闇の男-第12話
日本の夜の世界を支配する男、武藤甚一(じんいち)と、それに立ち向かう元社会部記者、「ハイエナ」こと田村編集長らとの戦いを描く、官能サスペンス長編。
作家名:バロン椿
文字数:約3910文字(第12話)
管理番号:k077
※第12話が手違いにより先に第13話が掲載されてしまいましたので訂正いたしました。2021.1/31
浴室から出て、バスタオルを手にすると、そこに隠した筈のTシャツもショートパンツも無くなっていた。
代わりにあったのは、洗濯はしてあるが、穿き古したショーツだけ。
(逃げ出そうなんてしていないのに……)
徹底的に打ちのめされた美智代はそれを穿いて旅館の浴衣を羽織ったが、浴室から聞こえてくるシャワーの湯の音に、ふと、雄介のことが頭に浮かんできた。
体をじろじろと見ることもせず、まして乱暴なんてしない。
それどころか、困っていたところを助けてくれた。
本当は悪い子じゃないんだ……そう思うと、雄介に対する憎しみは薄れてきた。
しかし、座敷に戻ってみると、顔も見たくない二人が待っていた。
「おやおや、桜色で」
「すっぴんなのに、本当。美人は得ね」
西崎と茜だ。
少し遅れて戻ってきた雄介も、彼らを見て、顔色が変わっていた。
「さあ、飯にするか。座れよ」
「そうよ、こんなに待たせて。もう、お腹ペコペコ」
何を言われようとも抗えぬまま、二人は座卓に座らされたが、目の前に並べられた料理を見ると、急にお腹が空いてきた。
「大分の椎茸だ」
「さすが、絶品ね」
西崎と茜は一品、一品、そんな風に口に運んでいたが、昨夜から殆ど何も食べていない美智代は並べられた料理に次々と箸をつけていく。
雄介も同じ。
味わうより、空腹を満たす、そんな食べ方だが、それを「ねえねえ、見てよ」と茜は西崎に箸で指差し、嘲り笑った。
「ははは、いいじゃないか。やっぱり、食わないと、元気にならないからな」
「ふふふ、そうね。たっぷり食べてもらわないと、私たちが困るから」
彼らはいやらしく笑うが、美智代と雄介にはその意味を探ろうという気持ちは無かった。
二人が思っていたのは、ただただ食べて、何もかも忘れて眠ってしまう、それだけだった。
ところが、間もなく食事が終わろうという時、「遅くなってすまんな」とあの声が聞こえてきた。
美智代と雄介は緊張のあまり、箸を落としそうになった。
だが、西崎と茜も同じようなものだった。
彼らは箸を置くと、その場で居住まいを正し、
「あ、武藤先生、お待ちしておりました」
「す、すみません。勝手に始めてしまいまして」
としきりに頭を下げていた。
「まあまあ、そう堅くなるな」と「先生」は腰を下ろすと、グラスを手に取り、仲居が差し出すビールを受けていた。
そして、それをグィッと飲み干すと、「どうだ?」と下を向く美智代と雄介の顔を覗き込んでいた。
二人は、それこそ〝蛇に睨まれたカエル〟で、怖くて言葉が出てこないが、「先生」は、「いやいや、昨夜はあんな形で終わってしまい、どうしているかなと気になっていたんだ」と気遣うようなことを言ってくる。
美智代も雄介も、そういう時の「先生」がもっとも怖いことは身に染みて分かっている。
しかし、仲居にお代わりのビールを注がせながら、「美智代、娘に会いたいか?」、「川島、学校が心配だな」と、もっとも気になっていることに触れてくると、もう堪えられない。
「お、お願いです、娘に、娘に会わせて下さい!」、「学校に行かせて下さい!」と二人はその場に両手をついて懇願した。
だが、「先生」はそれに目もくれず、料理を口に運び、ビールを旨そうに飲んでいるだけ。
西崎と茜は姿勢を崩さず、事の成り行きを見詰めていた。
重苦しい空気が部屋を覆い、美智代と雄介は恐る恐る顔を上げた。
すると、目が合った「先生」はニヤッと笑った。
これを逃したら、もう娘と会えない、そう思った美智代は怖さも忘れ、「何でもします。何でもしますから、娘のところに帰して下さい」と「先生」に近寄った。
雄介もつられて「お願いします。僕も何でもしますから、東京に帰して下さい」と続いた。
すると、グラスを置いた「先生」は「そうか、何でもするか」と呟いた。
美智代は即座に「は、はい、何でもします」と、雄介も慌てて「僕もです」と答えたが、茜は「今さら何よ」と冷ややかだった。
西崎は「まずい」と彼女の袖を引いたが、案の定、「先生」は立ち上がると、いきなり茜の頬をバチンと張り飛ばした。
「いやっ……」
「あっ……」
美智代と雄介は悲鳴のような声が出てしまった。
「先生」の前で勝手に意見するのはご法度。
「決めるのは私だ」、それを改めて示すのに十分な行為だった。
茜は「す、すみません」と赤く腫れた頬を押さえ、西崎の後ろに退ったが、美智代と雄介は勿論、仲居も震え上がっていた。
「みんな、外してくれ」と「先生」が言うと、逆らう者等、誰もいない。
美智代と雄介を残し、西崎、茜、そして、片付けの残る仲居も部屋から出て行った。
すっかり静かになった部屋で、「先生」は残っていたビールをグラスに注ぐと、「そうか、何でもするか」と言って、そのグラスを美智代に差し出した。
