アナルフリーダム-第3話 3010文字 優香

アナルフリーダム-第3話

夫の不倫を知った私は茫然自失のまま万引きしてしまうが、ある男性に救われる。
人生に絶望した私は、沖縄の彼の住まいに招待され美しい女性と出会い、生まれ変わる。

作家名:優香
文字数:約3010文字(第3話)
管理番号:k133

4日後、一通の簡易書留が届いた。
消印と差出人の住所は沖縄の宮古島、差出人の氏名は青山楓。
女性らしい美しいペン文字だった。
封を切ると、私名義の往復航空券が入っていた。
羽田~宮古島、往路の日付は明後日、復路の日付はその4日後だった。

つまり、明後日から3泊4日で宮古島に来い、と。
同封の便箋を開く。
封筒に書かれた宛名と同じ筆跡だ。
“前略 初めまして。私は青山楓。彼の代理です。彼とは、誰の事かお判りですね。空港までお迎えに上がります。お気が進まなければ航空券は処分して下さい。お目に掛かれるのを楽しみにしております。草々”

何度か読み返した。
厭なら来なくて良いと、いう、私に判断を委ねた内容だった。
行こう。
彼が言った。
色々な事に遭遇する。

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それが良い事か悪い事か判断するのは死ぬ時だと。
向こうで何が起こるのか判らないけど、行こう。
彼に首根っこを掴まれているから、という負い目からではなかった。
私の人生を絶望させる事が起こるかも知れない。
悲惨な状況に陥るかも知れない。

しかし、たった今、私は既に絶望のどん底にいる。
今の状況のまま、こんな思いを抱えたまま生きて行く事の方が厭だ。
結果はどうあれ、何か変わるはずだ。
いや、変えたい。
私は決心した。

もう10月半ばだというのに、空港に降り立つと、宮古島は初夏のような気候だった。
出口付近に、それらしい女性はいない。
ロビーや通路にも。
ターミナルを出るとパーキングがあった。
平日だし、時期的にも、人も車も疎らだった。
立ち止まって辺りを視回す。

彼女だ。
青山楓。
遠目にも一瞬で直感した。
他に、観光客や知人の出迎えの女性は何人もいたが、私の視線を釘付けにした。
濃紺のスポーツカーのボンネットに軽く腰掛けた彼女の背丈は私と同じくらい、細身にデニムのスーツ、太腿の付け根をかろうじて覆う程度の短いタイトミニから伸びる長く美しい脚、上品なダークブロンドに染めた長いストレートヘアを風に靡かせ、サングラスを掛けている彼女の輝くような風情は、まるでハリウッド映画のワンカットだ。

私を視留めた彼女がサングラスを外しながら、ハイヒールの音を立てて颯爽と歩み寄って来た。
近寄るに連れてとんでもない美少女だと判る。
美少女アイドル、美人女優と称される女性は数多いるが、楓がその中に混じっても際立つに違いない。
「お、小川亜由美さん?ね?」

彼女が上品に微笑んでから、初対面特有の衒いか、恥じらって視線を逸らした。
その清楚で愛らしい美貌を真近で視て、私の方も恥じらいを覚えて視線を伏せてしまっていた。
女でありながら、彼女の余りの美しさに心がときめく。
男性に対しても、勿論、女性に対しても、遭った瞬間に心がときめくなど、生まれて初めての経験だった。
「ど、どうして、わ、私が?」

時期外れと言っても、他に観光客はかなりいたし、一人だけの女性も、私と同年代の女性も何人かいた。
視線を戻して彼女の美貌を視詰め、すぐに恥ずかしくなって、また視線を逸らす。
「彼が言う美人って、貴方しかいないわ」
「そ、そんな」

驚いて貌を上げると彼女と視線が重なった。
私はうろたえて、眩しい彼女の視線からまた眼を逸らした。
面と向かって、私が“美人”だなどと直接言われたのは、恐らく生まれて初めてだった。
初対面で、一目視てときめいてしまったこの美少女と、4日間、一緒に過ごす事になるのだろうか?
彼も、一緒に?

