現代春画考～仮面の競作-第23話
その話は、日本画の巨匠、河合惣之助の別荘に、悪友の洋画家の巨匠、鈴木芳太郎が遊びに来たことから始まった。
本名なら「巨匠が何をやっているんだ！」と世間がうるさいが、仮名を使えば、何を描いても、とやかく言われない。
だったら、プロのモデルじゃなく、夜の町や、それこそ家政婦まで、これはと思った女を集めろ。春画を描こうじゃないか。
作家名：バロン椿
文字数：約3130文字（第23話）
管理番号：k086
日ロ、美女対決の行方は如何に
３月。辺りには雪が残り、まだまだ寒いが、河合画伯の別荘の中は別世界。暖房の効いたアトリエでは、写生会の準備が進んでいるが、アシスタントたちのＴシャツは早くも汗ばんでいた。
「はい、そこです、いいですよ」
母屋から運び込まれたウォーターベッドがデッサン用の舞台の横に置かれ、その周りを観葉植物で囲み、まるで南国のような雰囲気の特別ステージが作られた。
そこに「コンニチハ！」と、たどたどしい日本語が聞こえてきた。
ナターシャだ。沖縄で白い肌はほんのり赤く日焼けしているが、長い金髪、１８０センチの長身ながら、愛くるしい笑顔。
真っ先に「プリヴィェーット（お帰り）、ナターシャ」と鈴木画伯がロシア語で迎えると、ナターシャは「スズキサン、ダイスキ！」と覚えたての日本語で、ハグしながら挨拶をしてきた。
見ている方が恥ずかしくなるが、画伯はそんなことには全くお構いなく、パーティの席で約束した着物を取り出すと、今度は英語で「This is my present for you」と伝えると、ナターシャも「Thank you so much！」とキスでお返ししている。
（全く、しょうがないなあ……）
岡田は苦笑いしながら、それを見ていたが、やはり、ザミローチカにも宝石箱のようなものを渡していた。
「相変わらずだな」
「ほんと」
振り返ると河合画伯と「お京さん」こと柳京子がいた。彼らもそれを見逃さなかった。
「だから『脱がせ屋』なんて言われるんだ」
「そう、私も脱がされちゃうし」
「あ、そうか。あははは」
河合画伯はお京さんと初対面なのに、もうすっかり打ち解け、友だちのようになっていた。
「さあ、始めようか」
「はい、分かりました」
＊＊＊＊＊
「おいおい。なんだよ、これは？」
いきなりアトリエに流れたのはクラシック音楽。日本画家の河合画伯は演歌一筋なので、アシスタントの方を振り向いたが、鈴木画伯が「いいだろう、これ？ビバルディの『四季』だよ」と絵筆をまるでタクトのように振っていた。
「それは分かっているけれど」
「いいじゃないか、私が好きなんだよ」
好みは人好き好きだが、「どうも合わんな」と河合画伯が苦笑いしているところに、オールヌードになったナターシャが登場し、デッサン用の舞台で立ちポーズをとった。
ツンと上を向いた乳房に括れた腰、そして、股間には髪の毛と同じあれが。
「やっぱり金髪だよ」と吉光が身を乗り出せば、「本物だな」と岡田が頷く。巨匠たちの会話とは違い、マネージャーたちは庶民的。
さっそく、両巨匠は鉛筆を動かし、デッサンを仕上げていく。
「この変わり身の早さは、いつ見ても凄いな」
「本当ですね」
両マナージャーは感心し、続いて、曲が「夜桜お七」に替わると、長い髪を結って簪で留めた浴衣姿のお京さんが現れ、畳で座りポーズをとり、それぞれの個人デッサンは無事に終了した。
そして、いよいよウォーターベッドの特別ステージに舞台は移る。
まず、アシスタントがウォーターベッドの中がよく見えるようにと、両画伯のイーゼルを前に出し、背景には浜辺の景色が映され、ＢＧＭ代りに波の音が流れてきた。
続いて、「よろしいかしら」とお京さんが少し恥ずかしそうに浴衣の帯を解き、衿を抜くようにして肩から後ろに下ろすと、ハラリとそれが足元に滑るように落ちた。お京さんは最初から下着など、身につけてなかった。
モデルの裸は嫌と言うほど見てきた岡田だが、４０代半ばながら、色っぽいレズビアンの裸は興味がある。
「やっぱり黒いよ、真っ黒だよ」
吉光が呟くが、確かにそうだ。それにナターシャとは違い、乳房は形が崩れ少し垂れているし、下腹部はボッコリしているが、それがかえって艶かしく、岡田はペニスが硬くなってきた。
