私の「ヰタセクスアリス」-最終話 4550文字 バロン椿

私の「ヰタセクスアリス」-第9話

私ももうすぐ55歳。そろそろサラリーマン生活も終わりが見えてきました。でも、あっちの方はまだまだ引退するつもりはありません。
明治の文豪、森鴎外は自身の性的な体験を「ヰタセクスアリス」という小説に書き上げていますが、私も森鴎外先生を真似て、自分の性的な体験をまとめてみました。
つまらぬ話ですが、是非お読み頂ければ幸いです。

作家名:バロン椿
文字数:約4550文字(第9話)
管理番号:k096

日式カラオケ

〝王冠〟は高層ビルの5階、豪華な入口があり、ママと女の子たちが「いらっしゃいませ」と日本語で迎えてくれました。
カラオケ装置は日本から輸入しているので、リモコン等は日本と全く同じだが、日本と違って部屋はかなり広く、一人一人のテーブルが別で、それぞれにフルーツ、簡単なおつまみが用意してありました。

「浅井さん、離れ過ぎて話ができませんね」
「椿さん、ここは中国ですよ。狭くちゃダメでしょう。ははは。アルコールは飲み放題ですよ」
そこへママが20人程の女の子と一緒に入ってきました。

「あら、浅井さん、お久しぶり」
「いや、ママ、ご無沙汰です。いい店ですね」
「ええ、私の思う通りに飾り付けしましたから、ふふふ。今夜は楽しんで下さいね」

女の子たちは正面に横一列に並んだままで、ビールを飲みたいのに、誰も私の方に来ませんが、その時、「お相手は決まりましたか?リボンを付けている子はお店だけですよ」とママが微笑みました。

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「最初は椿さんですね。好みの女の子を選んで下さい」
「えっ、私からですか?」
「そうですよ。後がつかえてますから、早く決めて下さい。リボン無しですよ、ははは」

そう言われて指名した女の子は、AKBの高橋みなみさんに似た20歳代半ばの可愛い子でした。一人一人毎にテーブルが別になっていますから、もう、浅井社長も横山さんも私のことなんか気にしていません。でも、これこそ、最高の接待です。

何を歌うか、何を飲むかなんかどうでもよく、「那那(なな)です」と名乗った高橋みなみさん似の女の子と親しくなるため、手掛かりを求め、「可以微信?(WeChatは使えますか?)」と聞くと、「えっ、凄い!」とアドレス交換は快諾してもらい、さっそく「漂亮(きれいだ)」なんて口説き文句を連発して、3時間1セットを楽しく過ごし、ホテルでの本番に突入となりましたが、「椿支店長、ホテルのカードキー下さい」とカラオケクラブのフロントで横山さんが集め始めました。

「どうするんですか?」と私が訊ねると、「まあ、彼に任せておきましょう」と浅井さんはニコニコして横山さんにカードキーを渡していました。
「ホテルに同伴では入れません。ですから、女の子たちは後から来ます。あのママは、こういうところは裏切らないから大丈夫。ちゃんと女の子にカードキーを渡してくれますよ」

私たちの宿泊しているホテルは一流。そんなところには「お持ち帰り」はフロントでストップ出来るが、カードキーを持ってる女の子はストップ出来ない、そういう理屈だそうです。
そして、30分後、「こんばんは」と女の子が部屋にやって来ましたので、「晩上好!(こんばんは)」と私は中国語でお迎えしました。

服装はTシャツにミニスカートの上にパーカーを羽織り、髪もお店ではピンで留めていたが、今は肩まで垂らしています。
さっそく「漂亮!(きれいだ)」と褒めると、「謝謝(ありがとう)」と中国語で返ってきました。

そして、裸になると、やはり20歳代半ばです。おっぱいもお尻も張りがあり、下腹部もすっきり。とてもきれいな体ですが、まだ熟していないことがやや不満。でも感じ易く、「アッ、アァァァ、ハオ(いい)、ハオ(いい)、ア、アッ、アァァァ……」と、当たり前ですが王玲さんと同じように中国語で喘ぎます。

