女豹の如く ファイナル-第4話 2860文字 ステファニー

女豹の如く ファイナル-第4話

二十歳を迎えたひろみに、数々の試練が降りかかる。

作家名:ステファニー
文字数:約2860文字(第4話)
管理番号:k115

「なんですか、それ?」
クックックッ、とアリサは笑った。その声は悪者そのものだった。
「そのうちな」
不気味な何かを感じながらも、ひろみはそれ以上、問うことをしなかった。できなかったと言った方が正しいのかもしれない。

梅雨明けして数日が過ぎた七月の中旬、ひろみにある報せが来た。ヒカルとの再演が決まったとのことである。願ってもなかった吉報に、ひろみの心は弾んだ。まだ自分は神に見捨てられていなかったのだ、と、救われた思いがした。

ホストクラブシンデレラには、結局、ひろみは未だに足を向けていなかった。来店し、お客になった時点で、ひろみは自分が数いるシンデレラのうちの一人になり下がってしまうような気がして、気が向かなかったためだ。

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夢見るシンデレラじゃいられない。私はシンデレラ以上の存在になるんだ。そのために、もう一度、ヒカルと…。ひろみはまだヒカルを失わないで済んだ自分の運命に、感謝すらした。
七月後半の熱帯夜、撮影に向かう一行は、山下の事務所前に集合した。約一年前と同じ顔ぶれである。

「おはよう、凜音さん」
にこやかにヒカルは挨拶してきた。ひろみは私服姿のヒカルを見て安心した。
「おはようございます。ヒカルさん」
今夜のひろみはお洒落をしたつもりだ。チェックのキャミソールワンピースにヒールのあるミュールを合わせた。髪は綺麗に巻いて、緩く低めに纏めた。

「今日は気合い入ってるね」
「はい、久々の撮影ですから」
久々のヒカルとの再演だから、と言いたいところだったが、それはさすがに避けた。車の準備ができた旨を山下から伝えられ、ひろみはヒカルとともにバンの後部座席に乗り込んだ。今回のロケ地は山梨。富士五湖の一つ、河口湖だ。湖畔に佇む温泉旅館が舞台だ。ストーリーは、日本版『人魚姫』。

河口湖の湖底に棲む人魚(ひろみ)が村長(ヒカル)に恋をし、不老不死を捨てることを条件に人間に転生を果たす。但し、性交をすると、泡になって消える、という悲劇である。脚本は当然、最後にひろみが泡(野見によるシャボン玉の演出)と化すオチだ。

夜中の中央道下り車線は、まだ盆前のためスムーズに進み、途中の談合坂SAに寄ったものの、未明には目的地の旅館に到着した。前回同様、ひろみは車中ずっと眠りこけ、旅館の駐車場で山下に起こされるまで意識を失っていた。舞台となる旅館は、なかなか立派な和風建屋をしている。ロビーも広く、和柄の可愛い絨毯が特徴的だ。

「おはようございます。山下様でいらっしゃいますね」
チェックインする間もなく、着物姿の女将が近寄って来た。かなり早朝だというのに化粧をきちんとしている。
「ご案内致します」

女将は野見の機材を載せるための荷物運搬用台車を番頭に用意させた。ひろみとヒカル、及び山下は女将について先に部屋へと向かった。旅館の最上階にある最奥の部屋が目的の場所だった。その扉の重厚さから、部屋の様子が窺えた。

ドアの先からまず飛び込んできたのは、朝日を浴びながら橙に輝く富士の頂であった。四方八方を大きな窓に囲まれたこの部屋は、富士と河口湖が一望できる。一番広い窓の先には、インフィニティのプライベートバスがある。
「すごいね。こんなホテル、初めてだよ」

一般邸宅の居間よりもずっと広い応接間で座布団に座るなり、ヒカルは言った。
「私も」
女将がサービスとして出したシャインマスカットの大福とお茶を口に運びながら、ひろみは答えた。お菓子は美味だ。お茶も高級そうな匂いがする。
ふと窓外の富士にひろみは目を遣った。浜松からも新宿からも何度も見ていた。