「Beautiful!」
ナターシャが叫ぶと、「へへへ、社交辞令だぜ」と吉光は笑ったが、彼も岡田と同じく股間を尖らせていた。
お京さんが「いらっしゃい」と手を差し出し、ナターシャがベッドに上がると、クニャッと沈むベッドに足元を取られ、「アン……」と１８０センチの大きな体で１６０センチに満たないお京さんを押し倒し、そのまま二人はウォーターベッドの上に転がった。
「Sorry！」
照れ隠しに、ナターシャは笑顔でそう叫んだが、余裕があったのは、そこまでだった。
すぐさま、お京さんがチュッ、チュッ……と唇を合わせ、ナターシャの体を解しにかかる。ナターシャもチュッ、チュッ……と応じ、大きな体でお京さんを包み込むように抱き締めたが、小さなお京さんが伸し掛かるようにして、ナターシャの頭を抱え込むと、舌を挿し込み、上顎を舌先でチロチロと、それから歯茎をツーと舐める。
「あれっていいねえ」
「ははは、吉光さんも？」
「えっ、岡田さんもか。ナターシャは堪らないんじゃないかな」
二人はニヤニヤしていたが、やはり、「ハァァ……」と悩ましい息を漏らしたナターシャは体から力が抜けてしまい、お京さんの手に落ちた。その彼女に、お京さんは攻め手を緩めず、膝を股間に当て、性器の周りにも微妙な刺激を加えている。
「女同士って、あんな風に攻めるのか？」
「いや、こんなの見たの初めてだから」
吉光と岡田の会話は相変わらずだが、その間も両画伯の鉛筆はカサカサと動き、画用紙には二人の姿が浮かび上がってきている。
ベッドの上では体をずらしたお京さんが右手で乳房を揉みながら、反対側の乳首を口に含み、舌先でそれを弄ぶ。しゃぶるでもない、噛むでもない、微妙なタッチを繰り返す。
「ハァァ、ハァァ、アッ、ア、ア……」と喘ぐナターシャの乳首は尖り、お京さんの唾液に濡れてピンク色に輝いている。
「すげえなあ」と吉光は囁くが、隣からガサッと何かを落としたような音が聞こえてきた。見ると、顔を赤らめたナターシャのマネージャー、ザミローチカが慌てて書類を拾い集めている。
「感じているんだな、彼女も」
ニヤッと笑った吉光が「相手してあげたら？」と肘で突ついてきたが、「ダメだよ、うちの先生のお気に入りだから」と岡田は笑い返した。
既にナターシャの肌は淡い桜色に染まり、うっすらと汗が滲んでいるが、その肌の上をお京さんの舌が這い、下腹部へ。
さあ、いよいよとナターシャは待ち望んだが、お京さんはふぅーと性器に息を吹き掛けただけで素通りしてしまった。
「ラーナ！（早く）」とせがむナターシャに、お京さんは「ふふ」と微笑みかけると、膝裏に手を入れて左の太腿を持ち上げ、お尻の割れ目からアナルにかけてたっぷりと舐め回した。
「ハァ、ハア、ハァ、アッ、ア、ア、ア……」
身悶えるナターシャ。そのナターシャにお尻を向けるようにくるっと体を回して跨ったお京さんは右手で反対側の太腿も抱え、マングリ返りの格好にして、ナターシャの性器にしゃぶりついた。
その姿は蛸と海女ではなく、漁師と海女のまぐあいを描いた、葛飾北斎の春画、いや、浮世絵全体でも金字塔と言われる「富久寿楚宇（ふくじゅそう）」の十二枚の一つにそっくりだった。
「おいおい、お京さんは知っているのかい？」
博識な河合画伯はすぐに気がつき、鈴木画伯の方を向いたが、彼はカサカサと鉛筆を動かし、ナターシャの性器を描くのに夢中だった。だが、その絵は、サメの口のようにパックリと開いたナターシャの膣が、そこを覗き込むお京さんを飲み込もうとしているものだった。
「写実を止めたか？ははは、お前も春画が分かってきたな」
ご機嫌な河合画伯の画用紙には、「第二次日露戦争、今度も日本の勝ち！」と言葉が入り、黒髪の女に股間を攻められた金髪の女が海の中に沈んでいく様子が描かれていた。
その絵の予言通り、間もなく、「ワァアアアアアア！！！」と狂ったように身悶えたナターシャは股間から驚く程の水飛沫を噴き上げ、ベッドに沈んだ腰の周りは本当に「水没」してしまった。
（続く）
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