産婦人科病棟看護師はミタ-第2話 2940文字 ステファニー

産婦人科病棟看護師はミタ-第2話

日本一の不妊治療実績を誇る大学病院にて、若手看護師が見たものとは...。

作家名:ステファニー
文字数:約2940文字(第2話)
管理番号:k122

「産婦の高齢化による妊孕力の低下ではないでしょうか」
「正しい。しかし、私の見解ではそれが真犯人ではない」
「では院長のお考えでは何が真の要因だと思われるのでしょうか?」
これがどんな研修なのかはさっぱりわかりません。でも私は院長の研究結果に対して好奇心が沸き、早く結論が聞きたい思いでいっぱいでした。

「官能力だ」
カンノウリョク?
私は聞き慣れないワードに咄嗟には漢字を脳裏に浮かべるまで至れませんでした。
「かっ、官能力とは如何様なものでしょうか…」
お堅い院長とは似ても似つかない下ネタに私は戦きました!しかも、院長は真顔です。終始。

「確かに高齢出産希望者は増加している。しかし、その一方で、不妊治療を受ける患者における若年層も少なくない。私のプロとしての勘だが、その数は増加しているように感じる」
「はっ、はぁ…。ではそれと官能力はどのような繋がりがあるのでしょうか?」

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「若年カップルは内診をしても特に問題が見つからないケースが少なくない。また問題があったとしても、ホルモン数の不良に起因しているカップルが突出している。これが何を意味しているかわかるかい?」
私は返事の代わりに首を横に振りました。

「つまりは性的刺激に対する感度が低いことの表れだ。そんな状態では妊娠になど至れるわけがない」
えーっ、そうなの?おおよそ看護学校時代に習った知識からは程遠い院長の持論に、私は呆気に取られました。
「非科学的だと思っているんだろう?その通りだ。とてもじゃないが、学会に提唱できる論理ではないよね」
「はっ、はぁ……」

「もちろん、私も大っぴらにこの説を唱えてはいない。表向きには心の状態を整える妊活としている」
それは私も存じていました。この病院の不妊治療のモットーは、‘心身健康妊活’です。心のバランスを整え、内から妊孕力を高める治療だと謳っています。

「しっ、しかし、院長。官能力なんて病院で指導できるものなんですか?」
「できるさ。これをご覧なさい」
そう言うと院長はガラス戸にかかっているカーテンを開きました。
「キャー!!!」

私は叫びました。あまりにも凄まじい光景が窓外で繰り広げられていたからです。 通常、手術台として使われるあの場所で、裸の男女が絡み合っているではないですか! 「なっ、なんですか、これは!」
「驚くのも無理もないが、これこそ私が考案した、性交指導法なのだよ」

「でっ、でも、ここは病院ですよ。誰かに見つかったら通報されませんか?」
院長はそう言った私の顔を見て、一笑に付しました。
「この病院の院長はこの私だ。私の権限でこの時間帯、この部屋は院内の誰も近寄れないようにしてある。だから警察に漏れるなどということは断じてない」

えーっ、そうなの? でも、だとしたら、どうしてこんな機密情報を私みたいな下っ端の看護師に教えるんでしょうか…。
「ところで大前君は元フィギュアスケートの選手だと聞いたが、間違いないね」
「はっ、はい」
そうなんです。私は5歳から中学生まで、フィギュアスケートをしていました。だけど、私には才能がなくて、選手として大会に出場できるレベルには至れませんでした。

「その力を是非貸して欲しい」
えーっ、それって、どういうこと?
「お言葉ですが、院長。私は大した選手ではありませんでした。私のスケートの技術が院長のお役に立てるとは思えませんが…」
院長はふぅ、と溜息をついてから諭すように話し出しました。

「キミは自分の能力に気がついていないようだね。フィギュア選手であり、看護師であるということが、どれだけ希少価値があることか。キミは氷上の妖精であり、白衣の天使なんだ」
フェアリー&エンジェル?この私が? そんなわけないじゃないですか。

だって私は身長152センチ。20代も中盤だというのに、いまだ中学生に間違われるほどの童顔ですよ。おまけにバレエレッスンのやりすぎから、胸は真っ平ら。色気のかけらもない女なんです。
「私がどういう風に振る舞えば良いと言うのですか?」
「キミのフィギュアで培った柔軟性で魅了し、夫婦に活力を与えたまえ」

「はっ、はぁ…?」
柔軟性で魅了? ますます私はわけがわからなくなりました。
「かの夫婦を見よ」
院長は手術台で交わる男女を指さしました。

「彼らは本日奥の部屋に入院してきた30代の夫婦だ。ともに生殖能力に大きな異常はない。だが、五年近く不妊に悩んでいた。理由はただひとつ。正しい性交を行えていないためだ。有り体に言えば、互いに性的感度が低いからだ」
さっぱり意味はわかりませんが、院長は熱弁を続けました。

「性的興奮をパートナー同士でおこすことができないのであれば、外部刺激によって湧き上がらせるしかない。その手伝いをするのが我々なのだ」
「ご夫婦の秘め事に割って入るということですか?」
「そうだ。それの何が問題だろうか?なぜなら彼らの目的は子どもを授かること。その手助けをして何が悪い?」

なるほど…。院長の理論を肯定しつつある私と、理性を保った私が、葛藤してます。院長の言い分も一理あるけれど、でも…。 その時、手術室のドアが開き、白衣を着た女性が現れました。
長いウェーブがかった茶色い髪が美しい、スレンダーな女性です。白衣の裾から伸びる、長い脚がとても目を惹きます。

「友梨亜だ。私の娘だ。この病院で研修医をしている」
「そっ、そうなんですね」
私とは面識がありませんでした。しかも院長のお嬢様が研修医としてこの病院に居たなんて、初耳でした。
「友梨亜は私の診療方針を知る数少ないスタッフのうちの一人で、協力者であり、後継者だ。後ほど大前君にも挨拶に伺うよう、伝えてある」

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「はっ、はい…」
院長のその言葉が言い終わる少し前に、事態は急変しました。
友梨亜先生が白衣を脱いたのです。それもガバッと。
その後に見た光景に、私は目を疑いました。

なんと、友梨亜先生はレオタード姿だったのです! それも体操用のではありません。真っ黒なハイレグで、肩に袖はありません。いわゆるビスチェみたいになってます。しかも太ももにはこれまた黒の網タイツがかかってます。さらに、驚きは続きます。友梨亜先生の掌には、細い革紐のようなものが握られているではありませんか。 そうです。つまり鞭です。

「あっ、あれはっ!?」
私は素っ頓狂な声を上げていました。
「この夫婦のご主人はね、実はこういうプレイがしてみたいと密かに願っていたらしいんだ。だがいざ夫婦ともなってみると、そんなことは実現できないものだろう。だからこその友梨亜なんだ」

ハハハ、と院長は笑いました。このノリに私はついていけてません…。
手術台をベッドにして重なり合うご夫婦に友梨亜先生は近寄ります。そして手にしている鞭を振り上げ、ご主人のお尻にピシッと打ち付けます。

「びっくりするのも無理はないよね。普通は夫婦の営みに第三者が介入するなんてないもんね。だがよく考えて欲しい。彼らは子どもを授かりたい、その一心だ。すでに夜の生活にときめきを求めてなんかいないんだ。その目的を達するためには、どんな手を使ったっていいではないか。もちろん、お二人も同意していらっしゃる」
キョトンとした表情をこの時の私はしていたことでしょう。でもそれに追い討ちをかけるかのように、驚きの光景が続きました。
「せーのっ…」

(続く)

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