闇の男-最終話 4240文字 バロン椿

闇の男-第23話

日本の夜の世界を支配する男、武藤甚一(じんいち)と、それに立ち向かう元社会部記者、「ハイエナ」こと田村編集長らとの戦いを描く、官能サスペンス長編。

作家名:バロン椿
文字数:約4240文字(第23話)
管理番号:k077

狭まった逃走ルート

「舞鶴港で事故発生!」、そして、「皆川グループ、一斉逮捕!」の情報はすぐさま横田副署長と田村にも連絡が入った。
「村ちゃん、残念だが」
「ああ、分かっているよ。でも、これで奴らは空港からしか行けなくなった」
「西は神戸の親分との関係から使わないだろう。札幌や愛知はまずないだろう。残るは成田か、羽田か、どちらかだ」

「俺は羽田だと思う。プライドの高い武藤だ。海外に行くならコソコソしないで、いつもの通り、羽田を使うと睨んでいる」
受話器を握る横田副署長も同じ考えだった。
「それが妥当だろう。よし、成田は千葉県警に任せ、私たちは羽田に集中する」
「横ちゃん、頼むぜ。これを逃すと、橋本世津子さんは手の届かないところに行ってしまう。最後のチャンスだ」

「ああ、分かっている。絶対に助け出す。そして、今度こそ、武藤をとっ捕まえてやる」
翌日、「村ちゃん、許可が出たよ」と朝一番に横田副署長から田村に電話が入った。
難航していた空港内の立ち入り制限区域である出国審査後のエリアへの臨時の入場許可書の発行は、この舞鶴港での大捕り物の成果を評価した警察幹部が自ら各部署に働きかけ、特別に認められたとのことだった。

セクシーショーツ一覧01

「横ちゃん、助かるよ。ありがとう」
「いや、それより条件だが、許可証は各社1名だけ。カメラもメモも持たないこと、武藤を見つけたら貸与した携帯で位置を知らせること、これだ。守ってくれるな、いいな?」
「分かった。俺から徹底させるよ」

この警察とマスコミの共同監視体制に応募してきたのは、当然、武藤の顔を見たことがある者に限られるから、若手記者ではなく、マスコミ各社のベテラン記者や編集長クラスの人間だった。
「田村さん?ああ、俺だよ。今回の件、俺が行くから」
「うちは編集長が行くって。村さん、年寄りをよろしく」

彼らにとってはメモなんか取らなくたって、出来事を正確に記録できる。それに誰もが武藤に何らかの妨害を受けたことがあるから、今度こそ武藤を捕まえてやろうと燃えている者ばかりだ。

さっそく、田村もその許可書を付け、出国審査後のエリア内に行ってみると、「やあ!」とあちらこちらから顔見知りの記者、編集長たちが次々に片手を上げて合図を送ってきた。
武藤逮捕に燃えるのは分かるが、「しょうがねえなあ、これじゃあバレちゃうじゃねえか」と田村は苦笑いした。

武藤、現わる!

2日後、空港の出発ロビー入口に2台の車が到着した。
先頭の黒塗りのセダンには武藤と小池貞夫、それにボディガードの1名と運転手の計4名、2台目のワンボックスには三郎と世津子、スタイリスト、そして監視役の1名と運転手の計5名が乗っていた。

これまでは武藤が海外に出掛ける時には政治家や財界人が見送りに来ていることが多かったのだが、誰もいない。
それどころか、「ちょっと様子を見てきます」と小池貞夫が事前にロビーを確認しなくてはいけない、さびしい出発となっていた。
警察は勿論、その様子を捉え、張り込んでいた刑事が「只今、武藤らしき一行、到着しました」とマイクロ無線機で知らせてきたが、彼を逮捕できる証拠を持っていないから、任意で事情聴取する機会がくるまで、隠れて監視する方針だった。

「大丈夫です。うろちょろしている奴はいません」
ロビー内の様子を探りに行った小池貞夫が戻ってきた。
「そうか」と一言。小池がドアを開け、武藤はセダンを降りて、ロビーに入った。
そこは確かに出国ロビー独特の緊張感はあるものの、多数の警察官が張り込んでいる様子も見えない。

