語られぬ昭和史-第5話 2900文字 バロン椿

語られぬ昭和史-第5話

ほんの少し前だったのに、既に「昭和」は懐かしい響きになってきました。
以前、筆者は「歴史秘話―ある素封家の没落」というものを本サイトに発表しました。
今回は昭和に起きた3つの事件について、その裏側で起きていた男と女の話を交え、「語られぬ昭和史」として発表させて頂きたいと思います。

オイルショックとマルチ商法(昭和48年(1973)~昭和50年(1975))

脱炭素社会、そんなことが叫ばれていますが、今から50年前、最大のエネルギー源は石油でした。はるか遠い、中東で起きた戦争等のため、正常に供給されない事態になってしまいました。
そんな不安定な社会では、詐欺話が起きるものです。これは、その一つである「マルチ商法」に翻弄された男の悲劇を中心に描きました。

作家名:バロン椿
文字数:約2900文字(第5話)
管理番号:k121

3.オイルショックとマルチ商法ーその裏側では

オイルショック

昭和48年(1973年)10月6日、第四次中東戦争が勃発し、それに伴い原油が高騰する第一次オイルショックが起こりました。
石油から作り出される「石油化学製品」に溢れていた我が国では、その直後から「〇〇が無くなる」といった物不足の噂が飛び交っていました。
翌11月、これを象徴するような出来事が起こりました。所謂、「トイレットペーパー騒動」です。

「紙が無くなる」という根拠のないデマにより、大阪府のスーパーマーケットの掲げた、激安により「紙が無くなる」という広告に煽られた客が殺到し、用意された特売のトイレットペーパーがあっという間に売り切れ、それが、「本当に無くなるんだって!」と日本各地に伝播されて、「物不足パニック」が起きてしまいました。

筆者の家では、日用品雑貨の卸売問屋から定期的に購入していましたので、この時も、幸いその問屋さんに助けて頂き、スーパーマーケットに朝から並ぶことはありませんでした。
まあ、このことはインターネットで簡単に調べることが出来ますから、皆さん、ご存知でしょう。
でも、生理用ナプキン不足も発生したことはご存知ですか?

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元々、このパニックは「石油が不足するから石油化学製品が不足する」から起きたことですよね。だから、十分裏付けのある話です。
「おい、知っているか?アンネナプキンが売り切れなんだってよ」
「バカ野郎、男の俺がそんなことを知っている訳ないだろう」

トイレットペーパー騒動がまだ収まらない12月頃、高校生だった筆者を、薬局の悴だった同級生がこんなことを教えてくれました。
「お前、成績いいのに、こんなことも知らないのかよ」
「なんだよ、変なことを言うなよ」
「ナプキンって殆どが石油化学製品なんだよ」
「あ、そうか……」

当時、我が家は子供和服加工所。「綿入れ」と言っても、綿花から作った本物の「綿」ではなく、石油化学製品の「綿」を使用していました。筆者の父親はその「綿」の仕入れに苦労していました。

「そうだよな。俺のうちでも和服の綿の仕入れに苦労しているよ」
「そうだろう。昨日、近所のおばさんが、『ナプキン、取っておいてね』って、俺のお袋に頼んでいるのを聞いたんだよ」
筆者と同級生はこんな会話を交わしましたが、二人ともまだ純情でした。同級生の女の子を見て、「へえ、困っているんだ」などとニヤニヤすることはありませんでした。念のため、申し添えておきます。

筆者たち高校生にとっては、こんなことよりも切実なことがありました。それは文房具の値上がりです。特に大学ノートは一挙に倍になりました。
うろ覚えですが、一冊50円から100円になったと記憶しています。
とにかく、石油不足は多方面に影響を及ぼし、本当の「紙不足」が発生しました。全国紙ですら、朝刊はまだしも、夕刊も4枚くらい、ぺらぺらでした。

電力業界は更に深刻で、節電、節電一色。繁華街のネオンは消え、テレビもNHKは午後11時に放送休止、民放も午前0時頃には休止していました。
当然、ガソリンスタンドは日曜日の休業は当たり前、平日でも馴染み客以外はお断りもありました。
こうした先が見えない世の中、誰でも不安になるものですが、こんな時ほど、人間の本質が現れるものです。

