女豹の如く ファイナル-第5話 2750文字 ステファニー

女豹の如く ファイナル-第5話

二十歳を迎えたひろみに、数々の試練が降りかかる。

作家名:ステファニー
文字数:約2750文字(第5話)
管理番号:k115

揉まれる乳房の動きと、クリトリスをつつくヒカルの舌遣いに合わせて、ひろみは腰を上下させた。
ヒカルの温かな舌先。
ヒカルの細かで繊細な舌技。
ヒカルの優しく柔らかい掌。

これを待っていたんだ。私は。
今日、この瞬間のために、冷えた田中の身体が荒々しく自分を弄ぶのにも耐えてきたのだ。ひろみはピカピカに磨かれた旅館の天井を見上げながら、一筋の涙をこぼした。
「凜音さん」

直立したひろみの上半身にヒカルが腕を回し、寝かせた。倒れたひろみの耳元でヒカルは囁いた。
「僕もおんなじキモチだから」
びっくりしてヒカルの顔を見ると、ヒカルはイタズラっぽく笑った。ひろみの膣はじんわりと湿った。やがてとめどなく熱い女液が溢れ、腿を伝った。

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「あぁぁっ………」
白く細いヒカルの首をひろみは腕を巻き付けた。それによって胸と女陰をよりヒカルに押し付けた。
感じたい。もっと、もっと……。その時、ヒカルの指腹が縦筋ラインをなぞるのを感じた。
来る。

ひろみは開脚した。
トクン、と心臓が鳴った。
すると膣内が満たされていた。
嗚呼、この感じ。これがたまらなく欲しかった…。

ヒカルの元気がいい動き。
ヒカルの太くしなやかな男根。
ヒカルの軽やかでリズミカルな抽送。
すべてが完璧で優雅だ。

田中の暴力的で、貧弱な男性器とは対照的だ。
イイ、イイ……、すごくイイ………。
神様、どうか、この瞬間をもう少しだけ……。
スーツ姿でキメた“シンデレラ”でのヒカルとは違う表情。

これを知っているのは私だけ。
ヒカルの腰が激しくなった。ひろみも呼応して陰部を上下させる。
二人の息遣いが、広い寝室に響く。
金髪のサラリと輝くヒカルの髪が美しい。

大きなライトブラウンのヒカルの瞳が美しい。
白く艶のあるヒカルの肌が美しい。
ミントの香るヒカルの吐息がかかる度、ひろみはアソコから放水してしまう。
嗚呼、もっと、もっと、私を愛して…。私だけを………。

ひろみはふたつの白桃を震わせた。同じ時、下の口から涎が大量に滴った。
美味しい。
こんなに美味しいバナナはこの世に他に、ない。
ひろみのふたつ目の口内は、完熟して食べ頃の甘く太いバナナを喰った。

ヒカルもヒカルで、ひろみの熟れた桃を食む。ピンと上を向いたひろみの紅い乳首を吸い上げ、舌を転がす。その度にひろみはあぁぁ、と漏らす。
嗚呼、もっと、もっと、もっと……。
そこを、そう、そう、そう突いて…。

イイ、イイ、イイ………。
でも、イヤ……………。
ずっと、ずっと、ずっと、このまま……、一緒に、地の果てまで…、この命が尽きるまで……。揺れるヒカルの身体がスローモーションになる。
喘ぐ自分の声が遠くにくぐもって聞こえる。

床に打ち付けられる身体の感覚がない。
ヒカルを伴ったまま、湖底の奥深くに落ちていく。
深い、深い、水の底へ………。
視界から光が消え、聴覚もなくなった。

人魚に、人ではない何かに、現実ではないどこかへ、飛ばされる…。
それまでずっしりと重みを受けていたひろみの身体が急に身軽になった。閉じかけていた瞼を開くと、シャボン玉が舞っていた。
「凜音さん、凜音さん」
酔いを醒ますかのように、山下の叫び声が耳を汚してきた。ムクリとひろみは上体を起こした。

