
FBIがそれを内偵しており、試供品として日本へ送られていることも分かった。
FBIは日本の警察にも連絡をした。
そして、つい先ほどFBIの一斉捜査が開始されたのであった。
日本の製薬会社にも警察の捜査が入った。
大化メディカル産業にも警察が来たのであった。
「……というわけで、今、大騒ぎなんですよ」
「おい、勝呂、お前、まさか麻薬の取引をしていたんじゃないだろうな」
「とんでもない」
「しかし、媚薬を使った前科があるからな」
「勘弁してくださいよ」
「それならいいが。二人で矛盾点を見つけたことは話してないな?」
「もちろんです。あの書類は、そもそも私の権限では見られないものですから」
「お前が奴隷であることも話してないな?」
「当り前じゃないですか」
「それならいい。大人しく警察の捜査を見ていればいいさ」
「そうします。ただ、コトが事ですから、いちおうお耳に、と思いまして電話しました」
「感謝する」
詩織は、電話を切ると、ニコニコした。
富士山も見えなくて陰鬱であった気分が晴れたのだ。
FBIに麻薬、なにやら小説みたいで面白いではないか。
詩織は、こういう分野が好きなのである。
対岸の火事だから楽しい。
そうこうしているうちに義母の新田よし子が現れた。
新田よし子は55歳。
熟女の後期に入る年齢だが、旅館の女将という仕事のためであろう、10歳は若く見える。
さすがに肉置きはよく、腰も括れてはいない。
だが、乳房と臀部が大きいため、全体としてはグラマーなプロポーションになっている。
「詩織さん、お元気?」
「元気です。お義母さんは、いかがですか?」
「ピンピンしているわよ。はい、これ、お土産。ワンパターンだけど信州味噌」
「いつもすみません」
「旅行の準備は出来ているわね?」
「はい。でも、どこへ行くのです?」
「うふふ。それは、出かけてからのお楽しみよ。じゃぁ、喪服に着がえるわね」
新田よし子は、裸になった。
熟女の匂いが部屋に充満した。
詩織も喪服を着ながら、義母の肉体を見た。
黒色のブラジャーとパンティが映えている。
大きな乳房が揺れている。
詩織は義母に負い目を感じていたが、唯一、優越感を持つのは乳房であった。
(お義母さんのオッパイは大きい。でも、私のはもっと大きいわよ)
新田よし子は喪服を着た。
さすがは旅館の女将である。
ピシっと和服が決まっている。
美人の熟女が喪服の着物を着ているのだ――。
詩織は、惚れ惚れと見とれていた。
(続く)
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