マリッジピンク-最終話 2780文字 レモンコーヒー

マリッジピンク-第5話

主人公の桃香は人には言えない性的願望を持っている。結婚をする前にその望みを叶えようとするが、相手に選んだのは姉の夫。許されぬ関係の二人が織り成す欲望の数々をご覧下さい。

作家名:レモンコーヒー
文字数:約2780文字(第5話)
管理番号:k142

「桃ちゃん、出すよ。イクよ」
桃香の声は聞こえなかった。
「2階でシャワー浴びてるから、5分後に来てね」
桃香はピョンピョンと兎が跳ねるように階段を上がって行く。ヒロシはソファーでぐったりとしていた。昌也がその前を通ると、少し微笑んで手を振る。
昌也が階段を上がるとシャワー音が止まる。部屋に入ると桃香は全裸で窓辺にいた。昌也は「本当に綺麗だな」とぼんやりと見つめた。そして「きっとこれが最後…」とも思った。桃香を抱き上げてベッドに寝かすと、全身を丁寧に愛撫した。それ以降はいたってノーマルな流れで、昌也は落ち着いてデザートを堪能した。
昌也は疲れはて、そのままベッドで眠った。桃香がシャワールームに入ると、ドア越しに昌也の寝息が聞こえる。桃香は「お兄さん、相当お疲れね」とクスッと笑ってシャワーを出した。
その時、ヒロシも力尽きて1階のソファーで寝ていた。
シャワーを終えると、どこでドライヤーを使うか迷いながら廊下に出て、小さな出窓から外を見た。遠くに光が見えるが、それが何の灯りなのかはわからない。窓辺にコンセントがあった。桃香はそこで髪を乾かしてからベッドに戻り、昌也の隣で眠った。

【翌朝】

桃香が先に目覚めて1階に行くと、ソファーで寝ていたヒロシの姿はどこにもなかった。昨日食べたピザの箱やワインの空き瓶もなく、グラスはキッチンの水切りカゴに洗ってふせられてある。スマホを見ると時間は10時半…
「帰ったのね」
桃香が着替えてソファーに座ってメイクをしていると、昌也も降りて来た。
「ヒロシさん、もういないわよ」
「そぅか。僕らも出ようか。どこかでモーニング食べよう」
「うん。私、湖見たいな」

【レイクサイドのカフェ】

限りなくランチに近いモーニングを2人で食べた。メニューも同じ。エッグベネディクトとアメリカンコーヒー。会話はほとんどない。ただ時々、惜しむように見つめ合うだけ。あっという間に食べ終わる。昌也が会計を済ませ入り口の重いドアを開けると、桃香が先に外へ出た。昌也もそれに続く。ドアが閉まると桃香が言った。
「本のページが閉じたみたいね」
最寄りの駅で2人は別れた。ここへ来た時と同じように桃香は電車に乗り、昌也は車で家に帰る。不倫なのだから警戒して当然だ。

それきり桃香は昌也に会うことはなかった。もちろんヒロシにも。姉から自宅での食事会に誘われ昌也に会う機会があったが、当日になって姉が具合が悪くなり、それはキャンセルとなった。また、姉夫婦が突然実家を訪れた際は、桃香が偶然いなかったりして…
昌也は別荘での夜を思い出すと体が熱くなり、何度も桃香にラインしようとしては止めている。関係を続けた先に見える未来などない。忘れよう…
結婚式を来月に控えたある日。
亜矢子と桃香はランチをした。誘ったのは亜矢子だが、お店を決めたのは桃香だった。

