同窓会が修羅場の始まりだった-第9話
女子大で准教授を務めるひろしは、同窓会で教え子の愛子と15年ぶりに再会する。美しい人妻に変貌していた愛子とひろしは、その夜関係を持つ。二人はその後も密会を続け、その蜜月はやがて修羅場へと化していった。
作家名:.城山アダムス
文字数:約3020文字(第9話)
管理番号:k082
「気持ちよかった?」
「とっても気持ちよかった。」
「それじゃあ、これからはいつも僕の眼差しでイカせてあげるね」
「・・・・眼差しだけ?・・」
「何か、ご不満でも・・・?」
「いやだ・・・先生の意地悪・・・」
そう言うと、愛子は僕に体を寄せてきた。僕は愛子の髪を優しくなでた。愛子は甘えるような声で
「ねえ、先生。」
「どうしたの?愛子君。」
「愛子君はやめて。」
「じゃあ何と呼べばいいかな?」
「愛子って呼び捨てにして。」
「愛子。」
「もう一度、愛子って呼んで。」
「愛子。」
「うれしい。先生。」
愛子は僕に抱き着いてきた。僕も愛子を抱きしめた。愛子はいつの間にか僕にため口で話すようになっていた。僕は嬉しかった。
「愛子。」
「なあに・・・先生。」
「僕を先生と呼ぶのもやめてほしいな。」
「じゃあ何と呼べばいいの?」
「ひろしでいいよ。」
「だめよ。先生のこと呼び捨てになんかできない。ひろしさんでどうかしら。」
「ひろしさんか。それもいいね。」
「ひろしさん。」
「愛子。」
僕は愛子を強く抱きしめた。愛子の唇を奪おうと顔を近づけた。すると愛子は、僕の胸を強く両手で押し、僕のキスを拒んだ。
「ねえ、ひろしさん。」
愛子の表情が急に厳しくなった。
「愛子。どうしたの?」
「私、覚悟できたの。」
愛子は真剣な表情で僕を見つめている。僕は上体を起こした。
「覚悟って・・・?」
愛子も上体を起こし、僕の目をじっと見つめながら、
「私、主人と別れる。」
きっぱりと言い放った。
「別れるって、離婚するのか?」
「愛してもいない人と、これ以上生活するのは無理。私、ひろしさんの気持ちを知って決心したの。」
僕は動揺した。僕の愛子への気持ちが引き金になって愛子は離婚を決心したのだ。僕は愛子が離婚することを全く想定していなかった。お互いの家庭の安定を守りつつ、秘密裏に逢瀬を重ねるつもりでいた。それ以上の僕と愛子の関係に対して、全く覚悟ができていなかった。
「ひろしさん。どうしたの?」
「ごめん。びっくりしてしまって・・・」
「私が離婚すること、嬉しくないの?」
愛子のこの言葉をどう受け止めればいいのだろうか。嬉しいと言って欲しいのだろうか?
嬉しいと言ってしまえば、その次に愛子が期待するのは、僕の離婚だろうか?
僕は、妻と離婚する気持ちはない。妻を愛している、今まで離婚のことは考えたことがない。
愛子に何と言葉を返せばいいのだろうか?