個人タクシー業、木村洋二

「おい、パチンコに行ってくる」
「あなた、昼間から遊んで、タクシーの方はどうするんですか?」
「バカ野郎、こんな時に営業なんか出来るか!」
個人タクシーを営む木村(きむら)洋二(ようじ)は女房の妙子(たえこ)を怒鳴りつけると、家を出て行った。

「全く……」
怒鳴られた妙子は一言言い返してやりたい気持ちだったが、一昨日からのことを思うと、何も言えなかった。
「ガスを入れてくれないんだ」
一昨日、夫は朝からタクシーに乗って営業に出掛けたが、午後3時前に戻ってきた。

「どうしたの?」
「スタンドに行ったら、□□会社の予約で全部売り切れ。個人タクシーはお断りだとよ」
当時のタクシーは燃費の関係で殆どがLPG(プロパンガス)車だったので、一般のガソリンソタンドではなく、数多くないガススタンドを利用していた。

オイルショックにより殆どのスタンドでは給油制限、補填制限をしていたが、それでも馴染のお客にはそれ相応に融通してくれた。だが、個人営業車両、トラック、タクシーはそれでは十分には稼ぐことが出来ないことがあった。それなのに、スタンドごと買い占められたら、ニッチもサッチも行かなくなってしまう。

夫は昨日もそのスタンドに行ったが、返事は変わらなかった。
「田中さんはどうするつもりなのかしら?」
妙子は内閣総理大臣の名前を口にしていたが、夫は「知らねえよ」とタバコを咥えて、そっぽを向いていた。

35歳の時、タクシー会社から独立し、以来、10年、一生懸命に働き、2年前には家も建てた。これからは高校生の子供を大学に通わせるために、もっと稼がなくてはいけないのに、営業が出来ない。
夫はカリカリ来ていた。
それでも、今朝もスタンドに行ったが、「あんたもしつこいな」と追い返されてしまった。

その一部始終を聞かされ、見てきた妙子は腹が立つものの、「遊んでいないで、働きに行きなさいよ」とは言えなかった。
「お母さん、どうしたの?」
風邪を引いて学校を休んでいた娘は両親の言い合いが気になって、起きてきたが、不安がらせることは言えない。

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「お前は心配しなくていいから、寝てなさい」
「だって」
「お父さんは怒りっぽくなっているだけだから。さあ、私はパートに行くから、誰か来ても玄関は開けちゃダメよ」
「はーい」
娘が部屋に戻ると、妙子はふぅーとため息をついた。そして、気をとり直し、洗濯を済ませると、パートに出掛けて行った。

同業者、真田正男

「おや、珍しい」
「あんただって同じじゃねえか」
パチンコ店には個人タクシー仲間が顔を見せていた。彼らも木村と同じく車にプロパンが充填出来ず、昼間からここに来ている。
軍艦マーチなどの勇ましい音楽に混じって、チンチン、ガラガラと玉を弾く音が聞こえる。

「あっ、ダメだ。クッソ」
上手でないから、たちまち千円札が消えていく。
「ふぅーー」
木村も彼らも働き人間だから、昼間から遊んでいることに耐えられなくなる。

「お先に」
「私も」
一人消え、二人消え、2時間もしないうちに、個人タクシー仲間は殆どいなくなった。
バカな奴らだ……

真田(さなだ)正男(まさお)は残っていた玉をタバコやチョコレートに交換すると、それを抱えて、近くのトルコ風呂(現:ソープランド)に入って行った。
「あら、お客さん、今日も来てくれたの?」
「ほら、これ、お土産」

「凄いじゃない、こんなに取ったの?」
「夕月ちゃんにプレゼントしようと思って、朝から頑張ったから、ちょっと凝っているんだ。頼むよ」
「どこが凝っているの?」
「ははは、チンポだよ」
「イヤだあ、お客さんたら!」

足元にかしずいた夕月嬢は彼のズボンを下げていた。
「お客さん、景気がいいのね」
「いやあ、そうでもないよ」

「バカ、ここのことよ」
「あ、そうか、あははは」
真田は高笑いしながら、一昨日、競艇場仲間から聞かされた「勝ち馬に乗らなくてはダメですよ」という言葉を思い出していた。

(続く)

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