美智代は一瞬戸惑ったが、「はい」と言って、それを受けると、グッグッと飲み干した。
「そうだ。お前は素直だ。なあ、川島」
矛先は雄介に向いたが、反射的に「はい!」と答え、背筋もピシッと伸びて正座になっていた。
「お前は美智代が好きだな?」
他に返事はない。
「抱きたいか?」
「はい」
「うん、分かった。美智代、お前はどうだ?」
「あ、私は……」
「どうした?嫌いか?」
そんなことを言える訳がない。
「いいえ」
「『いいえ』では分からん。好きか、嫌いか、はっきり答えろ」
「先生」が何を答えさせたいか、そして、何をさせたいか。それは、もうはっきりしている。
だから、ぐずぐずしていると、「先生」の機嫌を損ねて、振り出しに戻ってしまう。
由美ちゃんに会うためなんだから、と自分に言い聞かせた美智代は、「好きです、好きだから、雄介さんに抱いて欲しい。早く抱いて下さい」とはっきりと言った。
「ほう、そうか、抱いて欲しいか」
「は、はい」
「抱かれて、どうされたいんだ?そこをはっきり答えてくれ」
「あ、あ、あの、あのセ、セックス」
「川島とセックスしたいということだな、そうだな、美智代?」
「は、はい。川島さんとセックスしたい……です」
言わされた形だが、はしたないことを口にした美智代は顔が赤くなっていた。
「よし、じゃあ、向こうに行くか」と「先生」は立ち上がると、冷蔵庫から新しいビールを取り出し、それを持って奥の十畳間に移った。
二人が寝ていた布団は枕もシーツも真新しいものに替えられていた。
「見せてもらうか」と「先生」は布団の脇に座り、美智代はその前で浴衣の紐を解き、ショーツ一枚の姿で布団に上がった。
だが、雄介はビビッていた。
昨晩は服を切り裂かれて泣き叫ぶ美智代を見て興奮したが、人前でセックスするなど、とてもできない。
ペニスは勃起するどころか、怖気づき萎えている。
だから浴衣は脱いだが、オロオロしてパンツを脱げない。
「どうした、川島?」
「あ、いえ……」
「チンポが縮んだか?あははは」
「先生」はビールを片手に笑い出したが、いつ怒りだすか分からない。
雄介は「あ、いや、だ、大丈夫です」とパンツに手を入れ、ペニスを扱くが、焦れば焦るほど、うまくいかない。
「ははは、どうした?立ったか?」
「あ、いや、あ……」
「遠慮するな。なあ、美智代、川島のチンポが好きだよな?」と笑い、「しょうがねえな。美智代、口でしゃぶってやれ」とけしかけたっている。
美智代はフェラチオなどしたことはない。
そんなふしだらなことをと思ったが、美智代も雄介と同じ、「先生」が怒りだすことが怖い。
躊躇っている場合ではない。
彼のパンツを引き下ろすと、それをパクッと口に咥え、しゃぶって、しゃぶってひたすら扱く。
その度にジュポ、ジュポと口の中に溜まった唾が音を立てる。
生温かくて、おまけに唇や舌が亀頭を刺激し、雄介は「あ、あ、ああ、み、美智代さん……」と身悶え、たちまち、ペニスがグーンと伸び、硬くなってきた。
「ははは、いいぞ、美智代、上手いじゃないか」と喜ぶ「先生」は、「川島!」と大きな声を出し、「今度はお前が美智代を可愛がらなくちゃダメだ」と命じた。
どんな風に可愛がるか?頭に浮かんでいたのは性器を舐めて、仕上げにクリトリスをしゃぶって、舌で転がすことだった。
悦子でさえ、「逝っちゃ、逝っちゃう……」と叫んでしまう。
体を起こした雄介は美智代のショーツを毟り取ると、彼女の両脚を持ち上げたが、犯された記憶が蘇った美智代は怯えた目で「あ、いや……」と叫んだ。
雄介は一瞬躊躇ったが、これしか東京に戻る術はない。
股間に顔を埋め、美智代の性器に舌をあて、小陰唇の合わせ目に沿って這わせ、たっぷり湿ってくるまでそれを続けた。
すると、怯えていた筈の美智代の口が開き、「あ、あ、あっ、あああ……」と悩ましい声が漏れてきた。小陰唇の合わせ目も緩み、溢れ出た愛液でヌルヌルになっている。
美智代もいつの間にか雄介を受け入れていた。
そして、彼の舌がクリトリスに触れると、「あ、あ、いや、あ、あああ……」と声が一段と大きくなり、手は雄介の頭を掴んでいた。
(ほほう、本気になってきたか。たっぷりと楽しませてくれよ)
「先生」はニヤッと笑っていた。
二人の頭からは「先生」の存在は消えている。
雄介が顔を上げ、膝立ちになると、美智代も協力して脚を大きく開いた。二人は「東京に帰る」という意味で運命共同体。口にこそ出さぬが、目で互いの意思は分かっている。
雄介が反り返ったペニスを掴んで亀頭の先を濡れて口を開いた美智代の小陰唇に挿し込み、そのまま体を被せていくと、美智代はそれを迎えるように腰を浮かせ、雄介を抱き寄せていた。
(やったな。これでいい)
「先生」は飲みかけのグラスを置いたまま、そこから出て行ったが、美智代を抱く雄介は夢中で腰を振り、美智代は何かに取りつかれたかのようにその腰を抱き締めていた。
(続く)
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