「ひろしさんは、奥さんと離婚する気持ちはないの?」
愛子はいきなり核心を突いてきた。ここで僕がいい加減な返答をすると、愛子にあらぬ期待を持たせてしまう。僕は、今の気持ちを正直に伝えようと思った。
「僕は愛子が好きだ。でも、妻との離婚は考えていない。」
愛子の表情が少し曇った。
「そうよね。ひろしさんは奥さんと離婚する気持ちはないのよね。」
愛子は自分に言い聞かせるように呟いた。その表情は寂しそうだった。
「愛子。本当にすまない。今の僕も中途半端だよね。」
「本当に中途半端よ。」
愛子は僕を睨みつけた。その眼の奥には恨みが込められていた。僕は愛子の目を凝視できなかった。目を伏せて愛子に言った。
「君は僕にも離婚して欲しいのかな?」
「ひろしさんも離婚してくれたらうれしいな。」
愛子は真剣な目で僕を見つめている。僕は息が苦しくなった。背中は汗でびっしょり濡れていた。
その直後、愛子の表情が急に緩み
「冗談よ。」
そう言うと、急に笑顔になった。
「ひろしさんをちょっと虐めてみたかっただけ。」
愛子は微笑んでいた。
「それはひどいなあ。」
僕も笑顔で返したが、まだ心は動揺していた。
「私、虐めたくなるほどひろしさんを愛しているの。」
「そう言ってもらえて嬉しいよ。それじゃあ、離婚の話は嘘だったのかな?」
「嘘じゃないわ。私、主人と本当に離婚する。」
愛子は落ち着いた態度でそう答えた。かなりの覚悟ができているのだろう。
「離婚して、その後どうするつもりだ。子供はどうするの?」
愛子はしばらく黙っていたが、
「結婚する前に務めていた証券会社での経験を買われて、自宅近くの会社の経理に採用してもらえそうなの。生活費はお給料と主人の養育費を合わせればなんとかなりそう。」
「子供はどうする?」
「とりあえず実家で生活するつもり。子供は実家から学校に通わせる。」
「でも、よく決心したね。僕が原因かな?」
「そうよ。あなたが原因よ。」
愛子の口調は厳しかった。しかし、表情は明るかった。
「あなたに会って、あなたの気持ちを聞いて、私の気持ちが固まったの。ひろしさんさえ近くにいてくれたら、私は生きていけるって。」
愛子の言葉は落ち着いていた。少しだけ微笑も浮かべていた。
「それに、主人と離婚すれば、主人に気兼ねなくあなたに会えるでしょう。」
離婚することで、愛子の気持ちは僕だけに向けられることになる。僕も愛子の気持ちに応えたい。しかし、妻と別れることはできない。愛子がとても不憫に思えた。そして、いつも愛子に対して中途半端な態度しか取れない自分に対して呵責の念に駆られた。
「ひろしさんは、嬉しくないの?」
愛子の表情が少し曇った。僕のはっきりしない態度に少し苛立っているようにも思えた。
「やっぱり迷惑なのね。」
愛子の目から涙がこぼれた。愛子は気持ちがとても不安定になっている。今は僕が全力で支えてあげなければならない。しかし、僕にはまだその覚悟ができていない。あまりにも急な展開に、戸惑いを感じている。
「迷惑なんかじゃないよ。僕は嬉しいよ。」
思わず口走っていた。そう言わなければ愛子を支えることができないと思った。
「本当?本当に離婚していいの?」
「もちろんだよ。」
僕の本音の気持ちより、僕の言葉がずっと先を走っている。心の中では、
「それでいいのか?ひろし!」
と自問自答している僕と必死に闘っている。
「嬉しい。もう、あなただけを愛して生きていく。」
愛子は抱き着いてきた。僕の言葉を信じているのだろう。僕に全てを委ねているのだろう。僕は愛子に強い哀憐の情を感じた。同時に今の自分が愛子を完全に受け止められないことが、身を切られるほど辛かった。愛子を強く抱きしめた。
こうして、愛子と会っている時だけでも、愛子の全てを受け止め、全身全霊で愛してあげなければ・・・
・・・それから僕と愛子はベッドの上で激しく求め合った。
————
気がつくと、もう午後3時を過ぎていた。
「そろそろ帰らないと、子供が帰ってくる時間だわ。」
「一緒にシャワーを浴びようか。」
愛子は素直に
「うん。」
とうなずいた。
愛子はベッドを出ると浴室に向かった。僕も愛子の後から浴室に入った。愛子は振り向くと、僕の身体にシャワーをかけてくれた。
「愛子から先にシャワーを浴びなさい。」
愛子は身体の向きを変え、僕に背中を向けながらシャワーを浴びた。愛子の裸体が眩しかった。シャワーを浴びている愛子を背中からそっと抱いた。
「だめ、そんなことしたら帰れなくなっちゃう。」
愛子はシャワーを止めると、僕を避けるように浴室を出て行った。僕はさっとシャワーを浴びると、愛子を追いかけるように浴室を出た。
愛子は身体を拭き終え、すでにショーツを履きブラジャーを身に着けるところだった。スレンダーな身体に、紺色の下着が映える。色白の肌がさらに浮きだっている。愛子の下着姿に見とれているうちに、愛子の身体はワンピースで覆われてしまった。
身支度を整えた愛子が、僕のほうを振り返って
「今度はいつかしら?」
と言うなりプッと噴き出した。
(続く)
※本サイト内の全てのページの画像および文章の無断複製・無断転載・無断引用などは固くお断りします。
リンクは基本的に自由にしていただいて結構です。