大学卒業後の桃香がしばらく働いていた図書館。その近くにあるイタリアンにて。
「桃ちゃんの結婚式楽しみね」
「うん。でも毎日忙しくて」
「結婚したらもっと忙しくなるわよ。義理の両親や兄弟のご機嫌伺いには神経使うし、家事なんて終わりがないの。結婚ってただの生活。そこに刺激も安らぎもないのよ。桃ちゃん大丈夫?」
「どうだろ?してみないとわからないかも」
桃香は、姉は自分と兄の関係に気が付いていると直感した。
「私ね、桃ちゃんの事は少しも怖くないのよ。だってあなたは私と何もかも違うじゃない。綺麗で無邪気で可愛げもある。そのくせ賢くて、人の気持ちがわかりすぎる所もある。それがあなたの魅力。男の人はみんなあなたを好きになる」
「誉めすぎよ」
「私が桃ちゃんに嫉妬をしないのは、これまでの人生であなたと比べられたりしなかったせいね。パパもママも、私は私で認めてくれていたわ。それなのに私は反抗して家を出て…バカだったわ」
「パパとママ、最近すごく仲が良いのよ。しょっちゅう二人で出掛けるの」
亜矢子の注文したアラビアータが先に、ほどなくして桃香のサーモンのクリームパスタがきた。二人は無言で食べた。最初は混んでいなかった店内が満席になり、賑やかになった。そのせいか沈黙に気まずさはなかった。亜矢子は半分食べると、ハァとため息をついた。
「やっぱり完食はムリね。とても美味しいのに残したら失礼だから、テイクアウトに出来るか聞いてみるわね」
「大丈夫よ」

シースルーランジェリー一覧02

桃香がレジにいる女性スタッフにアイコンタクトし、側に来るのを待って小声でその旨を伝える。残ったアラビアータは下げられ、グレープフルーツジュースが運ばれてきた。亜矢子はそれをストローを使わずに、グラスのまま一口飲んで言った。
「私、赤ちゃん出来たみたい。昨日、病院へ行って来たの。つわりが酷くて参ったわ」
「お姉ちゃん、おめでとう」
「悪いけど、来月の桃ちゃんのハワイの結婚式には出席出来ないわ。飛行機はダメだって。ゴメンね」
「いいの。赤ちゃん、大事にして」
桃香は内心ホッとしていた。そして、亜矢子に聞いてみた。
「どうして私とお兄さんの事わかったの?お姉ちゃんは人のスマホを勝手に見たりする人じゃないと思ってたわ」
「そうね。先月ね、あの人、私の名前を呼ぼうとして桃香って言ったのよ。それでピンときたの。あなたを嫌いな男の人なんていない。桃ちゃんにその気があれば男女の関係になって当然だもの」
亜矢子は落ち着いていた。昌也は桃香を呼ぶ時はいつも「桃ちゃん」だった。桃香は自分が昌也に呼び捨てにされた事に一瞬ときめいた。そして、お兄さんとお姉ちゃんはやることはちゃんとしてたのね…と少し可笑しくなったが、空気を読んで笑いを殺した。
「お兄さんは一時の遊び相手だから、私を選んだのよ。私もそう」
「見て見ぬふりも出来たのに、今日桃ちゃんをランチに誘ってこんな風に白状させたのは、きっとこれが私のプライドなのね」
亜矢子は桃香を見て微笑んだ。桃香はその時の姉の表情が、今まで見たどの顔よりキレイだと思った。

【ジューンブライド】

政略結婚とはいえ、桃香は無理やり結婚させられる訳ではない。桃香が自分で選んだ人生だ。結婚相手の須藤彰は御曹司でありながら偉ぶった雰囲気はなく、子供好きで優しい所が桃香は気に入っていた。彰が大学院生の時に高校生だった桃香をとあるパーティーで見かけたのが2人の出合いで、それ以来ずっと気になっていたのだそうだ。そして仕事上で2年前に父親同士の距離が縮まり、トントン拍子で結婚話が進んだというわけだ。彰の家柄と人柄は結婚相手に申し分なく、体の相性も悪くはなかった。桃香は「この人に決めたわ」と、選んだアクセサリーを手に取るようにして結婚を決めた。

【ハワイのチャペルにて】

ウェディングドレス姿の桃香の美しさに、彰は言葉を失った。
「彰さん、どうしたの?」
「いや、綺麗すぎてビックリしちゃって」
桃香はクルリと1周して見せた。
「私、すごく幸せよ」

(終わり)

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