合宿の夜は眠れない-第1話
大学2年生の尾崎幸雄はサッカースクールの夏合宿に臨時コーチとして参加したが、そこで思いがけず、初体験の相手、太田咲江と再会した。
会うのは2年振り。早くも、股間が疼くが、合宿参加者は小学生やその付き添いの母親、そして、スクールのコーチ陣など、総勢70名。
そんな大勢いる中で、密会するのはヒヤヒヤものだが、その分だけ燃える。しかし、そこには思わぬ落とし穴が……
作家名:バロン椿
文字数:約3070文字(第1話)
管理番号:k093
偶然の再会
恒例の3泊4日の夏合宿が始まる。
参加者は小学生は52人、それに付き添いの母親が8人、スクールからは女性マネージャーが2名、コーチ陣はヘッドコーチの下、6名の専属コーチとアルバイトの大学生が1名、総勢70名が、「歓迎 ボーイズサッカースクール御一行様」と掲げられた通り、この旅館「やまうち荘」を借り切っている。
2台のバスから降りてきた子供たちが玄関に貼り出された部屋割り表を見ていると、ピーと笛が鳴った。
「おーい、集合だ」
「はーい」
早くボールを蹴りたい子供たちはコーチの呼び掛けにも素直だ。
「いいか、部屋に入ったら、バッグは決められた場所に置くんだよ」
「はーい」
「よし、解散」
女性マネージャーと付き添いの母親たちが手分けして子供たちを連れていくと、ボールや目印用のコーンポール等の練習用具がその場に残るが、それをグラウンドに運ぶ裏方仕事はコーチの仕事。しかし、それは「おい、頼むな」と全て尾崎(おざき)幸雄(さちお)に回ってくる。彼はこのスクール出身の大学2年生。臨時コーチとして参加している最若手だから、「酷いな、全く」と文句の一つも言いたくなるが仕方がない。取り敢えず、自分のバッグなどは玄関脇に置き、リヤカーを借りて、それらを積んでいると、「幸雄君?」と背中から聞き覚えのある声がした。
振り返ると、そこには、初体験の相手、太田(おおた)咲江(さきえ)が立っていた。
会うのは2年振り。以前は肩まであった髪を短くボブにしているが、優しい目、エクボのある頬、そして唇、何も変わっていない。
「えっ、あ、さ、咲江さん」
「やっぱり幸雄君だったのね」
「あ、あの、ご無沙汰しています」
「ほんと、久し振りね。サービスエリアで見かけた時、ひょっとしたらと思ったのよ」
幸雄は彼女とは別のバスだった。
「付き添い?」
「うん、末っ子の」
「守君?」
「そう、よく覚えているわね」
忘れる筈がない。毎週のように会っていたのだから、長男も次男も名前は寝物語によく聞かされていた。しかし、それにしても眩しい。夏らしい花柄のワンピースにミュールだが、その下に隠されている形のいい乳房、少しふっくらとした下腹部、濃い目の陰毛が幸雄の瞼には浮かび、股間が膨らんでくる。
「咲江さん、早く」と中から呼ぶ声がする。「はーい、今、行きます!」と答えた彼女は、「後でゆっくりね」と小さく手を振り、旅館の中に入っていったが、幸雄はその後ろ姿を目で追いながら、3年前の、あの“熱く甘い夜”を思い出していた。
スキー宿
「みんなでスキーに行くんだ。冬休みだろう、お前も一緒に来いよ」
3年前の冬休み、高校2年生の幸雄はお世話になったボーイズサッカースクールの金子コーチから誘われていた。
「誰が行くんですか?」
「山本さん、吉田さん、飯山さん、俺と杉山マネージャー、それにお母さんたちだ。忘年会を兼ねているけど、昼間はスキーだ。楽しいぞ」
幸雄は高校のスキー教室への申し込みをうっかり忘れていたので、この話は大歓迎だった。
「金子さん、よろしくお願いします」
「そうか。じゃあ、これが旅行のしおりだ。ちゃんとお母さんに話しておけよ」
スキーが初めての幸雄はきちんと基礎から教えてくれると思っていたが、そこはサッカースクール。運動神経抜群のコーチたちがいちいち手取り足取り教える訳が無い。
誘ってくれた金子コーチなどは「俺たちは上級コースを滑るから、じゃあなあ、尾崎」と言い残して、さっさと行ってしまった。
参加しているお母さんたちも殆どがスキー経験者、残っていたのは、幸雄と同じくスキー初体験の保育士の太田咲江だけだった。
