同窓会が修羅場の始まりだった-第1話
女子大で准教授を務めるひろしは、同窓会で教え子の愛子と15年ぶりに再会する。美しい人妻に変貌していた愛子とひろしは、その夜関係を持つ。二人はその後も密会を続け、その蜜月はやがて修羅場へと化していった。
作家名:.城山アダムス
文字数:約3010文字(第1話)
管理番号:k082
愛子は僕の教え子だ。今年で37歳になる。僕は地元の女子大で心理学の准教授をしている。彼女はその女子大の卒業生だ。
愛子は在学中、女子学生の中で美しさが際立っていた。ミス女子大の候補にも選ばれたほどだ。しかし、控えめな性格の愛子は、ミス女子大の選出を辞退したのだった。
当時、僕は密かに愛子に恋心を抱いていた。彼女が出席する講義が楽しみで仕方なかった。僕の講義を真剣に聴いている愛子の真剣な表情にいつも見とれていた。
愛子と親しくなりたいという気持ちはあったが、愛子ほどの若くて綺麗な女子学生が僕を相手にしてくれるはずもないと、あきらめの気持ちが強かった。僕にとって、愛子は高根の花だった。
それに加えて僕の女子大では、教官が学生と関係を持つことは固く禁じられていた。もし、学生と関係を持ち、そのことが発覚したら厳しい処分を受け、最悪の場合懲戒免職になることもあった。
僕は、愛子への想いをそっと胸の中にしまい込んでいた。また、当時の僕はその大学の教員になったばかりで、研究と講義の準備で忙しく、女性と付き合っている余裕などなかった。
愛子が大学を卒業して15年が過ぎた。この女子大では卒業後15年目の夏休みに同窓会が開かれる。今年は愛子の卒業学年の同窓会だ。15年ぶりに愛子に会える。どんな女性に成長しているだろう。もう結婚して子供もいるかもしれない。15年ぶりに愛子に会えるのが楽しみだった。
同窓会場に入ると、とても華やいだ雰囲気だった。学生時代は初々しい乙女だった卒業生は、すっかり大人の女性に成長していた。その中でとりわけ目を引いたのは、やはり愛子だった。
15年ぶりに会う愛子は美しさに磨きがかかり、凛としたたたずまいの中に妖艶な大人の女の魅力を華やいだ会場に放っていた。
愛子はこの15年間ですっかり大人の女に成長していた。何が愛子をここまで花開かせたのだろう。愛子の身辺にどのような変化があったのだろう。
今日はどうしても愛子に親しく近づきたかった。
「先生、お久しぶりです。」
多くの教え子が、テーブルを立って僕に挨拶をしてくれた。どの教え子たちも、それなりにいい歳を重ね、30代後半の女盛りの魅力を振りまいていた。その中でも愛子の魅力は別格だった。僕は愛子が挨拶に来てくれるのを心待ちにしていた。でも、他の男性教官に囲まれ、なかなか僕の席に来てくれない。おそらく、僕以外の男性教官も愛子の魅力に惹かれているのだろう。
僕はちらちら愛子の方に視線を送った。愛子も僕の視線を感じたらしい。微笑みながら僕に軽く会釈し、こちらに足を向けようとした。その瞬間、アナウンスが会場に響いた。
「ご歓談の途中、誠に申し訳ございません。これから、学長のスピーチがありますので、皆様、席にお着きください。」
愛子はまた僕に軽く会釈して、自分の席に戻ってしまった。それから長々と学長のスピーチは続き、スピーチ終了後、今度は理事長のスピーチと続き、スピーチ終了後間もなく同窓会は閉会となってしまった。
僕は会場の出口で愛子の姿を探した。会場の奥から同級生と歓談しながら歩いて来る愛子を見つけた。愛子も僕に気づき、急ぎ足で近づいてきた。
「先生、お久しぶりです。先ほどは申し訳ありません。ご挨拶に行けずに・・」
「いや、いいんだ。学長のスピーチが長すぎて・・・それにしても、愛子君。久しぶりだね。」
「先生もお変わりありませんね。もうお帰りですか?」
「愛子君は、どうするの?」
「私は、特に予定はありません。2次会はないようなので、このまま電車で帰ろうと思っていたんです。」
