こちら週刊エキサイトです-最終話 2630文字 バロン椿

こちら週刊エキサイトです-第4話

インターネット時代、もはや紙媒体は消えゆく運命か?
低調な売上に悩む「週刊エキサイト」は花形のWeb事業部次長の佐々木を編集長に迎えたが、やる気を失った古参記者たちにお手上げ。
そこに、やり手の樋口恵理子局長が「見てらっしゃい!」と乗り込み、実録「あなたの知らない熟女の性」路線を打ち出し、売上は急上昇。
しかし、思わぬ出来事が……

作家名:バロン椿
文字数:約2630文字(第4話)
管理番号:k108

反響

事実に拘った週刊エキサイトは売れに売れている。
「増刷?もう次が出るってよ!」
「あなたの知らない熟女の性」と名付けた連載記事はあちらこちらで話題となっていた。
第1回は「男を狂わす人妻の唇」。

「私は立っていられなかった。人妻の彼女が『フフフ』と笑い、私の亀頭を……ダメだ。思い出しただけでペニスが硬くなってしまう……」
こんな書き出しの、思わせ振りな写真を入れた4ページに、
「ねえ、読んだ?」
「うん、旦那が買ってきたのよ」

「うちもそうよ。あんなの恥ずかしくて買えないわね」
と主婦たちの反応も控えめだったが、
次の「不倫?処女じゃないのよ」では、
「やっぱり読みたいわよ、ねえ」と書店、コンビニ、駅売りに男性に交じって女性も買う姿がよく見られるようになった。

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そして、第3回目は
「私は女、それでも若い男が好き」、このフレーズが効いたのか、今週も週刊エキサイトは完売だった。
「坂本君(仮名)は新入社員。彼は入社早々の歓迎会で酔い潰れ、
その晩、童貞を卒業した。相手はその職場で「お局」と呼ばれている40過ぎのバツ一女、A子。

『みんな、坂本君は私が送っていくから心配しないで』
職場の者たちはA子の言葉に安心して家路に着いたが、これがA子の思う壺。
A子の心を許せる友達はただ一人、『達也』と名付けたバイブだけ。

『達也さん、入れて……ああ、もっと、もっとよ……』と、夜な夜な「達也」と仲良くしていたが、今夜は坂本君を掴まえた。坂本君のペニスは硬さと長さでは『達也』に負けるが、しなやかさと温もりでは数段も上。だって、どんなに仲良くしても『達也』は作り物、坂本君のは本物。膣で感じる射精のビュッ、ビュッという激しさ。それに、若いから何度でもできる。

A子は坂本君を手離せなくなった」
「男は硬くなくちゃね」
「そうよ、若い子に限るわ」
とコーヒーを啜る女性たち。

「しかし、女ってすげえよな」
「俺も坂本君になりたいな」
「バ~カ、もう歳だろう。月に1回でも出来ねえだろうに」
とタバコを咥えるおじさんたちが、話題は週刊エキサイトで持ちきりだった。

「いやあ、凄いね。今週も週刊エキサイトが一番だ。佐々木君、やったじゃないか」
局長・編集長会議に社長が出ることなんか殆どないのに、社長はどうしても褒めたくて出てきた。
「これで2ケ月間、売上ナンバー1の座を譲らないなんて、週刊誌業界でもなかったことだよ」

褒められた佐々木編集長は寝物語に樋口局長から経緯を聞いていたので、
「ははは、社長。あいつらもやる気を出せば出来るんですよ」なんてへらへらと答えていたが、“恵理子様”こと樋口局長は顔を引き攣らせていた。

あの晩、割烹旅館「若松」での緊急企画会議で焚きつけたとはいえ、やる気の感じられなかった週刊エキサイトの編集部員が、翌朝持ってきた記事、「男を狂わす人妻の唇」、「不倫?処女じゃないのよ。」、「バツ一の楽しみ」など、どれも手を入れる必要の無いものだった。それはそれでいい。しかし、「すみません。これもお願いします」と遅れて洋子ちゃんが持ち込んできた、この原稿だけは……“恵理子様”は独り会議室を抜け出した。

さすが、社長だ

「洋子ちゃん、これってどういうこと?」
応接室に洋子さんを呼び出した樋口局長は持ってきた「会社では私が上司、でもベッドではあなたが上司」と見出しのついた原稿をポンと投げ出した。
「あ、あのいけませんでしょう?……」
普段は物静かな“お局さま”。酔ったら怖い“お局さま”だが、素面だと、他人に意見するなど出来ない洋子さんは顔を青くして震えている。

「彼は私の部下です。『ダメじゃないの!』と叱ってしまうことが沢山ありますが、お家に帰ったら、『こら、尻を出せ』って言われ、太いベニスで突かれるんです……腰を掴まれ、彼の亀頭が私のに触れてきた時、『あ、あ、まだ濡れていないの』と泣きましたが、彼は待ってくれないんです……」

唇を震わせ、原稿の一部を読んだ樋口局長は怒りで唇が震えている。
「こんなものを書いて、何が『いけませんでしょうか?』、よく言えるわね」
「いえ、じ、事実を書こうと思いまして」
「何を言っているの。い、いくら『事実に迫れ』と言ったって、私たちのことを勝手に書いて。プライバシーくらい守りなさいよ」

彼女の怒りは収まらず、応接室の外では編集部員たちが固唾を飲んで聞き耳を立てているが、そんなことをしなくても、その声はガンガンと響いてくる。
「やばいなあ」
「うん、洋子さん、泣き出しちゃうよ」

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「でも、あんなこと書いたら、やっぱり怒られるわよ」
編集部員たちも気が気でなかった。ところが、聞こえてきたのは、確かに泣きそうな洋子さんの声だが、内容は「あ、あの、私が書いたのは恵理子さんたちのことではなく、私と社長のことなんです」という驚くべきことだった。

「え、しゃ、社長と……」
「は、はい、私と社長です。私を上司、社長を部下にして」
「えっ、あ、そ、そう……だったの」

樋口局長と佐々木編集長の仲がタブーなら、洋子さんと社長の仲は最高機密。しかし、週刊エキサイトの危急存亡の秋、洋子さんもひと肌脱がなければいけないと、謂わば“清水の舞台から飛び降りる”覚悟の作だった。

全くの勘違い。樋口局長は振り上げた拳を下ろすところが無くなってしまった。
外で聞いていた編集部員たちも「『酔ったら怖い者無し』なんて言われていたけど、そんな秘密があったのね」、「私も知らなかった」と囁き合っていた。
そんなところに、「ちょっとすまんな」と、何と、当の社長が現れた。

社長は「まあ、な、そう言うことなんだよ」と照れ笑いを浮かべ、「入るぞ」と応接室のドアを開けた。
中では、樋口局長と洋子さんが向き合っていたが、「ははは、すまんな、恵理子。俺が恥かしいから『上司と部下は入れ替えてくれ』と言ったんだ。しかし、恵理子と佐々木になってしまうとは。俺も考えが浅かった。いや、誠に申し訳ない」と社長から頭を下げられたら、文句を言う輩などいない。

樋口局長は「あ、いえ、そういうことは」と言葉に詰まり、社長との仲を隠す必要が無くなった洋子さんは社長の胸に飛び込み、わあわあと声を出して泣き出してしまった。

そんな様子を、応接室を覗き込む編集部員にばっちり見られてしまった社長は「まさか、こんなに売れるとはなあ」と照れ笑いしていたが、「よし、こうなったら、今夜は『若松』で大宴会だ。幹事は……おお、『男』になった伊藤君、君に頼むぞ」と大英断を下した。

(終わり)

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