北陸道ー熱愛ライン-第1話 2120文字 バロン椿

北陸道ー熱愛ライン-第1話

夏休み、高校2年生の高木秀夫は、知り合いから「ちょい手伝うて欲しい」と、お土産店の店番を頼まれた。気が進まないアルバイトだったが、出掛けてみると「社長はん、拭き掃除、終わったけど」と、36歳の熟女、木村美佐江が現れた。
何やら胸が高まるが、狭い町だから仲良くなっても噂になるのも早い。さて、どんなことになるか……

作家名:バロン椿
文字数:約2120文字(第1話)
管理番号:k138

京丹後

京都府京丹後市。日本海に面した網野町は丹後ちりめんの産地として有名だが、メロンやスイカの農産物、そして松葉ガニの水揚げも評判で、近くには夕日ケ浦温泉や木津温泉があることから、夏は海水浴、冬場はその松葉ガニを求め、観光客で賑わう町である。

そんな町に住む高校2年生の高木(たかぎ)秀夫(ひでお)は「ちょい手伝うて欲しい」と、6月末、期末試験を間近に控えた6月末、父の知り合いで、お土産店を経営している小山(こやま)太一(たいち)から頼まれていた。
「もう1軒、観光客向けの店を海岸通りに出すさかい、人手が足らへん。夏休みの間だけでええさかい、やってくれへんか?」と小山のおじは言うが、どうも気が進まなかった。

サッカー部内のゴタゴタで嫌気がさし、部活を辞めたから、時間を持て余していた。でも、どちらかと言うと人見知りするタイプだから、「いらっしゃい」なんて声は掛けられない。出来れば断りたく、「あの、そないな仕事はしたことあらへんのどすけど」と渋ったが、「まあ、いっぺん、遊びに来い」と半ば決まってしまった。

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しかし、買い物から帰ってきた母親は、その話を聞いて、「木村さんよ」と顔をしかめていた。
どうも、土産物店を任せられた木村(きむら)美佐江(みさえ)という女性は「いろいろと噂があるから」ということらしい。細かいことは教えてくれなかったが、福井に嫁に行っていたが、旦那が浮気者で女を作ってしまったので、実家に戻ってきたということらしかった。
最後は父が「小山さんから頼まれた話だ」と言って、渋々了解してくれた。

しかし、その夜、木村美佐江のことで父親に母親が相談しているのを、秀夫は聞いてしまった。
「まあ、なんか仕事でもしいひんと、肩身も狭かろってことで、小山さんが骨を折って、空いてる家作を世話し、店番も任せたってことだ」
「そら分かっていますけど、『だらしない』って、近所の噂ですよ」
「『だらしない』って?」

「男に色目を使うとか」
「本当か?」
「本人はそないな気はあらへん思うんどすけど、『あら、旦那はん』なんて、馴れ馴れしいって……」
「福井に嫁に行っとうたさかい、世慣れしてるのちゃうか」
そういうことは割り引いたとしても、閉鎖的なこの地では、このようなことにいい顔をする人は誰もいない。

ビールを注いだコップを持つ父親の手も止まる。母親もその顔色を窺っていたが、「そうやけど、一旦受けた話を断ったら」と呟くと、「かて、あんさん……」と余計に心配顔になる。
小山さんの顔は潰せないし、かといって、息子に変な影響を与えてはと悩む両親だが、「まあ、いい。小山さんが保証人や」と父親がビールを飲み干すと、「それはそうどすけど」と、なおも拘る母親を「くどいで!」と押し切った。

きれいだけど、暗い

英語はあかんな……期末テストが始まったが、出来は芳しくない。まあ、赤点さえ取らなければいいやと、秀夫は気分転換と称して、海岸通りの土産物店の様子を見に行くと、「よう来た」と開店準備に忙しい小山のおじが笑顔で迎えてくれた。
「狭いけど、お前と木村はんとで頑張れば、直ぐに大きな店になる。期待しているからな、あははは」
小山のおじは、もう勝手にアルバイトすることを決めたように、大きな腹を揺すって笑っていた。

店は、小山のおじの言葉通り、間口二間程(4m弱)で小さいが、奥には休憩用の三畳の座敷と台所が付いており、6月から10月までの観光客向けの店としては十分な広さ。
そこに、「社長はん、拭き掃除、終わったけど」と、ショートカットで、女優の深津絵里さんに似た、口の左にほくろがある、色の白い女性が茶店から出てきた。それが木村美佐江だった。

「おお、ちょうどええ。紹介しとこう。彼が高木秀夫。期末テストが終わったら手伝いに来てくれる」と小山のおじが紹介する間、彼女をじっと見ていると、首筋に流れる汗をタオルで拭う様子は、36歳と聞いていたが、とても若くきれいに感じられた。でも、強い日差しと浜風にさらされ、日焼けして逞しい、ここら辺の女たちを見慣れているから、「よろしゅうお願いします」と頭を下げる姿は、か弱さ、暗さを感じる。

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男に色目を使うと聞いていたから、もっと明るいと思っていた秀夫は、そんな美佐江に少しガッカリしていた。でも、小山のおじが「まあ、仲良くやってくれよ」と言うと、反射的に「はい、一生懸命頑張ります」と答えてしまい、それで決定だった。
その頃、母親は遊びにきた隣の吉井(よしい)妙子(たえこ)から「男出入りが激しくて、旦那も愛想をつかしたそうや」と木村美佐江の良くない噂を聞かされていた。

「へえ、あんなに優しい顔をしとるのになあ」
「顔では判断できんよ。子供も置いて来たった話しや」
「まだ36やろ。どないするつもりやろうか?」
「ええ男を見つけようとしとるんとちゃうか?秀夫ちゃんも気いつけんとあかんよ」
「何を言うとります。あん子はまだ17。おなごのことなんか何も知らん。寝た子を起こすようなことは言わんといて」

母親はそう言ったものの、息子の秀夫は部屋にはエロ雑誌を隠してあるし、インターネットでは女性の全裸を毎日眺めている。そんな息子だから、胸のうちは心配で仕方が無かった。

(続く)

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