テディプレイスーツ一覧01

航空会社のチェックイン、手荷物検査、出国審査も問題なく済ませ、ボディガードに守られ、武藤は小池らと共に搭乗待ちロビーのラウンジに腰を下ろした。
「ご苦労。後は飛行機に乗るだけだ。一杯飲んでもいいぞ」

「いえ、自分は結構です」
「そうか。じゃあ、水割りを一つ、頼む」
武藤はもう高跳びできるものと安心していた。

誤算

その頃、世津子は監視役の男に促され、武藤とは別の場所で出国審査の列に並んでいたが、海外に連れ出される恐怖で緊張し、異様なほどに汗をかいていた。
「おい、どうしたんだ?」
「え、ええ、ちょっと緊張してるので」

額や首筋を流れる汗は拭っても拭っても出てくる。
しかも、その汗は自分でも嫌になる酢が鼻を付くような臭いー覚せい剤常用者の特有の汗の臭いーがする。
このままでは出国カウンターで直ぐに分かってしまう。

慌てだした監視役の男が「コロンはないのか、コロンは?」とスタイリストにせっつき、彼女は「は、はい、これ」とバッグから出そうとしたが、彼女も緊張している。
ビンを掴み損ね、見かねた三郎が「貸しな」とバッグから取り出し、シューと一吹きしたが、近くにいた観光客たちは「うるさいわね、あの人たち」と眉を顰めていた。

これ以上騒ぎを大きくして、先生の耳に入ったら……焦った監視役の男が「暑いならジャケットを脱げよ」と襟を引っ張ったが、これが誤算だった。
世津子のブラウスは汗で張り付き、肌に彫られた般若の刺青がくっきりと映っている。
それを見て、「な、なによ、あれ」、「おい、やばいんじゃないか」と後ろに並んでいた人たちが騒ぎ出した。

(今よ、今しかないわ……)
世津子は「助けて、助けて下さい!」と列を飛び出し、柵を越えて、警備の係員のところに向かって駆けだした。
「ちくしょう、あいつ」と監視の男も柵を越えたが、「やめろよ!」と体をぶつけた若者がいた。
「邪魔するな、バカ野郎!」と監視の男はその若者に殴りかかったが、後は群集心理、「あの人を助けろ!」と周りの者が取り囲み、何も出来なくなってしまった。

三郎とスタイリストは「俺は関係ねえ!」、「私は違いますよ」と逃げ出そうとしたが、出国審査の列は柵で仕切られているので、たちまち行き場がなくなってしまう。
そこに騒ぎを聞きつけた警察官たちが飛んで来て、彼らは取り押さえられてしまった。
悪党たちにとって、世津子を脱げ出さぬよう、薬漬けにしたことが思わぬ誤算となってしまった。

ランジェリーブランドのモンシェリ一覧02

武藤を炙り出せ!

「橋本世津子と思われる女性の身柄を確保!」
「近くに武藤らもいるものと思われる。絶対に見逃すな!」
警察官からの報告、それに対する本部からの指示が警察無線で飛び交い、それは田村たちマスコミ軍団にも貸与されたレシーバーで聞こえていた。

「おい、武藤が来ているぞ!」
「よし、お前はそちらから回れ、俺はこっちから回る」
「了解!」
警察もマスコミも一斉に動き出した。

その騒ぎは武藤らにも聞こえていた。
「先生、ここはやばいので移りましょう」
「うん」
ボディガードとともに武藤は他の客に紛れ込んで逃げようとしたが、そこに奇策に打って出た男がいた。
田村編集長である。

彼は手提げ袋からハンディマイクを取り出すと、こうアナウンスし始めた。
「みなさん、私は週刊スクープの編集長、田村です。悪党の武藤の記事を書いた田村です。現在、その武藤甚一がこの空港内に潜んでいます」
搭乗待ちロビーは騒然となったが、田村はハンディマイクのボリュームを一段上げた。

「しかし、心配いりませんよ。このエリアには武器は持ち込めません。悪党の武藤たちも丸腰です。それに100人以上の警察官が配置されていますからご安心ください。いいですか、みなさん、武藤じゃない人はその場に座って下さい。」
皆が慌ててその場に座り込む中、田村の挑発に煽られ、ボディガードがいきり立ってしまった。