胸の高鳴りが激しくなる。
「彼が女性、いいえ、男性もだけど、他人を館に招待するなんて初めてですもの」
彼女が愛らしく微笑んで私の旅行バッグを手にしようとした。
「か、軽いから自分で」
制すると、彼女は微笑みを浮かべたまま、車に向かって歩き出した。

彼女の引き締まった尻肉が揺れるのを視詰めて、一層心がときめく。
後に従うと、彼女が助手席のドアを開けてくれた。
乗り込むと、彼女は運転席に座ってサングラスを掛け、車を発進させた。
自分が、まるで映画のワンシーンの中に入り込んだような錯覚に、心のときめきがさらに激しくなる。

彼女の美貌を確かめたい欲求に駆られ、盗み視するように運転する彼女の横貌を視る。
美しい富士額、切れ長の涼やかな眼差し、上頬に散った愛らしいそばかす、細い鼻筋、甘えん坊のように少し尖った美しい唇。
やはり、溜息が出るような美しさだった。
「私が青山楓よ。貴方が素敵な女性で嬉しいわ。よろしくね」
彼女が美貌を私に向かって軽く傾げて微笑んだ。

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「そ、そんな、わ、私なんて。よろしくお願いします」
私は恐縮して身体を縮めた。
「敬語、丁寧語はなしよ。私にも彼にもね。私もそうするわ」
「は、はい」

「だめ。普通に、ね」
美しい彼女が眩し過ぎて、まともに視詰める事が出来なかったが、未だ20歳くらいだろう、この美少女はあの紳士とどんな関係なのだろうか。
年齢は、恐らく親子ほど離れているようだったが、“彼”と言うからには親子ではないのだろう。

20分ほど走ったか、海沿いの道路から逸れ、舗装されていないでこぼこ道を岬に向かって登り、そして海が望める長いでこぼこ道を下ると、亜熱帯樹木に覆われた瀟洒な建物があった。
彼女が手にしたリモコンを操作してゲートを開け、車を庭に入れて再び閉めた。
車を降りると、生まれ故郷と同じ、潮の香りが漂い、砂浜を波が浚う音が聴こえた。

派手ではなく、だからといってみすぼらしくもない、良く手入れされた別荘の佇まい。
「ようこそ。私たちの館に。どうぞ」
彼女がリモコンでロック解除し、ドアを開いたままにして中に入り、その後ろに従う。
20帖ほどのリヴィング、庭に面して美しいステンドグラスの大窓、南向き、西向きの大窓の彼方に、レースのカーテンを透かして、陽光にきらめく眩い程美しいコバルトブルーの珊瑚礁の海が拡がる。

私は未だ映画のシーンの中にいた。
左手にカウンターキッチン、右手のドアはバスルームだろうか、その間に、砂浜に出るのであろう、ドアがあった。
正面にある吹き抜け仕様の二階に上がる階段がある。
ここで4日間、彼とこの美少女と過ごす。
いや、これまでの経緯からして、ただ時を送るだけではないはずだ。

ここに招待された理由があるのだろう。
それに、私はある意味では、囚われの身だ。
ここで二人に何をされようと拒む権利はないようにも想えた。
感情が緊張と弛緩に揺れ動く。
「部屋に行きましょう」

彼女が私の手を取って歩き出した。
自分の掌が汗で湿っているのに気付く。
二階に上がると10帖くらいの部屋にキングサイズのベッドが一つ、その横にウォーキングクロゼット。
窓の外に南国らしい観葉植物とハイビスカスが咲き誇る広いウッドテラス。
部屋が一つだけ?

ベッドも一つだけ?
それもキングサイズだ。
一階にも二階にも他に部屋はなかったはず。
私は何処に泊まるの?
父親が一級建築士事務所を経営していて、子供の頃から建築に興味があったので、大抵の家は一目で間取りが判った。

思案していると、驚いた事に彼女が洋服を脱ぎ始めた。
何時もそうしているかのように、脱いだ洋服をベッドの傍のスツールの上に無造作に投げ捨てる。
どぎまぎしながら楓の美しい裸身を視るでもなく視詰める視線の先で、腕を掲げた楓の腋の腋毛が視えた。
上品で清楚で美しい楓の腋毛に、再び心のときめきが激しくなった。

「あ、亜由美さんも脱いで」
楓が口籠りながら、私に言い、すぐに視線を落とした。
“よ、洋服を?ぬ、脱ぐの?”
呆気に取られている私の眼の前で彼女が全裸になった。

(続く)

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