「幸雄君、私と一緒にスキースクールに入って」
「え、だけど」
幸雄は正直に言って嫌だった。スキーを上手くなりたいと思っても、おばさんと一緒では易しい斜面しか滑れない。
だが、「お願い」と涙目で言われると断れないのが男の常。それは大人でも高校生でも変わらない。
「分かりました」と返事はしたものの、初級者コースのレッスンが始まると、「助けて!」、「立てないのよ、幸雄君、手を貸して」となんでもかんでも頼ってくる。それに、スキーウェアだけが目立ち、何をやっても格好が悪い。
1時間もしないうちに、「何だよ、このおばさんは」と引き受けたことを悔やんでいた。
しかし、こういった時には逆に幸運が舞い込んでくるものだ。
「幸雄君、一緒にご飯食べよ」とお昼ごはんはご馳走してくれるし、レッスンが終われば「お茶しよう」とケーキも食べさせてくれた。そして、ゲレンデではスキーキャップを被っていたから分からなかったが、それを取ると、茶色く染めた髪がふわっと広がり、暖房で赤みを取り戻した頬に掛かる。
美人だ。
保育士さんって聞いたけど、いいなあ。
僕も子供だったら、「先生」なんて言って……
ふと、そんなことを考えていると、リップクリームを塗っていた咲江が「明日も一緒にスクールに入ってくれる?」と小首を傾けている。
うわー、なんて素敵なんだよ!
幸雄は即座に「はい、早起きして、僕が申し込んでおきます」と答えていた。
でも、嬉しいことはこれだけではなかった。
夕食の時、食堂に行くと、
「咲江さん、喜んでたわよ。『幸雄君が助けてくれて、ボーゲンだけど滑れるようになった』って」
「そうよ、お風呂に入っても、幸男君なのよ。『幸男君って優しいのよ』って、もう大変」
とお母さんたちに取り囲まれ、中には「幸雄君は咲江さんの恋人ね」なんて冷やかす人までいて、幸男は恥かしくて、顔が赤くなってしまった。
そこにニットのセーターに着替えた咲江が現れたが、格好の弄り材料を前にお母さんたちが遠慮する筈がない。「あらら、噂をすれば」と幸雄の手を取り、二人を強引に並んで座らせてしまった。
咲江は頬が少し赤らみ、「何よ、ふざけて」と恥かしそうに笑ったが、幸雄は嬉しかった。だが、「なんだよ、尾崎、いいじゃないか」と事情を知らない男性コーチ陣に言われると、耳まで真っ赤になり、とても顔を上げられなかった。
僕は一人になりたい
幸雄が誘われた時、金子コーチから「忘年会を兼ねたスキーだから」と言われたが、その通り、毎晩、食事の後は飲み会になった。だが、最終日となるとその気合の入り方が違う。
「今夜は徹底的に飲みましょう」と山本コーチが声掛けすると、「そうよね。帰ったら、子供を家に置いて、徹夜で飲み会なんて無理だもの」と、お母さんたちは最初からハイテンションだった。だから、話がまとまるのも早ければ、「山本さんの部屋に集合ね」、「買い出しに行きましょう」と行動に移るのも早い。
でも、幸雄は未成年。当然、参加してもジュースやコーラにお菓子。そんなもので、徹夜の飲み会など嫌だ。初日は大人たちの仲間に加えてもらった嬉しさもあり、午後11時まで付き合ったが、タバコ臭い上に、自分とは全く関係のない話を長々と聞かされ、二日目は苦痛にさえ感じた。だから、今夜は解放して欲しいと思っていた。
だから、金子コーチから「どうする?」と聞かれると、「僕は寝ます」と即答した。
「悪いな」と金子コーチが出て行ってしまうと、部屋は独りきり。
夜は長い。まずは風呂に入って、心身ともにリラックス。それから部屋に戻って、寝巻き代わりの浴衣に着替え、アダルトビデオのスイッチを入れた。
「お前なあ、高校生だろう」なんて今夜は言われないし、オナニーだって出来る。さあ、じっくり見ようかと布団に横になったが、気の緩みにスキー疲れが加わり、急に眠気に襲われ、そのまま眠ってしまった。
部屋には消し忘れたテレビから悩ましい音だけが響いていた。
(続く)
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