恋するママ-前編 3020文字 バロン椿

恋するママ-前編

進学教室で、「受験の女神様」とまで崇められている、40歳の笠間由香里が恋をした。
相手は同じ進学教室で英語のアルバイト講師をしている大学3年生、21歳の一之瀬謙治。「笠間せんせー」と声を掛けられるだけで、由香里は頬が赤くなってしまう。
さあ、この恋の行方はいかに……

作家名:バロン椿
文字数:約3020文字(前編)
管理番号:k117

下腹部が出てきたね

夏休みが終わった9月中旬、まだまだ残暑が厳しく、汗ばむから早くお風呂に入りたくなる。夕食の片付けを終えた笠間(かさま)由香里(ゆかり)がシャワーを浴びていると、夫が断りも無く「ああ、今日も暑かった」と浴室に入ってきた。

時刻はまだ午後9時半を過ぎたばかり。中学校2年生と小学校5年生の二人の息子はまだ起きているのに、余りにも、非常識というか、ハレンチというか、「あなた、ふざけないで下さい」と追い返そうとしたが、「いいじゃないか、『パパとママがお風呂に入ってる』としか思わないよ」とどこ吹く風、由香里からシャワーヘッドを取り上げると、「ああ、気持ちいい」と自分の体に湯を掛けている。

呆れた由香里が「もう、知りませんよ」と浴室から出ていこうとすると、「ダメだよ」と腕を掴んで抱き寄せ、「久し振りじゃないか」と体を合せてきた。
子供たちは2階の子供部屋にいるが、いつ「ママ!」と降りて来るか分からない。「あ、あなた、ダメ、ダメですよ」と腕を振り払おうとしたが、それより先に、「あれ、お腹、ちょっと出てきたな」と夫に気にしていることを言われてしまった。

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当年とって40歳。おっぱいは垂れてくるし、お尻も下がり、括れも危うい。下腹部の膨らみなんて、それらに比べたら小さい、小さい。
「あなただって、お腹がでているじゃない」と言い返したが、「男はそんなことを気にはしない」と開き直り、「これが元気なら、いいんです」と硬くなってきたペニスをグイグイと押し付けてきた。
彼は3つ年上の43歳。やる気を見せたのは久し振りだから、ここで拒むのはヤボというもの。

「あ、イヤ、イヤ、ダメよ、ダメ。こんなところじゃ」と口では言うが、バスタブの縁に腰を掛け、脚を大きく開くと、「可愛いなあ、お前は」と左手で太腿を抱え、右手を割れ目にあてて中指の腹で撫でながら、クイクイと中を掻き回す。

長年連れ添った夫婦だから分かる勘所。たちまち、「あ、あ、あ、あああ……」と甘い吐息が漏れる由香里の頭から子供たちの顔が消え、体が「い、いい、いいわ、気持ちいい……」と捩れる。

頃合いだ。
夫は右手を抜くと、勃起したペニスを掴んで口を開けた割れ目に宛がい、腰を突き出し、そこに挿し込んだ。

狭い浴室だが、二人にとっては謂わば「天国への入口」だ。二人は腰を緩らして、
「ああ、あなた、いいっ、逝きそう、いいわぁ、あなたぁ…逝く、逝く……」
「お前、いいよ、僕も、僕も、い、い、逝くよ……」
と喘ぎながら昇り詰めていった。

イケメン

笠間由香里は以前は高校で数学を教えていたが、結婚を機に退職し、今では進学教室で教えている。だが、その教え方はとても厳しく、「もう10月なのよ。のんびりしていたらダメでしょう!」と、今日も甲高い声が大教室に響き渡る。

だから、「太一君、第3問の答えは?」と指されると、それだけでビビッてしまい、頭は真っ白。最後は「あ、え、わ、分かんない」と泣き出してしまうが、「バカ!さっきヒントを教えてあげたでしょう。しっかりしなさい!」と容赦ない叱責が飛ぶ。

それが、何時しか進学教室の名物に、そして、「由香里先生に教われば必ず志望校に合格する」と言う都市伝説まで出来上がり、今では、「由香里先生は受験の女神様」とまで崇められていた。
でも、そんな「受験の女神様」も「全知全能の神」ではない。