「2次会の予定はないの?」
「2次会行きたいですよね。でも、みんな、家庭があるので・・・今日は1次会で終わりなんです。」
「それは残念だね。」
女性は三十代ともなればその多くが子育ての最中で、2次会を開くのはなかなか難しいらしい。僕は、愛子と今夜もっと親しくしたいと思った。このまま別れるのはもったいない。僕はとっさに目の前のタクシーを呼び止めた。
「電車で帰るんだね。駅まで送ろう。さあ、タクシーに乗って。」
「でも・・・友達が・・」
愛子は先ほどまで一緒にいた同級生にまだ挨拶もせず別れるのが気になったのだろう。周りをきょろきょろ見まわしていたが、すでに同級生の姿はなかった。
「みんなそれぞれ帰ったみたいだ。さあ、タクシーが待ってるよ。」
強引に愛子をタクシーに誘った。愛子もしかたないなという表情でタクシーに乗り込んで来た。タクシーの後部座席で、愛子と二人っきりになった。愛子の学生時代から現在までを通して、二人っきりになったのは初めてだ。僕の心は弾んだ。
タクシーの中で僕たちは愛子の学生時代の話で盛り上がった。しかし、駅までの時間はあっという間に過ぎ、間もなく駅に着いてしまう。もっと愛子と一緒にいたかった。
・・・よし、思い切って誘ってみよう・・・
僕はその日宿泊するホテルのラウンジに誘おうと考えた。断られるかもしれない。でも、勇気を出して誘わなかったら、愛子とこのまま駅で別れてしまうことになる。
「愛子君。これから2次会に行かないか?」
「え?2次会ですか?2次会はなかったんじゃ・・・」
「僕と二人で2次会をしよう。」
「二人で・・・ですか?」
愛子はきょとんとしていた。
「僕の泊まっているホテルに洒落たラウンジがあるんだ。そこで昔話でもしよう。」
愛子は一瞬戸惑っていたが、
「ホテルのラウンジなんて、もう何年も行ったことないな。行ってみたいな。」
思いがけなく僕の誘いに乗って来た。僕は年甲斐もなく心臓が高鳴っていた。こんなに心がときめくのは何年ぶりだろう。
「運転手さん、グランドホテルに向かってください。」
タクシーは、ホテルに向かってハンドルを切った。
ホテルに着くと、ロビーを通ってエレベーターに乗った。エレベーターの中で愛子と視線が合った。愛子は、はにかむように微笑んだ。
ラウンジに入ると、愛子を窓側の夜景の見える席にエスコートした。
「わあ、夜景が素敵。」
愛子は広い窓の外に広がる夜景が気に入ったようだ。
二人でワインを飲みながら語り合った。愛子の学生時代の思い出話に花が咲いた。しかし、いつのまにか愛子の現在の身の上話が中心になっていた。
大学を卒業して、証券会社に勤めたこと。そこの会社で知り合った男性と結婚し、今は小学生の男の子がいること。結婚したご主人は、仕事が忙しく、帰宅が毎晩遅いこと・・・
愛子は自分の身の上を淡々と語ってくれた。でもその表情は少し寂しげだった。その寂しげな表情の奥にある愛子の今の心の中を覗いてみたかった。
「愛子君。どことなく表情が寂しげだね。何か悩みでもあるのかな。もしよかったら聞かせてくれないかな?」
愛子はうつむきながら、じっとグラスに残ったワインを見つめていた。そして、ワインを一気に飲み干した。
「主人とうまくいっていないんです。」
小さな声でそうつぶやくと、フーッとため息をついた。それから、結婚して子供ができた後、夫は帰りが毎晩遅くなり家庭をかえりみなくなったこと。いつの間にか、お互いの心に隙間ができ、家庭ではほとんど会話も無くなったこと。離婚も考えているが、専業主婦の愛子は子供を養育していく自信がなく、仕方なく夫と一緒に生活していること・・・・。
愛子は、はじめのうちは淡々と語っていたが、急に感極まったのか、目に涙を浮かべていた。
「先生、ごめんなさい。こんな話しちゃって。」
(続く)
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