セックスフレンズ-第1話 3290文字 ステファニー

セックスフレンズ-第1話

謎の美青年レオンを取り巻く女たちの物語。

作家名:ステファニー
文字数:約3290文字(第1話)
管理番号:k127

東京・上野駅から山手線でひと駅先、鶯谷。内側は江戸の鬼門として知られ、数多くの寺院と墓地が佇む。しかし外側は…。
打って変わって華やかな外観の建物が立ち並ぶ。夜になるとネオンが灯り、甘い眼をした男女が中へと消えていく。
ここは性と死の輪舞曲が交錯する街。
阿久根美咲もそんな魅力に取り憑かれた一人だ。

「あっ、いっ、………いいっ、つっ、続けてっ…」
激しく腰を揺らされた美咲は、広げていた両足をぎゅっと閉じ、レオンの腰に巻き付けた。
そしてそのまま膣をグッと締めた。
「ふぅ…ふぅ……、イッ…イッ……」
美咲の瞳をじっと見つめ、レオンは小さく囁く。

「感じてるのね、レオン…」
美咲は脚だけでなく、手もレオンの肩に回し、全身で抱き締めた。
こんなに気持ちのいいセックスを提供してくれるセフレは他にいなかった。レオンと出会ってから、美咲は他の男に抱かれる気が起きない。連絡を取っていた数名はみな切ってしまった。

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『今日もよかったよ。ありがとね、レオン』
オーガニズムに達し、レオンのモノが美咲から出た後、美咲はレオンにこう送信した。
『ボクもだよ。アヤちゃん』
レオンはすぐに返信してきた。

二人は見つめ合ってクスクス笑った。そして再び抱き合った。レオンは美咲の豊満な乳房を鷲掴みする。
嗚呼、本当に素晴らしい男に私は出逢えた。美咲はレオンに抱かれる度、そう感じてしまう。 本名は明かさず、互いの素性も詮索せず、ただただひたすらに肉体だけを求め合う。これぞ美咲が追い求めてきた男女の有り様だった。それを叶えてくれたのが、美しき音を知らぬ青年、レオンだった。

嗚呼、もうとろけそう…。
レオンの舌が美咲の歯の間を通過した時、美咲はまた胸が火照った。

渋谷のディズニーストア入口に、スマホを片手に周囲を見回している若い女性がいた。
『ディズニーストアの入口に立ってるよ。ピンクのダッフルコートが私』
『じゃあ、見つけた。すぐ真後ろにボクはいるよ』
メッセージを読んだ山内舞は振り返った。そこにはにこやかに手を振る背の高い清潔感のある青年がいた。

『あなたがレオン?』
『うん。そうだよ。よろしくね、舞ちゃん』
舞は舞い上がった。優しそうな顔立ちに、長い手足。まるでタレントのような容姿のレオンにひと目で心惹かれたのだ。
『舞です。よろしく♡』

この上ない笑顔を浮かべた舞は、はしゃいだメールを送信してきた。そして今出会ったばかりだというのに、舞はレオンの腕を取り、しがみついてきた。
「早速、お茶行こ」

声はおぼろげにしか聞こえない。だがレオンは舞がこう言ったのを口の動きで理解した。 スクランブル交差点に向かって二人は歩き出した。舞はすっかりレオンになつき、身を委ねている。レオンも肩を貸し、舞を支えた。
109 の近くにある流行りの喫茶店に入り、二人は向かい合って座った。

『レオンって、韓流アイドルの誰かに似てる気がする』
席に着くなり、舞はスマホをいじり、レオンの液晶画面を光らせた。
『それ、よく言われる』
『やっぱり?マジイケメンで嬉しいんだけどー!』
『舞ちゃんも可愛いよ。会えてよかった』

舞は頬を赤らめた。キャー、と叫んでいるようだ。レオンはふふっ、と笑ってしまった。
『でもさ、なんでこんなかっこいいのに、あんなサイトに登録してるの?』
舞が発注したクリームソーダが運ばれてきた。
『だってセックスだけがボクがみんなと同等になれる手段なんだもん』

レオンの頼んだウィンナーコーヒーを置く店員の腕が、二人を一瞬遮った。少し悲しそうな表情を舞はしていた。
『なんでそんなこと言うの?』
『ボクの耳はこんなだから、ボクはどうしたっていつも同情の的。だからいつも同じ舞台に立てない。でもセックスしてる時だけは違う。同じ人間として、対等に扱ってもらえるから』
『そっか。ごめんね。変なこと聞いちゃって』