「笠間せんせー」と明るいあの声が背中から聞こえてきた。「え、あ、あの、い、一之瀬君……」と振り向く由香里は既に頬が赤い。
相手は昨年から同じ進学教室で英語のアルバイト講師をしている大学3年生、21歳の一之瀬謙治なのに……

えっ、そんなことがあるの?と疑う方は多いだろう。だが、由香里は元々ロマンチックな恥ずかしがりやの女の子だった。それが「教師」となった以上は弱みを見せてはいけないと、仮面を被って、わざと怖い顔をしていただけなのだ。

だから、お気に入りのイケメンに「あの、生徒から進路について聞かれまして、どう答えたらいいのか教えて欲しいんです」なんて聞かれたら、ドキドキして、たちまち顔が赤く火照ってしまう。そんなところは、他人に見せられない。

慌てて顔を伏せると、「そ、そういうことなら、教務の岡田先生にお願いして」と、もう蚊の鳴くような声。「いやあ、でも」と粘る一之瀬君を置き去りにして、「急ぐから、ごめんなさい」と教材を抱えて、小走りに逃げ出した。

訳が分からぬ彼は「何だよ、ケチ!本当に困ってんだから」と頬を膨らませたものの、背に腹は代えられない。「だけど岡田先生じゃ、一般的なことしか言ってくれないんだよなあ……」とブチブチ文句を言いながらも、教務室のドアをノックしていた。

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年甲斐もなく

由香里の子供は中学校2年生と小学校5年生、どちらも男の子。
しかし、中学2年の長男、優は生意気盛り。「ねえ、このお兄さん、イケメンでしょう?」なんて話し掛けると、「いい年して、バッカじゃねえの」と、母親の話など、端から聞きもしない。だが、小学5年の次男、明はまだまだ素直。「ママ、ちゃんと写真を見せてよ」と話に乗ってきた。

(可愛いんだから……)
ニッコリ笑った由香里が「これ、これ」とその写真を見せると、「カッコいいね」と、嬉しいことを言ってくれる。思わず、「本当に?」なんて言っても、「本当だよ」とクッキーを頬張る。そして、目をキラキラさせ、「そのお兄ちゃん、誰なの?」と、大事なことを聞いてくれた。

だから、由香里も「ママと同じ進学教室の先生なのよ」と秘密も打ち明けた。すると、彼は「へえ、先生なんだ」と写真とママを見比べ、それから「へへへ」と笑った。
「ねえ、ママ」
「なあに?」
「デートしたの?」

そう聞かれて、由香里は年甲斐もなく顔を赤らめてしまった。
「あれ、好きなの?」と明に冷やかされてしまった。まだ小5だけど、やはり、こういうことには興味があるらしい。
「ち、違う、違うったら」
そう言っても由香里の顔は緩みっぱなしだった。

その手があったか

「あははは、そうですか。手紙ねえ……く、くく、くくく、いや失礼」
「なあに、笑うのは当然ですよ。こんな35歳の男に、中1の女の子が『好きです』なんてラブレターを寄こすんだから。これで、『僕もそうです』なんて返事でもしたら、それこそ犯罪ですよ」

講師控室では男性二人が大笑いしていた。
彼らは現役の高校教師。この進学教室でアルバイト講師として教えていた。
同じ控室で授業の準備をしていた由香里は、いたたまれず、その部屋を飛び出した。

(あのバカは35歳、相手は中1の女の子、22も違うのよ!
 私は40歳、一之瀬君は21、19しか違わないじゃない……)
しかし、洗面台の鏡に映る顔を見れば、どう見てもおばちゃん。色恋なんか語ったら、物笑いの種にされてしまう。

「ねえ、ジムに行っているの」
「えっ、結果にコミット?」
「バカ、あんなに高いところじゃないわよ」
笑いながら20代の教務室の職員がトイレに入って来たが、由香里の顔を見ると、「すみません」と言って出て行った。

(ジムか……そういう手があるわね……)
夫から「ぽっこり」と言われたお腹回りを擦りながら、由香里はあれこれと思いを巡らせていた。
「あ、あの、笠間先生……」と恐る恐る訊ねても、「ふふふ」と笑ったり、「え、どうしたの?」なんて優しい声で聞き返してくれる先生のことを、子供たちは何と思ったか。その日、由香里は授業に全く身が入らなかった。

(続く)

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