「おつかれのところごめんね。凜音さんのカバンから携帯のバイブ音がずっと聞こえてくるの。何か緊急の用で連絡してるのかもしれないから、見た方がいいんじゃないかしら」
自分に緊急の用事があるような者に心あたりはない。だが、山下の指示を無視するのも気が退ける。ひろみはおもむろに起き上がり、カバンを取った。

山下の言う通り、ひろみの携帯は小刻みに震えていた。液晶画面には着信を知らせるマークが光っている。知らない番号だ。
「あっ、ひろみちゃん?浜風荘の豊岡だけど」
相手は中年女性だ。少し考えてからひろみは思い出した。浜風荘は母の勤務先であり、豊岡は母の同僚だ。

「ひろみちゃん、落ち着いて聞いてね。お母さんなんだけど、倒れて病院に運ばれたの」
浜松駅からバスに乗り20分ほど行った所にある総合病院にひろみの母は入院している。豊岡から連絡を受けたひろみは、撮影の翌日、母の入院手続きと医師からの病状説明を受けるために病院を訪れた。

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ナースステーションで名を告げ、看護師に案内され、ひろみは母の病室に入った。何かに目を通していた母は、ひろみが入室すると手にしていた紙を置き、穏やかに微笑んだ。
「ひろみ、来てくれたんだ」

“富近裕子”と母の名が書かれたベッドに貼られたシールにひろみは目を遣った。
「お母さんね、過労だって。幸い病気はないそうで、すぐ退院もできるみたいなの。だから個室じゃなくていいですって言ったんだけど、空いてないからここでごゆっくりしてくださいって言われちゃってね」

変わってないな、この人は。全く笑っていられる状況にいないにも関わらず、底抜けに明るい。それがひろみを苛立たせていたのだ。
「そうそう。お母さんね、今、英語の勉強をしているの。浜風荘にね、名古屋の女子高で英語の先生してたおじいちゃんが入居してきてね。そのおじいちゃんがみんなに授業してくれてね、浜風荘みんなで勉強してるの」

何を言っているのだ、この人は。ひろみは腕を組んで片脚を折り曲げて壁に寄りかかった。「それでね、お母さん、アフリカの子どもたちと文通を始めたの。今もみんなからの手紙を読んでた。ベスっていう子でね、11歳。勉強が大好きで、将来は先生になりたいんだって。こっちはね、男の子。走るのが得意で、オリンピックに出たいんだって。でも最近は、家族を支えるために、サッカーの選手になって、ヨーロッパで稼ぐのもいいかなって考えてるみたいなの」

ひろみは深く溜息をついた。
「なんなの、その話。意味わかんないんだけど」
母は一瞬、呆気に取られたような顔をしたが、すぐまた笑顔に戻った。
「ごめんね。久しぶりにひろみに会えたから、お母さん嬉しくて。こんな話、ひろみはつまんなかったかな」

「自分の子どもを腹空かせておいて、異国にいる他人の世話してるなんて、聞いて呆れるわ」これまでに出したこともないようなドスの利いた声をひろみは出した。
「お母さん、わかる?私が子どもの頃、どんなに惨めだったか。毎日毎日、お腹空かせて、ボロを着て、学校でどんなに嫌な思いをしたか、知ってるの?」

病室の空調の音が母娘を支配した。沈黙を破ったのは母だった。
「ごめんね。ひろみには我慢ばっかりさせちゃって、本当に悪いことしたと、お母さん反省してる」
俯いたまま、母は話し出した。

「お母さんはね、山口県の田舎町で生まれたの。六人きょうだいの末っ子。家は貧しくて、お母さんは高校を卒業してすぐに就職したの」
やはり母は浜松に縁もゆかりもなかった。ひろみの勘は当たっていた。
「それでお母さんは浜松にやって来た」

(続く)

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