困ったお隣-第8話
和代は幼馴染の植木職人、桝本泰三と籍こそ入れて無いものの、夫婦同然、つつましやかに暮らしていた。年は和代が三つ上だが、和代にとって泰三は初めての男で、唯一の男だった。
しかし、お隣に木村夫妻が越して来てからというもの、生活は一変、抜けることのできない「性の蟻地獄」のようなものに巻き込まれてしまった。
作家名:バロン椿
文字数:約2990文字(第8話)
管理番号:k083
何をしてたのよ!
その日、5回だったか6回だった、よく覚えていないが、二人はカップ麺で昼食を取った時間を除けば、夕方までずっと裸で抱き合っていた。
そして、日が陰ってきた午後4時半過ぎ、ようやく「洗濯物、取り込まないと」と和代は起き上がったが、腰は重く、頭はぼんやりしたままだった。
幹夫も「じゃあ、おばさん、僕も帰るから」と立ち上がったが、腰を擦っていた。
パンティを穿いた和代は幹夫のしわくしゃになったズボンを見て、「アイロン、掛けてあげようか?」と言ったが、「え、いいよ」と幹夫はそのままそれに足を通していた。
とにかく、何をするのも面倒なくらいに二人は疲れ果てていた。
「気をつけてね」
「うん」
玄関先で和代が幹夫を見送っていると、何と、そこに小百合が学校から帰ってきた。
「えっ、み、幹夫君、ここで何をしていたのよ……」
「先生、ぶ、部活は」
「そんなことはあなたたちに関係ないでしょう」
「あ、いや、そうだけど」
「全く、大学にも行かないで」
答えを聞かなくても、やつれた顔を見れば分かる。小百合は呆れていたが、和代と幹夫にとっては一番まずいことになった。
やばいなあ……
だって、君が夜まで帰ってこないっていうからよ……
疲れ果てている上に、更に難題が圧し掛かかり、二人はその場に座り込んでしまった。
危ない小百合
翌日も、翌々日も、小百合は朝のゴミ出しに出てこなかった。
怒っているのかしら……
和代はビクビクしていた。
「お姉さん、本当に酷いんだから」と言われた方がすっきりするが、こうなると、かえって不気味。何かとんでもないことを考えているのではないか、怖くなってくる。
そんな思いを抱いていた金曜日、「お姉さん?」と小百合から電話が架かってきた。いつもなら、電話なんかせずに、「こんにちは!」と玄関のガラス戸を叩くのに……
「はい、和代ですが」と答える間もなく、「あのさあ、明日の夜、付き合ってちょうだい」と、明るいが、断れない、キッパリと声が受話器から聞こえてくる。
変だ。何か企んでいると感じた和代は「え、明日……」と言葉を濁した。すると、「無理なら、この間のことをご主人にお話するけど」と、やっぱり仕掛けてきた。
「そ、それは困ります」
「なら、いいでしょう」
「だけど……」
「いいわよ、私から『和代さんとお食事に行きますから』って電話するから」
しかし、小百合に連絡させたら、何を言うか分からない。
「あ、いえ、じ、自分でしますから」と返すと、「なら、いいわね。午後7時、角のコンビニの前でね」ときた。
こうして和代は小百合に押し切られてしまった。
翌日、待ち合わせ場所に行くと、「ふふふ、やっぱりお姉さん、時間通りね」と先に来ていた小百合が笑っている。
何が「時間通りね」よ、遅れれば騒ぐくせして……
和代は不愉快になったが、小百合は「ダメダメ、そんな顔をしてちゃ、楽しいパーティに行くんだから」と全く意に介さない。それどころか、和代の手を握ると、「ねえ、こっち!」とタクシーを掴まえ、「xxxx」と行き先を運転手に伝えた。
「幹夫君はもう来ないから」
「えっ……」
「お勉強が忙しいんだって」
車の中で、小百合がそう言ったが、本当にそうなのかは分からない。顔を見るとJ-POPを口ずさんでいる。
きっと、何か言ったんだわ……
和代が気を揉んでいるうちにタクシーが目的地に近付き、「あ、そこを左に」と小百合が指図し、「はい、ここで」と、とあるマンションの前で車は停まった。
ここでパーティ……
