現代春画考~仮面の競作-第9話
その話は、日本画の巨匠、河合惣之助の別荘に、悪友の洋画家の巨匠、鈴木芳太郎が遊びに来たことから始まった。
本名なら「巨匠が何をやっているんだ!」と世間がうるさいが、仮名を使えば、何を描いても、とやかく言われない。
だったら、プロのモデルじゃなく、夜の町や、それこそ家政婦まで、これはと思った女を集ろ。春画を描こうじゃないか。
作家名:バロン椿
文字数:約2330文字(第9話)
管理番号:k086
絵を描くどころではない
アトリエのステージは畳が敷かれ、その上に布団が一組、それを囲むように屏風が立てられ、枕元にはぼんぼりが置かれていた。
和夫も丁髷の鬘を付けているので、セットも江戸時代になっている。
「テーマは奥女中と若侍。和夫君、浴衣は脱いで、屏風に掛けて。幸代さん、ちょっと手伝ってあげて……うん、そう、それでいいよ。肌襦袢はまだ脱がなくていいから」
河合画伯の指示で浴衣を脱いだ和夫、真っ白な晒の越中褌が雰囲気を盛り上げる。
「なるほど。細かいところまで拘っているな」
鈴木画伯は感心していた。
そして、カーテンが閉じられ、アトリエ内は暗く、ぼんぼりの淡い明かりだけ。幸代と和夫は他の人の視線は感じなくなった。
「さあ、始めよう。幸代さん、頼むぞ」
琴の調べが流される中、布団に横たわった幸代が襦袢の裾を捲って、和夫を誘い込む。
「ねえ、私だけに集中して」
「うん」
両手を広げて迎える幸代に和夫は体を重ね、口づけを交わす。軽く、そして、そしてピッタリと唇が合わさり、舌が絡まると、二人は行為に集中し、見られているという警戒感が薄れてきた。
そして、和夫の手が乳房を揉みしだくと、「はあ、はあ、あ、あああ……」と幸代の口がわずかに開いてきた。
「いいなあ」と思わず河合画伯が漏らすと、「うん」と鈴木画伯も頷いていた。
(浴室の時とは違う。こいつ、なかなかやるなあ……)
絵筆も持たずに腕を組む河合画伯は和夫の進歩に驚いていた。
その間にも襦袢が肌蹴け、露わになった乳房に和夫は吸い付く。
「はあ、はあ、はあ、あっ、あ、あああ、いい、いい……」
ごくり……
唾を飲み込む音が聞こえてきた。鈴木画伯だ。すかさず、「おい、絵を描くのを忘れるなよ」と河合画伯のつま先が飛んできたが、河合画伯だって同じようなものだった。二人が腕組みして見つめる中、いよいよ、幸代が和夫の褌を解いた。
「凄いな……」
「ウソでしょう……」
アトリエのあちらこちらから驚きの声があがった。無理もないこと。それは誰のよりも大きく、既に15cmは超えていた。
「凄いな」
「俺のは楊枝みたいなものだ」
「ははは、そうでもないでしょう」
「おい、静かにしろ」
「す、すみません」
河合画伯は絵を描き始めたが、鈴木画伯は一歩前に身を乗り出し、絵を描くどころではなかった。吉光、岡田の両マネージャー、それにアシスタントの女性たちも和夫のペニスに圧倒されていた。
布団の上では、幸代がそれを口に咥え、ジュル、ジュパ、ジュパジュパ、ジュル……と扱き始めると、グイグイッと伸びて、もう口には納まらない。
「あんなの」
「恵美ちゃん、入れてみなよ」
「やだ、壊れちゃう」
アシスタントたちは互いに肘を突き合っていた。
体が何度も入れ替わり、その度に舐める側と舐められる側が入れ替わり、二人の息遣いが荒くなってきた。そしていよいよ挿入。
「はっ、あ、ああ、か、和夫君……」
「幸代さん、ぼ、僕、入れたい」
「来て……」
絵の仕上げに余念の無い河合画伯を除き、アトリエにいる者全員が固唾を飲んで見つめる中、和夫の巨大なペニスが幸代の中に入っていった。
「入っちゃったよ」
「恵美ちゃん、幸代さんって凄いね」
「本当……」
布団の上では和夫が「うっ!」と呻き、ガクッと腰が崩れて幸代の上に重なった。
「逝ったな」
「うん、逝った」
見ていた者たちの口からもため息が漏れていた。
男と女の仲は摩訶不思議
「鈴木、お前もダメだな」
「ははは、あんな凄いチンチンを見て、平気で絵が描けるなんて、俺には信じられねえ」
アトリエから離れた二人は風呂に入っていた。
「実は俺も初めて見た時はびっくりしたよ。こんなだもんな」と河合画伯はタオルで形を作っていた。
「ははは、彫刻家か、お前は」
「似てないか?あはは」
鈴木画伯も両手で顔の汗を拭いながら笑っていた。
「しかし、河合、春画っていうのは、今日みたいな素っ裸はなくて、必ず着物だよな。それに、表情が今一つだな」
「それは、お江戸の昔だって、お上の取り締まりが厳しいからだよ」
「昔も同じか」
「だけど、江戸末期になると、西洋画法を学んだ奴が出てきてな、歌川国芳だったかな、これがいい絵を描いてんだよ」
「そうか、見てみたいな」
「ああ、後で見せてやるよ。俺の部屋にある」
熱い湯に浸かり、汗がたっぷり出てきたところに多恵が呼びに来た。
「先生、お支度が出来ました」
「ああ、ありがとう。今、出るから」
脱衣室には大型扇風機が回っていた。
「いやあ、気持ちいい。暑い季節は風呂がいいなあ」
「ははは、俺の自慢の風呂だ」
二人は甚平に着替えると居間にどっかりと腰を下ろした。
「よし、飲むか」
「ああ、飲もう」
ビールをグイッと一杯飲んだところに、アトリエの片づけを終えた岡田が入ってきた。
「河合先生、お疲れ様でした」
「おお、岡田君、ご苦労様。さあ、飲もう」
「吉光君は?」
「あいつはいい」
鈴木画伯が気を使ったが、河合画伯はあっさりとそう言った。
「なんだ、冷たい奴だな」
「そうじゃない。多恵さん、ほら、さっき風呂場に呼びに来てくれただろう?」
「ああ、多恵さんね」
「あいつは彼女といい仲なんだよ」
「本当か?しかし、お前、多恵さんは60過ぎてんだろう?」
「男と女の仲は摩訶不思議なもんだ。」
河合画伯が鈴木画伯のグラスにビールを注いだ。
「そう言ったって」
「野暮はきらわれるぞ」
「そうか、それにしてもな」
「それにしてもって何だ?」
「いやあ、和夫君の巨根もそうだけど、お前のところは」
「ははは、ブツクサ言わないで、飲もう。なあ、岡田君」
「そうですね、ははは、私、自信が無くなりましたよ」
「えっ、岡田、お前、自信があったのか?」
「いやあ、先生、厳しいなあ」
「ははは、こりゃ愉快だ」
三人はグラスのビールを美味しそうに飲み干した。
(続く)
※本サイト内の全てのページの画像および文章の無断複製・無断転載・無断引用などは固くお断りします。
リンクは基本的に自由にしていただいて結構です。