でも、いざ、その時が来ると、「あれをして下さい」などと、“こんな日本語、誰が教えたの?”と思いたくなる言葉が出てきました。
しかし、それ以上に「え、どうして?」と思ったのは、ベッドサイドにコンドームが用意されていたことです。ラブホテルではありません。一流のシティホテルなのに〝気が利いた〟品物が置いてあるとは、さすが、中国です。

味わい深い北京

「橋本さん、何か付け加えることはございますか?」
「いやいや、皆さんが大変一生懸命に取り組んで頂いていることがよく分かりました。ご苦労さまです。何も付け加えることはありません」
午後2時前、天津での会議は全て終了し、天津―北京間の高速道路をぶっ飛ばし、いざ、北京へ。

「今朝、すごい光景を目にしました」
「どうしたんですか?」
「散歩からホテルに戻ってきたら、ちょうど現金輸送車が到着したんですよ。日本でしたら、小さな警棒を持ったガードマンが先導しますが、ここではマシンガンを持っていたんです。びっくりしましたよ」

「確か銃の所持規制がありますから、マシンガンではなくゴム弾だと思いますよ。まあ、それにしたってすごいですよね」
横山さんが説明している時、隣の車線を「武装押运」とボディに大きく記した車が通り抜けて行った。

「ほら、あれが現金輸送車ですよ。『武装』なんて、漢字だからよく分かりますから、余計にびっくりですよね」
「本当に、そうですよね」
「治安は悪くはないのですが、何が起こるか分からないってことでしょう」

私も浅井さんもその車を目で追いながら、ここでも「なるほど」と納得してしまった。
しかし、ブル、ブルブル、ブルブル……とスマホが鳴り止みません。
昨夜の那那さんからです。さっそくWeChatでメールを送ってきます。

「やっぱり支店長ですね。東京からですか?なかなか解放してくれませんね」なんて、浅井社長は感心していましたが、とても本当のことは言えません。
車はいよいよ天安門に近づく。外を眺めていると、「ここが有名な王府井(ワンフーチン)です。日本で言えば銀座です」と横山さんが説明してくれました。

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「あそこにあるビル、見えますか?あのビルで売っているのは全て“ぱくり商品”ですよ」
銀座で“ぱくり商品”、日本では考えにくいが、ここでは色々なものが混じっている。

「官庁街ですが、ほら、あそこにバラックがあるでしょう。オリンピックで整備しましたが、あまりに急に世の中が変わるので、ついていけない人たちもいて、超近代的なビル街の一角にも、ああしてバラックが残っているのかなと思いますよ」
天津はまだまだ古都の雰囲気が残っていましたが、北京は凄いスピードで改造され、古い城壁などはほとんど残っていません。

「日本とは違い、役所が決めたら絶対ですから、家は立ち退き、道路も直ぐに出来てしまいます。古い中国を見ようとすれば、北京なら郊外、それよりも天津とかの地方都市、そして、やっぱり昔の長安、今の西安でしょうね」
午後5時過ぎ、車は天安門の前を通りましたが、まだまだ観光客であふれています。

「今夜の宴席の店は凄いですよ。『全聚徳』と言って、首脳会談で中国に来た要人は必ずこの店で北京ダックを食べてます。アメリカのニクソン大統領も日本の田中角栄首相もです」
「そんな高級店に連れて行って頂けるんですか?」
「いや、とても庶民的な感じの店で、天津の海鮮レストランの方がよっぽど高級店の雰囲気ですよ」

夕暮れの中、車は「全聚徳」の駐車場に到着しましたが、家族連れの車が列を作って待っていました。
「まるでファミレスみたいですね」
「そうでしょう。まあ、偉い人が来る時は、全て貸切じゃないですか。普段は、本当にファミレスの雰囲気ですよ」

しかし、世界に鳴り響く「全聚徳」、料理はファミレスではありません。
「北京ダックと言ったら、皮を食べるものと思っていましたが、肉も食べさせてくれるんですね」
「ここの北京ダックを食べたら、死んでもいいと思いますよ。なんて言ったって、ニクソン大統領や田中角栄さんと同じものが食べれたんですから」