だが、その姿は、見る場所によって異なる。裏から見るとこんな風なのか、としみじみ感傷に浸った。野見の搬送作業が始まると、ひろみと山下は化粧室に下がってメイクを始めた。人魚姫ということで、衣装は水着だ。といっても普通の水着ではなく、下半身がマーメイドそのものになっている。穿いてしまうと歩けなくなってしまうので、これは直前に身につけた。上は貝殻ビキニが定番だが、今回は貝殻型のニップレスを貼る。乳首のそう大きくないひろみには、この方がよりセクシーに見えるためだ。

すべての準備が整って撮影が始まる頃、太陽はすっかり昇り、真夏の陽気になっていた。撮影はベランダの内風呂でひろみが富士山をバックに人間になりたいな、と願うところから始まる。

ちょうどその時、湖面でボート事故があり、乗っていた村長のヒカルをひろみが助ける。そのヒカルにひろみが一目惚れする。そして人間になるために、人魚の長に会い、声と引き換えに転生する約束をする。浜辺で寝ている転生したひろみを見つけた村長が救助し、自宅に連れていく。ここまでは至極、いい加減に、ほとんどがひろみとヒカルのナレーションで進む。

ヤマ場は室内に入ってから、即ち、ベッドシーンである。浜辺で全裸のまま横たわっていた人魚を助けた村長は、保護のため自宅(室内)に連れて行く。部屋に入ったところで素っ裸の人魚は村長に抱きつき、そのまま性交を始めるのだ。

ここでは人魚は声を発さない。すでに言語を失っているからだ。本能のままに、想いをぶつける感じで演じてみて、というのが撮影に先立って山下がしたアドバイスだ。
仰せの通り、ひろみは感情のままに、身体を動かした。布団が敷かれた和寝室に足を踏み入れるとともに、ひろみはヒカルに抱きついた。そしてそのままキスを自分からした。

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脚本通りにヒカルはここで戸惑いを見せる言動を取った。だが、ひろみの鬼気迫る表情に、その演技を長引かせるほどヒカルは野暮ではなかった。激しく唇を貪ってくるひろみに、ヒカルはしっかりと応戦した。入ってきた舌先を受け止め、長く熱く撫で返した。

たまらずひろみはヒカルの背中に腕を回した。ヒカルも強くひろみを抱き止めた。無言のまま二人は布団に転がった。ひろみはヒカルのTシャツを脱がし、ズボンとパンツはヒカル自身で脱いだ。

時間を惜しむかのように、二人は間髪を入れずに口付けを再開する。互いに互いの口内の深くを探索し合う。自分の肌が火照り、左胸の鼓動が高まるのを感じ、ひろみはさらにヒカルに密着した。ピタリとくっついた二人の身体。下の毛同士が触れ合う度に感じる何とも言えないいやらしさが性欲をより刺激する。

熟したひろみの白桃をヒカルは愛でた。すでに屹立したひろみの乳首は益々いきり立った。食べ頃になったピンクの果実をヒカルは噛じる。みずみずしいその房は、プルンと弾けた。「はぁ…、あぁぁ……」

言葉を発せないが、嗚咽は許されているため、ひろみは吐息だけを漏らす。ずっと待ちわびたこの快楽に対し、山下が粋な計らいをしてくれたのだ。ひろみは人魚らしくムクっと半身を起こし、前進した。

ヒカルに跨ったひろみは、そのまま陰部をヒカルの顔面に押し付け、股を思い切り拡げた。ヒカルの舌がひろみのクリトリスに当たる。ひろみは上体を仰け反らせて官能を体現した。しかし、それだけでは飽き足らず、ひろみはヒカルの手を自分の胸へと誘導した。
「あぁぁっ、ああああぁぁ………」

(続く)

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