ホテルかレストランに連れて行かれるものと思っていた和代がタクシーを降りながら、辺りを見回していると、遅れて降りた小百合に「ふふふ、どうしたの?」と腕を掴まれた。
「パーティというから、ホテルかと思っていたけど……」
「いいのよ、ここで、お友だちが待っているから、さあ、いきましょう」
「えっ、あ、でも」
躊躇う和代を小百合は引きずるようにエントランスに入ると、「5階よ」とエレベーターのボタンを押していた。
えっ、そんなパーティなの……
連れて来られたのは5階の角の部屋。「ここよ」と小百合がインターフォンを押すと、直ぐに「ははは、いらっしゃい」と中からドアを開けてくれたのは小百合のご主人、武さんだった。
「えっ、あ、あの」と和代は驚いたが、それよりも白いタオルのガウン姿。「楽しいパーティなのよ」なんてものではない、乱交パーティか何か、良からぬことだと感じた和代は「いえ、あ、わ、私は……」と後退りしたが、それを「お姉さん、さあ、さあ」と小百合に押し込まれてしまった。
一歩踏み入れと、漂ってくるのは、むせかえるようなローズの香り、そして、リビングには、武さんと同じように、タオルのガウンを羽織った、40歳代らしい男女が腰を下ろしていた。
「遅くなりまして、木村小百合です」と小百合が挨拶すると、二人は「あ、や、山田憲治です」、「洋子です」とやや緊張して答えていた。夫婦に違いないが、どうも様子がおかしい。
まさか、まさか……
和代の頭に浮かんだのは乱交パーティどころではない。「スワッピング」だ。そこに、「小百合さん、久し振り」と50歳代の白髪の男が奥から出てきた。
見かけはビジネスマンのようだが、なんとも色っぽい顔をしている。その男に、「小山さん、ご無沙汰です」と小百合は挨拶すると、「こちらがお友だちの和代さん」と和代の背中を押し、「電話でお話したように、どうしても参加したいって言うので」と、勝手なことを付け加える。
もう間違いない。スワップパーティだ。
慌てた和代が「ウ、ウソよ」と割り込もうとしたが、「そうですか、小百合さんのお友だちなら、大歓迎ですよ」と、白髪の小山さんは「皆さん、よろしいですな」と話を進めてしまう。
「いえ、違うの」と和代は言いかけたが、それを「待たせたら悪いわよ。私たちも支度しなくちゃ」と小百合はさえぎり、腕を掴んで、奥の脱衣室に連れて行く。しかし、ここで逃げ出さないと、とんでもないことになる。
和代は脱衣室に入ると同時に、「どういうことなのよ!」と小百合に詰めよった。だが、「いいじゃないの、後腐れなくセックスを楽しめるんだから」と、小百合は全く意に介さない。それどころか、「待たせたら悪いわよ」とタオルとガウンを差し出す。
いくらお隣さんだからといって……
「わ、私はそんな女じゃありません!」と和代はそのガウンを叩き落としたが、「だったら、幹夫君とはどうしてセックスしたの?」と嘲笑う。悔しいが答えようがない。「あ、あれは……」と言葉に詰まる和代に、小百合は「帰ってもいいけど、代わりにご主人を呼ぶから」と顔色一つ変えずに服を脱いでいる。
本当に恐ろしい女だ。青ざめる和代に、全裸になった小百合は「さあ、あなたも体を洗わないと」と浴室に入っていった。
衝撃のスワッピング
二人がリビングに戻ると、リビング、それに続く和室も襖が外され、舞台は出来上がり、組み合わせも既に決まっていた。
「いやあ、感激だなあ」
わざとか、偶然かは分からないが、和代の相手は小百合のご主人、武さんだった。
「あなた、良かったわね」と微笑む小百合は40歳代夫婦の夫、山田憲治さん。その妻の洋子さんは小山さんに抱かれることになっていたが、二人はスワッピングが初めてなのか、酷く緊張している。
「ははは、一夜限りですよ」と小山さんは笑っているが、その夫婦は笑えない。
(続く)
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