「あの野郎!」
「あっ、バカ!座れ!」
武藤と小池が男の上着の裾を引っ張ったが、後の祭りだった。
張り込んでいた記者がそれを見つけ、直ちに携帯電話の一斉通報で関係者全員に発信した。

「武藤を発見。直ちに参集せよ!」
逃げ場を失った武藤と小池、そしてボディガードを複数の警察官が取り押さえにかかったが、それを取り囲んだマスコミ連中の中には、これまでの恨みを晴らそうと武藤に蹴りを入れる者もいた。

「みなさん、これが悪党の武藤甚一です。とんでもない悪党です。どうぞ写真をお撮り下さい」
「くそ!」
田村が煽り立て、それを怖い顔で睨みつける武藤、警察官たちもそれに気を取られている内に、こっそりと武藤の背後に回り、ポケットに白い粉の袋を入れた男がいた。
根岸美智代と川島雄介を救い出したエロ体験ルポの第一人者、秋山だった。

「お土産だよ」
彼は耳元でそう囁くと、武藤の尻を思いっきり蹴飛ばし、人混みに消えていった。

悲しい結末

「田村さんよ、あのハンディマイクには参ったな」
「俺も驚いたよ。」
「えっ、そうかな。俺が持ち込み禁止と伝えた品物の中には入っていないよ」
「まったく、あんたには敵わないよ。〝ハイエナ〟田村さん」

「ははは、まだ〝ハイエナ〟なんてあだ名を覚えていてくれたんだ」
「あたりまえでしょう、あなたは我々の英雄だからさ」
マスコミ陣営の酒盛りは盛り上がっていたが、田村の胸元でブルブルと携帯電話が震えだした。

「あ、田村ちゃん?」
「なんだ、秋山じゃないか。どこにいるんだ?」
「橋本誠之助のとこだ」
「まさか」
「そうだ、まさかだよ。午後4時少し前だ。アトリエの鴨居にロープを掛けて首を括っているのが発見された」

「そうか」
「生きていられないだろう。自分が川島雄介を町田に売り渡して、それを探しにいった娘の橋本世津子は全身に刺青を彫られてしまったんだから」
修羅場を幾度も経験してきた田村と秋山だが、今回の事件は極めて後味が悪いものとなった。

「苦い酒だな」
「ああ、そうだ。俺たち社会部記者に旨い酒などない」
「まあ、それもそうだな」
電話の向こうで秋山がふぅーと息を吐くのが聞こえた。

「それはそうと、秋山、横ちゃんから聞かれたんだが、武藤の上着に入ってた白い粉、あれはどこで仕入れたんだ?」
「えっ、何だ、その白い粉って?お菓子の砂糖か?」
「あ、いや塩かな。とても旨かったと言われたんで、きっと関西の隠し味かと思ってな、ははは」
「関西の隠し味?さすが田村さん、グルメだね」

電話の向こうで秋山が笑っていた。
(神戸の親分だろうが、それは言えないだろうな)
「まあ、どこでもいいが、いい土産をつけてくれたって、横ちゃんがお礼を言ってたよ」
「へへ、俺も横田さんから褒められたか。まあ、それじゃあ、俺も引き上げるか」

「こっちに来るのか?」
「俺には別のところがあるさ、しっぽりと過ごせる場所がさ」
「そうか、それじゃあ元気でな」
「うん、あんたもな」

電話を終えた田村はビールを飲み干したが、熱燗が欲しくなった。
外はすっかり冬支度が始まっていた。

(終わり)

※本サイト内の全てのページの画像および文章の無断複製・無断転載・無断引用などは固くお断りします。
リンクは基本的に自由にしていただいて結構です。

▼セクシーランジェリー通販サイト
インナージュエリー
ベビードール
セクシーショーツ
セクシーブラ&ショーツ
セクシーコスプレ
メンズパンツ
セクシーテディ
網タイツ・ストッキング
ボディストッキング
ガーターベルト
無料で読める官能小説一覧

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

コメントの入力は終了しました。