『全然。舞ちゃんこそ、まだ若くてカワイイのに、いいの?』
窓の外に少し目をやり、舞はスマホを打ち出した。
『うん。私、前に付き合ってた彼氏から暴力振るわれてね。恋愛が怖くなっちゃった。破れかぶれになって、あのサイトに登録して。で、最初に会ったのがレオンだよ』

暴力、か。今の舞を見ていると、その男がどうしてそんな暴挙に出てしまったのか、わかる気がした。数多の傷をこれまでに負ってきたレオンは、同じ行動を取ることは断じてないのだが…。
『そっか。それは大変だったね。こんなに可愛い舞ちゃんにそんなことするなんてひどい男だね』
クリームソーダを吸う舞のストローが緑で、それがやけに目についた。

『うん。でももう大丈夫。だってレオンに出逢えたんだもん』
またしてもレオンは笑った。
『そっか。それはよかった。舞ちゃんは音大だっけ?』
『そうだよ。声楽やってる。でもレオンに聴かせられなくて残念だな』
『ごめんね。舞ちゃんは都内の大学?』

『うん。日本芸術大学だよ』
『マジ?奇遇だね。ボクも日芸。美術学科だけどね』
『うっそー!運命感じちゃうな』
二人は目を合わせて微笑み合った。
『レオンは全然聞こえない感じなの?』

『ほぼね。ぼんやりと大きい音だけ遠く聞こえてる。でも生まれた時からずっとこうだから、読唇術は覚えたよね』
『じゃあ、話してることはわかるの?』
『だいたいね。だから遠慮しないで話してもいいよ』
「へぇー、すごい」、と舞は言っていた。

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『でも、私、レオンといる時はチャット筆談で全然 OK だよ』
『ありがとう』
手にしていたコーヒーカップをレオンはソーサーに戻した。いつの間にか中身は空っぽだ。

見れば舞のグラスも中が透けている。
『そろそろ行こうか』
『わかった』
二人はコートを着て、立ち上がった。

リス、サル、ウサギにカエル、ウシ、ブタまで、ありとあらゆる動物たちがコミカルに、シュールに、また少しシニカルに、擬人化されている。「アニマルタウンズ」の仲間たちだ。
「資料、目通し終わったか?」
編集長の清水が美咲の向かいに腰を下ろした。

「はい、だいたい」
無造作に広げてしまった資料の束を美咲は慌ててまとめた。
「気にするな。その資料はやるから」
「すいません」
美咲は手を止めて清水と向かい合った。

「それで引き受けてくれるか?」
「はい、ご用命とあらば…」
本心を言えばイヤだった。だが、美咲はこの編集部内で一番の下っ端。トップ直々の命令に背けるわけもない。
「わかった。かなり茨の道だと思うが、よろしく頼む。それから悪いが、この件に関しては一人でかかってもらいたい。何かあった際は私に直に相談に来ていいから」

馬鹿な、と美咲は言葉が出かかってそれを飲み込んだ。
「ごめんな。今ちょうどみんなかかっている案件があって、この件について人を割く余裕がないんだ。その代わり、時間ならいくらかかっても構わない。聞き込みで不安がある相手なら私が必ず同行する。だから頼む」

それって私は窓際族扱いって意味と捉えていいんですかね、と言いかかって美咲は止めた。
「わかりました。できる限り頑張ってみます」
「ありがとう。よろしくな」
清水が席を立ち、デスクへと戻る。美咲はしばらく呆然としてしまった。
人気イラストレーター、小鳩レイの正体に迫れ。

これが美咲に与えられた指令だ。
ゲームキャラクター「アニマルタウンズ」の産みの親、小鳩レイは今や日本のみに留まらず、世界中で知らぬ人はいないというほど有名人だ。大手アパレルメーカーがコラボ T シャツを発売すれば、徹夜で行列ができて、即日完売となる。ゲームの新作が出る時も同様だ。玩具、文具、衣料品、日用品、食品に至るまで、至る所に「アニマルタウンズ」の商品は溢れ返り、目にせず眠りにつける日の方が少ないと言えよう。

だが、作者については謎に包まれている。表舞台に姿を現したことが一度もないからだ。 幾度となく受賞経験はあるのだが、代理人を名乗る者しか姿を見せない。それだけでなく、コメントを含めマスコミに声明を表したことすらない。取材も受け付けていない。
これをどうやって探せというのだ。それも一人で。
ましてや美咲はまだ入社二年目だ。週刊誌記者として、まだまだ一人前とも言い難いスキルしかない。
美咲はデスクに戻り、肘をついて頭に手を当てた。

(続く)

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