トイレにいく途中、廊下には大平首相を始め、世界の要人が訪れた時の写真が飾ってあり、食事を終えて部屋を出ると一人一人に絵葉書が配られました。

「いやあ、一生の思い出ですよ。いいですね、こんな葉書まで貰って」
「橋本さん、そこにシールが貼ってあるでしょう?」
「ええ、なんか番号が書いてありますね」
「それ、今日、私たちが食べた北京ダックの番号なんですよ。これまで何匹のアヒルが調理されたか、分かるようになっているんです」
「凄い数ですね。とても数えられないですよ」

食事を終えた家族連れも私たちと同じように絵葉書を眺めていました。
13億の人々が食べるのですから、番号はとんでもなく大きな数で、とても数えられません。

そして、その夜もカラオケに。しかし、「椿支店長、ここは天津とは違って、『お持ち帰り』はできませんが、よろしいですか?」と横山さんはニヤッと笑いました。でも、「蛇の道は蛇」です。抜け道は必ずあると思っていました。

天津と同じように、ずらっと並んだ女の子から選んだのは、女優の真木よう子さんに似た30歳代後半の女性。直ぐに、「可以微信?(WeChatは使えますか?)」とアドレスを交換し、その店では「可以電話?(電話していい?)」と聞きました。「イヤ」と言うはずがありません。「可以(OK)」です。だから、ホテルに帰ってから電話で誘うと、「行くから、待ってて」と日本語です。「雪蘭(シュェラン)」という名前でした。

30分程して「ブー」とインターフォンが鳴り、ドアを開けると、「スケベ」って笑いました。ははは、万国共通の言葉です。でも良かったなあ、彼女は。天津の那那は若くてピチピチでしたが、熟していない。でも雪蘭は30歳代後半、おっぱいは大きく、括れもあって、熟女です。「アッ、アァァァ……」と喉仏を見せて喘ぎ、「ハオ、ハオ……」と身を捩る。思い出してもチンチンが硬くなります。だから、今もWeChatで連絡を取り合っています。

エピローグ

あれやこれやありましたが、私もそろそろ55歳。銀行員生活も終わりに近づいてきました。仕事の総仕上げに掛からねばなりませんが、女性の方はまだまだ分からぬことが多く、卒業はできません。

王玲さんとのお付き合いもありますが、最近、新たな目標が出来ました。
それはタクシードライバーの小野寺(おのでら)弓子(ゆみこ)さんです。
出会ったのは駅前のスナック。友人と飲んでいた時、彼女も隣のテーブルで女友達と飲んでいました。

年齢は40歳代半ば、美人ではありませんが、僅かに肩にかかる髪を少し茶色に染めた、一緒にいると落ち着く、そんな感じの女性でした。
その時は初対面でもあり、1時間ほどで、「また、ご一緒出来れば」てな感じでお開きになりましたが、まあ、偶然とは続くものです。
3日後、流しのタクシーを拾うと、「あら、椿さん」と運転席から声を掛けられました。

なんと、彼女です。
先日はスナックで会ったばかり、自己紹介と言っても名前を伝えるだけでしたが、まさか、タクシードライバーとは……運転席の横に「運転手:小野寺弓子」と掲示してありました。

こうなると自然と自分のことを詳しく話してしまうものです。
私が東西銀行に勤めていると言うと、「椿さんが銀行員なの」と笑いを堪えていました。大きなお世話です。

でも、いいんです。銀行では「支店長」なんて、皆が役職名を付けて呼び、常に敬語で、嫌になる程、気を使ってくれますが、彼女は「椿さん」、「ははは、バカなことを言って」、「本当に支店長なの?」と遠慮なしです。普段着のお付き合いをできますから、心から笑えます。

だから、早く衣を脱ぎ捨て、裸の付き合い、あれ、いや、全裸の付き合いをしたいと思います。
大丈夫かって?ええ、もうすぐ55ですが、薬なんか無くても2度はできますから、ご心配なく。

(終わり)

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