我愛你-第11話 2400文字 バロン椿

我愛你-第11話

39歳の主婦、高木弥生は4つ年上の夫、壮一、一人息子で中学一年の智之と小田急線新百合ヶ丘の一戸建てにつつましく暮らしていた。
だが、大学の先輩、大手商社に勤める寺田麗子の昇進祝いの会で、中国からの研修生、27歳の王浩と出会ってから、人生がガラッと変わってしまった。
王は優しく、かつての夫のようにグイグイと引っ張ってくれる。そんな王と男女の関係になった弥生は彼とは離れられなくなっていた。
編集注※「我愛你」は中国語で (あなたを愛しています)の意味

作家名:バロン椿
文字数:約2400文字(第11話)
管理番号:k098

姫始め

「あ、あ、ハオ、ハオ、あ、あ、あああ、い、逝っちゃ、逝っちゃう……」
王に抱かれた弥生は激しく身悶えている。
小田急線中央林間駅からそれほど遠くないラブホテルの一室。外は冷たい風が吹き抜ける厳しい冬だが、ここは全くの別世界。

その「ミィシォン、愛你、愛你……」と弥生を抱えた王の腰がしなやかに動くたび、ペニスが膣に深く入ったり、抜けそうになったり、性器同士の擦れ合いは、快楽の大きなうねりとなって二人に襲いかかる。

そして、間もなく、「ダメ、ダメ、あっ、あ、ああああ……」と体を大きく仰け反らせる弥生に、「ミ、ミィシォン……」と呻く王が、「うっ……」と息を吐くと共に、ガクガクと腰が崩れ、最初のセックスは終わりを告げた。
体を交えるのは箱根湯本以来、1ケ月振り。「ふぅ……」とペニスから抜き取ったコンドームには王の精液がたっぷりと溜まっていた。

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ベッドに横たわる弥生は夢見心地のまま、「ハオ……」と呟くと、隣に寝転ぶ王が「ミィシォン……」と手を握ってくれた。幸せ……しかし、金子めぐみのことが、ふと頭に浮かぶ。
もし、私たちのことがバレたら、麗子さんに何と言われるか分からない。弥生は急に現実の世界に引き戻された。

ハオは知っているのかしら?
昨日、「明日は中央林間駅で待っててね」とメールを送ったが、「了解です\(^^)/」と返ってきただけで、「鶴川駅じゃないの?」とは聞いてこなかった。もっとも、彼の住む小田急相模原からは2駅だから、近くて助かったとでも思ったのだろうか。でも、気になる。

王の方に寝返りをうった弥生は、「ねえ、部長さんって忙しいの?」と彼の脇腹をつつくと、「えっ、吉川部長?」と弥生を見た王は不思議そうな顔で、「何でミィシォンがそんなことを聞くの?」と逆に聞き返してきた。

その瞬間、「あっ、知っているのね」と思った弥生は誤魔化すため、咄嗟に「だって、電話がある麗子さんが『部長が忙しくて』と嘆くからよ」と頬にチュッと唇をつけた。すると、効果は抜群。一瞬にして笑顔に戻った王は、「ははは、やっぱり。そうでしょう、そうでしょう。会議に出張ばかり。寺田さんは、『少しは時間を空けて下さい、相談も出来ません』といつも怒ってますから」と屈託なく笑った。

それを見て、やっぱり知らないんだ。重要人物の不祥事は機密扱いってことね。それなら、教えない方がいいわ……と思った弥生は、「ねえ、麗子さん、好きな人はいないの?」と話題を変えると、王も「えっ、それはミィシォンにも内緒さ」と直ぐに乗ってきた。
もう、しかめっ面の話は嫌。

「いじわる。教えてくれてもいいでしょう」と王の脇腹をくすぐると、王も仕返しとばかりに弥生のおっぱいに手を伸ばす。
「あ、ハオ、まだダメ。お話が終わってない」
口では「ダメ」と言いながらも、脚が開く弥生。王との2度目のセックスは既に始まっている。

妊娠

「1月下旬から2週間、西安に帰ってきます」
別れる時、王はそう言っていた。
そうよ、春節よ。中国人が最も大切にする祝日だから、国内はもとより、世界各地から故郷に戻ってくるのよ。ハオも毎年この時期に2週間の休暇を取って帰省しているって言ってたわ。でも、今年は大丈夫なのかしら?毎日、テレビでは「新型感染症が大流行」と言っているけれど……

心配になった弥生は電話でそう伝えると、「ははは、武漢だけだよ。西安は大丈夫だから。お土産を沢山買ってくるから」と王は笑っていた。そして、予定通り、彼は春節の大晦日に当たる2020年1月24日に成田から飛行機に乗っていった。

だが、心配した通り、「新型感染症」は武漢だけでは収まらず、「新型コロナウィルス」と名付けられ、中国全土に広がり、1月27日からは、中国から海外への渡航が全面禁止となり、王は当分の間、日本に帰ってこれなくなった。
「元気?」と毎日、中国版LINEの微信を通じ、メールを送ると、「你好、元気だよ」と返ってくるが、とても心配。それになにより会いたい。

しかし、彼のことより、弥生は熱っぽく、怠くて体調が思わしくなかった。
「どうしたんだ? 風邪か? インフルエンザだといけないから病院で診てもらいなさい」
朝、夫は出掛けにそう言って出勤して行ったが、そうではないことは分かっていた。順調だった、生理が来ない。念のため、ドラッグストアで市販の妊娠検査薬を買い、試してみると、思った通り、陽性だった。

年末に夫とコンドーム無しでセックスをしたが、その時では無い。王と過ごした箱根湯本の夜の結果でしかない。
それでも、検査薬の間違いであって欲しいと願って病院で検査を受けたが、「おめでたです」と祝福されてしまった。

「そうですか」と浮かぬ顔をすると、「中絶する場合にはご主人の同意書を」と言われたが、「いや、あ、あの」と口籠ると、「あら、ごめんなさい。お相手の方の同意書です」と言い直してくれたが、何だかとても嫌な感じだった。

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家に帰ってきても、何も手に着かない。
どうしよう? 中絶するには、夫の同意書が必要だ。インターネットで調べると、同意書が要らないところもあるらしいが、費用のことを考えると、自分だけでは出来ない。かと言って、「男の人と寝てしまいました」なんて夫に言える訳がない。

「ねえ、聞いた、高木さんの奥さんのこと?」
「うん、ビックリ。嫌ねえ、若い男と出来ちゃったんだって」
「おしとやかな感じがするのに」
「人は見かけによらないものね」

近所の人たちが陰口を叩く様子が目に浮かぶ。息子の智之に何て言えばいいのか……顔は青くなるどころでない。いくら悩んでも、答えが見つからない。もう黙って家を出ていくしかないと思った時、「えっ、血液型? A型だよ」と寝物語に王が言っていたことが頭に浮かんできた。
私もA型、夫はO型だから、血液型でトラブルになることは殆どない……そんなことを考え弥生はお腹に宿した子供をこのまま産もうと思い始めていた。

(続く)

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